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地下鉄という空間がまるで幻想世界のようです。


※短編映画です。

『白い少女』 La première nuit (1958年・仏)
白い少女
スタッフ
監督:ジョルジュ・フランジュ
脚本:レモ・フォルラーニ、マリアンヌ・オスワルド
脚色:ジョルジュ・フランジュ
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
撮影:オイゲン・シュフタン
編集:ジャスミン・チェスニー、アンリ・コルピ
キャスト
少年:ピエル・デイヴィス
金髪の少女:リズベート・ペルソン


 ジョルジュ・フランジュ監督作品「白い少女」。原題は「La première nuit」。原題を直訳するとpremièreは「初めての、一番最初の」といった意味でnuitは「夜」。つまり「初夜」といった感じでしょうか。

 ジョルジュ・フランジュ。初めて作品を観ました。どうやら摩訶不思議な作品が多い人ですね。日本での公開作品は決して多くはありません。この人で特筆するべきことは「シネマテーク・フランセーズ」というフランス政府が出資するフランスの映画保存・修復・配給のための施設を共同設立したという偉業でしょうね。この人なしにフランスの映画保存施設「シネマテーク・フランセーズ」はありえませんでした。

 ピエル・デイヴィス。何だか「オーメン」(1976年)の男の子のようで怖いです。この子役俳優の他の出演作品は「What a Flash!」(1972年)で端役で確認できます。作品内ではほとんど表情を変えず、ずっと無表情です。金髪の女の子のリズベート・ペルソンもほとんど無表情なのですが、魅惑的な笑いを浮かべてるんですね。








【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり



 朝。元気よく中学校に通学する子供達。車で送ってもらって通学している少年(ピエル・デイヴィス)は地下鉄の駅の階段を上ってくる金髪の少女(リズベート・ペルソン)を観て嬉しい気持ちになる。

 少年は少女が自分の車の横を歩いた時のタイミングを見計らって降りて少女の気を引こうとするが、少女は一瞬少年を見ただけで話しかけもせず学校へと入っていく。少年もその後ろをついて学校に入っていく。

 夕方。少女は下校し地下鉄の駅の階段を降りていく。それを道路から車に乗って少年が見ていた。少年は運転手が新聞を買っている隙に車を降りて、少女のあとをついて階段を降りていく。

 少女が乗った地下鉄は一足先に行ってしまった。少年はその次の地下鉄に乗り込む。

 どこかの地下鉄の駅で迷子になってしまい少女も見失ってしまった少年。少年は地下鉄が走らなくなる時間まで駅で徘徊していた。

 停止したエスカレーターで眠りにつく少年。



 やがて少年は立ち上がる。エスカレーターが動き出すが、少年は逆方向へと歩きはじめる。

 少年はホームにたどり着く。ホームでは地下鉄が通過していき、その地下鉄には金髪の少女だけが乗っていた。しかし金髪の少女はこちらに気づかないかのように、少年以外のものを注視していた。

 次の地下鉄がすぐにやって来た。今度は金髪の少女が少年に笑みを浮かべて少年を見つめている。少年は小走りして少女の乗る車両に追いつこうとするが、少女は笑いを浮かべるだけ。地下鉄はそのまま去っていく。

 少年は一人でベンチで頭を抱えていた。頭を上げた少年が見たものは、自分を見下げてニッコリと笑う少女。やがて少女は消滅する。少年はまた俯く。

 そこに、誰も乗っていない地下鉄が停車する。少年の目の前で開く地下鉄のドア。少年が乗るとドアが閉まり、少年以外の誰も乗っていないまま地下鉄は進む。運転席にも人はいない。

 やがて少年の乗った地下鉄の右隣に、少女の乗った地下鉄が合流する。少年と少女は視線を合わせる。やがて少女の乗った地下鉄は坂を上へ、少年の乗った地下鉄は坂を下へ進んでいった。少年は涙を浮かべる。



 少年の寝ていたエスカレーターが動きはじめた。少年はエスカレーターの上で起きる。下を見ると、通勤の人々がエスカレーターを上ってきていた。

 少年は駅を出て街を、それから公園を歩いていく。









 つまりこの映画でエスカレーターを逆行するところから始まり、不思議な感覚に包まれるシーンは、少年が地下鉄の駅で見た夢だったという訳ですね。

 この映画は少年を二点の点から描いています。まず少女を追いかけて“地下鉄の世界”という新しい世界にたどり着いた少年。想像力豊かな少年はこの新世界で色んな事を思って、不思議な夢を見ます。一点目は少年を、子供として描いています。

 二点目は、少女に振り向かれようと必死に気を引こうとしていることです。つまり少年を男として描いています。好きな子に振り向いてもらおうと登校のタイミングを合わせたり。それを女の子は現実でも夢の世界でもヒラリヒラリ避けています。そして夢の世界で自分に振り向いてほしい、と必死になる男の子を笑います。
 結局、地下鉄は男の子の手の届かないところへ行ってしまいました。男の子は自分の恋する人に手も届かなくて涙を浮かべます。それは異性を意識する人そのものです。

 この映画は男の子の求愛だったのだと私は思います。しかし私の考えが正しいのであれば、その求愛を地下鉄の世界で表現する発想はすごいものです。そして夢の中での失恋の後に、霧がかった公園を歩くのは、少年の成長を表していたのではないでしょうか。

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Category: 洋画サ行
貧しい家庭の切なさを訴えた映画です。

※無声映画です。

『夜ごとの夢』 (1933年・日)
夜ごとの夢
スタッフ
監督:成瀬巳喜男
原作:成瀬巳喜男
脚本:池田忠雄
撮影:猪飼助太郎
衣裳:松下松之助
詞:久保田宵二
音楽:古賀政男
キャスト
おみつ:栗島すみ子
水原:斎藤達雄
隣人:新井淳
隣人の妻:吉川満子
船長:坂本武
女将:飯田蝶子


 成瀬巳喜男監督作品「夜ごとの夢」。

 成瀬巳喜男監督はこれで鑑賞二作品目です。一作品目は「稲妻」。淡々とした進行で男に翻弄され壊される家族。だけど、最後に母娘の和解を持ってくるあたり希望を思わせる映画でした。この「夜ごとの夢」は逆です。家族の愛は温かいものでしたが、その家族を取り巻く貧しさというものはあまりにも切ない。そして切ないまま終わっています。しかしどちらの作品でも一貫して家族を中心に物語は進んでいきます。

 主演は栗島すみ子。「淑女は何を忘れたか」(1937年)で小津安二郎、そしてまた斎藤達雄と組んでいます。1920、30年代のスター女優です。日本では当時、メアリー・ピックフォードと同じくらいの人気があったそうです。苦労娘の役がうまかったようですね。で面白いのが栗島すみ子は日本舞踊水木流家元水木歌紅でもあったほど舞踊がお得意だったんですが、今回の映画で女将役として栗島すみ子をこき使った飯田蝶子は舞踊のお弟子さんなんですね。役と裏側の立場が逆というのも面白いものです。

 斎藤達雄。小津安二郎によってヒットした日本のスター俳優。女優さんにモテモテな色男です。不気味さを減らした嶋田久作さんという感じです。「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」(1932年)、「足に触った幸運」(1930年)など小津安二郎の戦前作品がやはり代表作といったところでしょうか。

 この映画の時代背景には1929年の世界恐慌、更に30年の昭和恐慌などで国民生活が貧困に苦しめられていた時代です。だからこそ苦しめられる人々の訴えともいえるような映画が必要でした。


【あらすじ】

 酒場で女給として働くおみつは夫に捨てられ子供の文坊と二人暮らし。その美貌によって客からは人気の的だった。おみつは自分のことより常に文坊がよく育ってくれることを優先している。ある日、おみつの下に自分たち親子を捨てた水原という男が帰ってくる。水原は改心したようだったが・・・













【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり



とある港町。

 酒場の女給おみつ(栗島すみ子)が旅から帰ってきた。帰ってきて早々に、港で常連客の船員たち(大山健二、小倉繁)からタバコを貰う。船員たちから船で遊んでいくように誘われるが、話があるなら後で店に来ればいい、と言って遊覧船に乗る。

 おみつは乗り込んだ船で乗客から不潔な目で見られる。

 自分のアパートに帰ったおみつはたった一人の子供・文坊(小島照子)に迎えられる。おみつは旅の間、文坊を製薬会社に勤めるお隣さん(新井淳)とその奥さん(吉川満子)に預けていたのだ。

 文坊はお土産をねだるがおみつには、お土産を買えるような経済的余裕は無かった。代わりにおみつは、夜にお土産を持ってくると。約束する。

 お隣さんの部屋から帰ってきたおみつと文坊。文坊はおみつに甘える。

 お隣の奥さんによれば、おみつの留守中に見知らぬ男が二回も訪ねて来たらしい。男はおみつに会いたい事情があるようだ。

 おみつはお隣の奥さんに、坊やのためにも女給という世間では卑しい評価を受ける職業【※1】を辞めるよう忠告される。
※1】女給:カフェや喫茶店、バーなどで働く。今でいうウェイトレスというよりキャバクラ嬢のような職業。

 おみつは、この職業を辞めてしまったら簡単に新しい仕事を見つけることができない、と言う。消極的発言に対しお隣の奥さんは気力次第でどうにでもなる、と答えた。だがおみつに今の職業を辞める意志は無いようだ。

 次は結婚の話。しっかりした人と結婚するよう忠告する奥さんに対し、そんな男は私を見下すか私から逃げることしかできないわ、と嘲笑して答える。

 おみつは自分のことを軽く考えており、文坊さえしっかり育ってくれれば自分は地獄に堕ちようと何になろうと十分だ、と考えていた。

 おみつの悲しい覚悟にお隣の奥さんもいたたまれなくなる。文坊だけが無邪気に遊んでいた。

 夜。酒場で船員たちや、船長(坂本武)をはじめとする客たちの相手をするおみつ。女将(飯田蝶子)は、おみつが帰ってきたことで店が活気づいて喜んでいた。

 おみつは、店の中に入ってくる少年の姿を見て、お土産を買う金とお隣の奥さんに文坊を預かってもらった御礼のための金を女将に貸してほしい、と頼む。

 女将はおみつの母親としての気持ちを踏みにじる発言をし、おみつはあなたには母親の気持ちは分からない、と言ってしまう。女将は憤慨する。

 それを聞いていたお客の船長が自分が立て替える、と言ってお金をおみつに貸そうとする。もちろん船長にはおみつへの下心があった。

 夜遅く帰ってきたおみつ。仕事中はお隣夫婦に文坊を預けていたのだ。帰ってきて文坊にお土産を渡す。

 お隣の奥さんによれば今日も見知らぬ男がやって来て、今日は絶対に会わなければならない、と家で待っているようだ。

 おみつはお隣夫婦に旅で預かってくれていた御礼のお金を渡す。しかしお隣夫婦は月々貰っている月謝すら申し訳ないからこれ以上受け取れない、とおみつに返そうとする。おみつは自分と文坊の顔を立てるためにも貰ってほしい、と半ば無理やりに渡した。

 お隣から家に帰ったおみつ。家の中で待っていたのはおみつの夫で、三年前におみつを放っぽり出してどっか行ってしまった文坊の父親・水原(斎藤達雄)が待っていた。

 おみつは水原を憎んでおり恨み言を吐く。水原は自分でも三年前のことを後悔していた。だが罵られると分かりながらもやって来た自分の気持ちも理解してほしい、とも言う。

 でもおみつは水原のことを許せないので冷めた態度で接する。さっさと追い返そうとするおみつだが、水原は短い期間でいいから文坊の父親にさせてほしい、と頼む。水原は自分の子供に会いたかったのだ。

 そこへ文坊も帰ってくる。水原は文坊に触れようとするがそれをおみつが止める。意気消沈し帰ろうとした水原をお隣夫婦が止める。

 水原の帰りを止めるお隣夫婦に、水原は親子を見捨てた男で親子の敵だ、とおみつが言い水原を帰すように言う。

 お隣さんは強情張りはよくない、とおみつを説得。水原も坊やの顔が見れただけでいい、自分が居ると他人を不幸にする、と言ってアパートを去っていった。

 おみつは去っていく水原を追いかけ、彼を引き止めるのだった。


 おみつの家に友達(澤蘭子)が来ていた。おみつは水原への憎しみも薄れていた。水原は文坊の育児をしっかりとしていた。だが水原は新たな仕事を見つけられずにいる。

 お隣夫婦は水原のことを会社に紹介するほど、おみつと水原、文坊に優しくしてくれる人たちだった。

 水原はもし自分が定職にありつけたら、おみつに女給の仕事から足を洗うように言う。おみつはそれに応じる。

 おみつは家族三人でいられるこの状況が嬉しくて仕方ない。

 だが、お隣さんが水原を紹介した製薬会社は人手がいっぱいだ、として断られてしまう。水原は仕事にありつけずにいた。そんな水原にとって自分に懐いてくれる文坊は心の支えでもあった。

 文坊と遊んだ帰り道、水原は工場の職工見習を募集する張り紙を見つける。

 夜の店では客の船長がおみつに金を貸したのをいいことに、半ば無理矢理におみつに自分の相手をさせていて、船長は他の船員の客や女給から嫌われる。

 体格の良い船長のおみつを独占する勝手な振る舞いに、他の客も苛立つがそれを見て見ぬふり。

 そこへ水原が駆けつけ、おみつと船長を引き離す。無理矢理にでもおみつを自分のものにしたい船長は水原を突き飛ばすが、その乱暴な振る舞いに女将にも止められる。

 おみつは嫌になり店を水原といっしょに出て行く。水原はおみつに女給を辞めてくれ、と頼む。しかしおみつは今、水原が自分たちを養うのは不可能なのだから、文坊の将来のためにも自分が稼ぐしかない、と言い返す。

 水原はしばらく考え、自分が仕事を選ばないで働いて養う、と決意。おみつはその言葉を聞き、自分も世間の母並のちゃんとした母親になりたい、と水原に本音を打ち明ける。

 しかし脆弱な体つきの水原は職工見習の面接で面接官(大邦一公)によって落とされてしまう。

 女将はおみつに、船長を不機嫌にさせたら店にも影響が出るとして、船長の相手をしてほしいと家に押しかけてきていた。おみつは船長のことは自分で何とかする、と女将に宣告する。

 沈み込んだ水原は帰途の途中で、文坊が友達たちとボール遊びをしているのを観る。

 帰宅した水原。水原は自分が面接に落ちたことを明かし、自分はここに居るべき存在ではないのかもしれない、と漏らす。おみつは弱気な水原を叱咤する。

 おみつは今は文坊は食べて成長しなければならない、そのための金を工面するので精一杯だから世間体は気にしてられない、と話す。

 その時、子供たちがやって来て文坊が車に轢かれた、と知らせに来た。


 医者(仲英之助)の診断で命に別状はないが腕の傷が元に戻るかは分からない、という。

 水原とおみつは懸命に文坊を世話する。おみつは女将に相談してくる、と店に行こうとするが水原が止める。

 水原は自分が友達のところを回って金を工面する、と言う。

 しかし水原にそんなアテはなく、強盗をしてしまう。だが警官に見つかり発砲され腕を負傷する。

 水原は警官のウヨウヨする夜の町を逃げ回る。そしておみつのアパートまで逃げ帰りおみつの部屋の前の水道で傷口を洗おうとする。

 それをおみつが発見。おみつは水原を家の中に入れて文坊の介抱をするように頼む。

 水原はおみつに奪ってきた金を渡す。おみつはその金によって水原が何をしたか察知し、坊やの父親を前科持ちにしてしまった、と水原を責め立てる。

 すやすや眠る文坊を見つめる水原。すると文坊が起きて水原にお土産をねだった。

 水原は盗んだ金の一つを文坊に渡し、その金で母に買ってもらいなさい、と優しく言う。

 水原は警察のバイクが近くに止まったのを音で気づく。おみつは水原に自首することを懇願する。出所してからまた仕事を探せばいい、とおみつはかすかな希望を込めて言う。

 水原はおみつに金を渡そうとするが、おみつは受け取らない。水原は文坊のどこに行くの、という質問に答えず、文坊のことをおみつに頼み家を出ていった。


 翌日、おみつはお隣さんから水原が水に飛び込んで自殺した、ということを聞かされる。

 慌てて港に駆けつけるおみつ。水原は死んでしまった。

 おみつは刑事(西村青児)から水原のおみつ宛の遺書を受け取る。

─俺なんかどうせ
 死んでしまった方が
 いヽ男なんだ
 坊やを呉々(くれぐれ)も
 頼むよ

 おみつは手紙をぐしゃりと握り締め走って家に帰っていく。

 帰り道、おみつは船長と遭遇。ニヤニヤ笑いながら水原の死を憐れむ素振りをする船長におみつは頬を叩いて離れていった。

 家に帰ったおみつはクシャクシャの遺書を歯で噛み締めて破る。そしてその遺書を蹴り捨てる。

 弱虫!意気地なし!死ぬなんて!世の中から逃げ出すなんて!それが男のやる事かい!

 じっと母を見つめる文坊は父の居場所を尋ねる。おみつは頬を文坊の頭に寄せて嗚咽しながら願いを込める。

 坊やは強いんだね。坊やだけはきっと強くなっておくれ。








 私はこの映画を観てると「自転車泥棒」(1948年)を思い出します。親子の絆、貧しさの切なさ、そしてその行き着く先は人の道から外れること、道から外れた後に託される子供の強さ。「自転車泥棒」よりも「夜ごとの夢」の方が前の作品なので参考にした、という事は無いですけれども、あの「自転車泥棒」という映画を観て感じる辛さがこの映画でも感じました。

 成瀬は作中に海を出すことが多い人らしいのです。この映画で“海”が果たす役割は景色であり、水原は現実世界いわゆる世の中からの逃げ道として使いました。おみつはその逃げ道に逃げてしまった水原を憎み、最後は子供に全てを託します。この映画の海というのは、人々が世の中から逃げたくなり、逃げた先にある夢なのでしょう。
Category: 邦画ヤ行

望郷

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私はこの映画を恋愛映画とは観れません。邦題のせいでしょうかね。
ちなみにこの映画は現時点で洋画の中で4番目に好きな映画です。


『望郷』 Pépé le Moko (1937年・仏)
望郷
スタッフ
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
原作:アンリ・ラ・バルト「ペペ・ル・モコ」
脚本:アンリ・ラ・バルト、ジュリアン・デュヴィヴィエ、ジャック・コンスタン(脚色)、アンリ・ジャンソン(台詞)
製作:レイモン・アキム、ロベール・アキム
音楽:ヴァンサン・スコット、モハメド・イグルブーシャン
撮影:マルク・フォサール、ジュール・クルーガー
編集:マルグリット・ボージェ
製作会社:パリ・フィルム
キャスト
ペペ・ル・モコ:ジャン・ギャバン
ギャビー:ミレーユ・バラン
イネス:リーヌ・ノロ
スリマン刑事:リュカ・グリドゥ
カルロス:ガブリエル・ガブリエオ
親父さん:サテュルナン・ファーブル
タニア:フレエル
レジス:フェルナンド・シャルパン
ピエロ:ジルベート・ジル


 ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作品「望郷」。原題は「Pépé le Moko

 原題は主人公の名前になりますね。ペペ・ル・モコ。ジャン・ギャバンが演じています。

 ジュリアン・デュヴィヴィエ監督。この方は日本で大人気のフランス映画の監督さんです。戦前とかは国内よりもむしろ日本の方がファンが多かったみたいですね。この人の作品はしっかりと観たのは初めてでした。他にも「舞踏会の手帖」(1937年)とか「にんじん」(1932年)とか名前は知っている作品がありますね。観てなくても、これから観ればいいんです。

 製作のロベールとレイモン兄弟。ロベールがレイモンの2歳上のお兄さんです。この人たちはなんと「太陽がいっぱい」(1960年)の製作も手がけた方たちだったとは知りませんでした。二人はエジプト生まれの兄弟でパリ・フィルムを起業してロベールは「南部の人」(1945年)でハリウッドでも製作することに成功してますね。

 主演はジャン・ギャバン。大好きな俳優さんです。「大いなる幻影」と同時期の映画ですね。年を取っていくほど「地下室のメロディー」(1963年)などで物凄い貫禄をつけていきますね。でも私はこの頃のギャバンも大好きです。

 ギャバンの相手の恋人役はミレーユ・バラン。この人の他の作品はあまり日本で馴染みがないですね。「ドン・キホーテ」(1933年)とかでしょうか。イタリア語が流暢な女優さんで、モナコ人のお父さんとイタリア人のお母さんのハーフです。

 この映画は詩的リアリズムの代表と言われてます。詩的リアリズムというのは現実っぽさと感情が同居し、ある物事を隅から隅まで鋭く見渡すと同時に描写が繊細、といったことを言うようです。で、その詩的リアリズムの映画というのは大体がドラマチックで、大掛かりな撮影セットで作られる映画だそうです。でもあまり定型化してる訳では無いのですけれども。

 舞台はアルジェリアの首都アルジェのカスバ。この旧市街は1992年に世界遺産に登録されてますね。この街がこの映画で卑しい街のような扱いを受けたもんだからアルジェリアの映画人はみんな不満だったようですね。


【あらすじ】

 アルジェリアのカスバの町。ここに大強盗などを繰り返したペペ・ル・モコという犯罪者が潜んで暮らしている。現地警察はカスバの迷路のように入り組んだ町に苦労しペペを捕まえることは出来ない。しかしサリマン刑事はパリから来た貴婦人を利用しペペをカスバの外に誘き出そうと考える。













【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり


アルジェリア・首都アルジェ

 アルジェ警察署ではパリ警察からの応援に来たジャンヴィエ刑事(フィリップ・リシャール)に対しアルジェ警察のムニエ刑事(レネ・ベルジュロン)がペペ・ル・モコ(ジャン・ギャバン)が簡単に捕まらない理由を説明していた。

 ペペ・ル・モコという男は南フランスでどでかい銀行強盗をしてアルジェのカスバという町に逃げ込んだ。ペペの逮捕に手を焼く理由は一つ。アルジェ警察署のルーヴェン署長(ポール・エスコフィエ)はその理由がカスバという迷宮のように入り組んだ町にある、と話す。

 カスバというのは上から見渡せば迷路のようで、アリの巣のように入り組んでいる。段々畑のような階段状の街。そして街は海を見下ろしている。曲がりくねった路地が複雑に交差し、引っ越してきた人は覚えるのに一苦労。

 路地は所々で丸天井に覆われている。悪臭の漂う路地や急な段差の階段に泥で汚れた玄関には虫が集っている。薄暗がりで混み合ったカフェ、人通りがなく適当につけられたような妙な名前の路地。

 そんな混み合ったカスバの街には4万人が暮らしている。生息人種は多種にわたり、よそから来た種族、元々居座っている種族などなど。他にもカビル人【※1】、中国人、ロマ人【※2】、国籍の無い人間、スラヴ人【※3】、マルタ人【※4】、黒人、スペイン人、シチリア人【※5】などなど。
※1】カビル人:アルジェリア北東部で暮らすベルベル人のグループの一つ。イスラム教は受け入れたが、アラブ人と混血しアラブ化するのを拒んだため、他のイスラム教徒から異端扱いされ迫害を受ける。有名人では沢尻エリカの母やサッカー選手のジダンなど。白い肌とグレーがかった青い目が特徴。
※2】ロマ人:ジプシーと呼ばれる人々の内、北インドのロマニ系から由来して北東欧で暮らし始めた人々のこと。定住生活者も居るが、ヨーロッパ人から①白人ではない②個人主義で地域に適応しようとしない③流れ者の民族④キリスト教徒でない、という理由などで嫌われるため、放浪者となることが多い。有名人ではユル・ブリンナー(世界ロマ連盟の初代会長)、チャーリー・チャップリン。
※3】スラブ人:中欧・東欧で多く暮らすスラヴ語を話す民族たち。東スラヴ人と西スラヴ人、南スラヴ人に分かれる。有名人はプーチン露首相、ゴルバチョフ露書記長など。
※4】マルタ人:フェニキア、ローマ、アラブ、ノルマン(シシリー)など色んな人種の混血。時間にルーズでせっかちなのが特徴。ほぼローマカトリック信者。
※5】シチリア人:イタリア・シチリア島とその周辺の島に住む地中海人種。また、アメリカに移民した人たちもいる。

 娼婦も多様な人々がいる。長身、太っちょ、少女、老婆、型くずれの服を着た女、巨体女。

 家には常に風が吹いている中庭があり、人々の話し声と風のざわめきが響きあう。そして各家はテラスで繋がっている。テラスは地元の女性の聖域となっているが、よそ者も入れてしまう。

 このテラスが段々に下って海辺まで続いていく。そしてカスバは時折平穏、賑わい、怒号で包まれるなど顔を切り替えていく。そんな街がカスバでここにペペが潜伏している。

 ペペは手下に守られていて、情報はテラスを伝って駆けめぐる。ほとんどの屋根に見張りがいて突入時もすぐに情報が伝わってしまう。いつも砲火の犠牲に合うのは警察だ。

 そこへスリマン刑事(リュカ・グリドゥ)が入ってくる。スリマンは毎日ペペと会って話をしている。スリマンによればペペという男はニッコリと笑う笑顔が味方と女を惹きつけ、敵は背中から殺す、という油断ならぬ男だった。

 なぜ逮捕しないのか、と憤慨するジャンヴィエ刑事に、スリマンはカスバでぺぺを捕まえようとしたら彼らの仲間に殺されてしまう。今はペペがカスバから出る時期を待っている、と答える。

 アルジェ警察は機動隊を率いてペペ・ル・モコをカスバで捕まえる作戦に出る。

 話題となっている男ペペ・ル・モコは盗んだ真珠などを、親父さんと呼ばれ慕われる男(サテュルナン・ファーブル)に鑑定してもらっていた。ペペの商売仲間のカルロス(ガブリエル・ガブリエオ)が鑑定を急かすのを、ペペと親父さんが咎める。

 ペペは側近の手下に、スラヴ人でいつもニッコリしているマックス(ロジャー・ルグリ)、けん玉をいつもしているジム(ガストン・モド)、まだ青くて若いピエロ(ジルベート・ジル)がいる。

 カスバにアルジェ警察の機動隊が押し寄せて来た。カスバ内で情報はあっという間に広まる。

 突入を聞いたレジス(フェルナンド・シャルパン)はペペの愛人であるイネス(リーヌ・ノロ)に情報を伝え、ペペが今どこに居るのか聞く。イネスは親父さんの所に居る、とレジスに教えテラス伝いにペペに情報を伝えに行った。

 レジスはペペの家に居た。レジスはペペが現在、親父さんの所にいることを警察に知らせる。レジスは警察のスパイだったのだ。

 爺さんの家が警察に囲まれる。ペペはレジスが自分を警察に売ったのだ、と確信。逃亡を開始し道中で、警察官たちと銃撃戦を始める。

 パリから来た貴婦人のギャビー(ミレーユ・バラン)は銃撃戦に巻き込まれては危ない、とサリマン刑事に近くの家に避難誘導される。

 銃撃戦で腕を撃たれたペペはイネス達に撤収を命じる。ペペらはテラス伝いに撤収を開始した。

 ギャビーは警察たちが目の敵にするペペ・ル・モコという男に興味を抱く。ペペは今は情婦イネスの下で暮らしているのだ。

 そこへ偶然、ペペが入ってきた。ペペはギャビーの身に付ける沢山の宝石が気になる。ペペとサリマン刑事は話が合うが、サリマンは自信を持ってペペをカスバの外に誘き寄せ、自分が必ず捕まえる、と宣言する。ペペとサリマンは捕まるか捕まらないか、の賭けをするという不思議な関係だった。

 ペペが去ったあと、サリマンはギャビーにペペを逮捕する準備は出来ている、と自信満々に答えた。


 結局、警察のガサ入れは大失敗に終わった。スパイのレジスは自分に妙案があると提案する。ペペが気に入っている新米のピエロを町の外に誘き寄せ捕まえれば、ペペは町を下りてくる、というのだ。

 ピエロを町の外におびき寄せるためにはどうするか。ピエロは母親思いで、もし母親が病気だと思ったら心配でカスバを下りてくるに違いない、とレジスは言う。

 そこで母親の身を案じるような不安にさせる手紙をピエロに送ればいいのだ。手紙を渡すのは同じくスパイでアラブ人のアルビ(マルセル・ダリオ)。署長はその作戦に乗ることに決めた。

 ペペはカスバと情婦イネスにいい加減飽きていて、二人は口論になる。

 イネスの家を出たペペはサリマンとカスバの中を歩く。ペペは、ギャビーという女のことがどうも気になっているようだ。

 レジスは早速、ピエロに罠をかけていた。ピエロは、母に旅費を送ったのに返事が来ないことを不安げにしていて、それをレジスが酒場で励まし信頼を得ている。その酒場では親父さんとカルロスがカードゲームをやっていた。

 その酒場にペペがやって来る。ペペは酒場の二階でカードゲームにふける親父さんとカルロスのカードゲームに混じる。嫌われ者のレジスは酒場を追い出される。

 出る直前にピエロが愛人のアイシャ(オルガ・ロルド)から手紙を受け取っていた。その手紙はアラブ人のアルビによって届けられたものだった。

 手紙は母親からで、レジスはその手紙を受け取り、内容を確認するようにピエロから頼まれる。それを遠くから見ていたペペはレジスは信用ならない奴だから関わるな、と釘を刺す。交友なんて自分の自由だ、というピエロをぶって忠告を素直に聞き入れさせようとする。

 酒場を出たピエロにレジスは、もしかしたらピエロの母は病気かもしれない、と不安を煽る。レジスはピエロに街から下りて母の泊まる宿へ確認しに行くよう忠告。レジスはピエロに同行する、と一緒に町を下りていった。それをアイシャが見ていた。

 サリマン刑事はホテル・アレッティのレストランでギャビーたちと同席することになった。ギャビーは酒商のマキシム・クリープ(シャルル・グランヴァル)の付き添いでアルジェに来ていて、その友達のグラヴェール(ジーン・テメルゾン)、ベルティエと共に食事を楽しんでいた。

 ギャビーはペペ・ル・モコに興味津々で、その日の夜も再びグラヴェール、ヴェルティエと共に行く計画を立てる。そして案内兼護衛役はサリマン刑事。

 アイシャは夜になってもピエロが帰ってこないことを不安に思い、レジスを問いただすがレジスは町の外で別れた、とぶっきらぼうに答える。

 不安が強くなるアイシャはペペや親父さんにピエロが居ないことを相談する。レジスといっしょに町を下りたことを聞いたペペは酒場でレジスを捕まえ、倉庫に連行してレジスを取り囲み、ピエロが帰ってくるまで待つことになる。

 レジスはペペらに威圧をかけられビクビクしている。ペペはイネスにピエロを探してくるように命じる。

 探しに出かけたイネスはサリマンと遭遇する。サリマンはイネスにギャビーを紹介。ペペにゾッコンになった女だ、と紹介しイネスは嫉妬に駆られる。

 サリマンたちはペペがいる酒場を見つけて入っていた。ペペはギャビーと再会。カルロスはギャビーの身に付ける沢山の宝石に注目しペペに盗むように言うが、ペペはそれを断る。

 ペペはギャビーを誘ってダンスをする。ダンス中、初めてギャビーの名前を聞き、ギャビーがペペと出身地が近いことを知る。良い気分になりキスをしようとするがギャビーに断られる。

 テラスへ連れて行こうとしたが友達に探される、とギャビーは断り明日また会う約束を取り付ける。それを見てイネスはまたしても嫉妬に駆られピエロ捜索を中断したことをペペに言う。

 そこへピエロが腹部を撃たれながらもなんとか帰ってきた。ペペはカルロスと共にピエロの体を支えて、ピエロに拳銃を持たせレジスを撃ち殺させようとする。

 ピエロはレジスを撃とうとした寸前で息絶えてしまい、代わりにカルロスがレジスを撃ち殺した。店の中は騒ぎが起きて、ギャビーたちも居なくなってしまう。

 町を出れないペペはピエロの葬式にすら出れなかった。ペペはカスバの町への嫌気が限界にまで達しかけていた。サリマンはそんなペペにギャビーが騒ぎはゴメンだからもう来ないと言っていた、とウソで煽り立て、ついにペペは親父さんたちが止めるのも構わず、一人でカスバを出ようとする。

 サリマンの知らせによりカスバの出口が警察官たちで封鎖される。カスバの出口が近づいてきたとき、イネスが追いついてギャビーという女は家に来ている、とペペに教える。

 ペペはすぐに家に行くが中にはギャビーは居ない。止めようとしてイネスが嘘をついたのだ。ペペは冷静さを欠いた自分を許してほしい、とイネスに謝り、彼女を責めなかった。

 飲みに出かけたペペはギャビーが来ているのを見て驚く。そして二人でペペの知り合いの家に入って逢引を楽しむ。それを遠目でサリマンが見ていた。サリマンはペペを探すイネスにギャビーと一緒だ、と知らせる。

 ペペはギャビーに自分が惚れ込んだことや、ギャビーの匂いはパリのメトロの音やカフェオレの匂いが思い出される、とギャビーの着飾った絹のドレスや宝石ではなく、彼女の懐かしい匂いに惚れ込んだ、と打ち明ける。

 ギャビーは明日も会う約束を取り付けるが、ペペが出たくても出られない状況に納得できないことを示す。だがペペはギャビーに何かあれば必ず町を出てでも会いにいく、と。

 翌朝、ペペはギャビーと会う約束を取り付けご機嫌でテラスで歌を歌う。道行く人々がペペの歌に聞き惚れていた。サリマンはペペが今日、デートをすることを確信しペペに探りを入れる。

 その後、サリマンはギャビーの連れであるマキシム・クリープにギャビーがカスバでペペ・ル・モコと逢引を重ねていることを報告し、彼女を帰国させるように促す。

 ペペはギャビーを迎え二人で夕食を摂る準備を整えていた。一方のギャビーはマキシムに足止めを食わされていたが、マキシムなどもはや相手にもせず、ペペの下へ向かっていく。マキシムに貰った宝石も置いていこうとしたが、宝石は手切れ金としてやっぱりギャビーは持っていく。

 しかしホテルを出ようとしたところでサリマンに止められる。サリマンは、ペペがムニエ刑事に正当防衛で射殺された、と嘘の情報をギャビーに話した。ギャビーは結局、マキシムによってその日の船に乗せられアルジェを去ることになる。

 食事の準備をしていたのにいつまで待っても来ないギャビー。ペペは意気消沈していた。それを見かねたカルロスが共同でカスバを脱出する計画を企てようと誘ってくる。

 下見のためにもカスバを出て行こうとするカルロス。ペペは脱出計画に同意し、カルロスにギャビー宛の手紙を渡してほしいと頼む。そして返事ももらってほしい、と頼んだ。

 ペペはカルロスの妻タニア(フレエル)の家でカルロスの帰りを待っていた。しかしいつまで経っても帰ってこない。タニアは心配しつつもその不安を和らげるべくかつて歌手時代に歌った歌のレコードをかける。

 ニューヨークに夢憧れていざ暮らしてみても必ず成功するとは限らない、といった内容の歌だった。それを聞きながらタニアは昔良き時代を思い出す。

 そこへイネスとアルビがやって来る。アルビはカルロスが捕まって、手紙を代わりにギャビーに渡した。ギャビーは監視されて動けないのでホテルの裏口から入ってくれ、という伝言を受け取った、という知らせをしにくる。

 しかしペペはアルビが警察のスパイだと知っていて、それはワナであることに気付きアルビに暴力を振るって真実を話させる。やはりアルビが言ったことは罠でサリマン刑事がペペは死んだと嘘をついてギャビーを10時出発の帰国の船に乗せた、と言う真実をアルビは打ち明けた。しかしカルロスが捕まったのは本当のようだ。

 ペペはまずイネスにアルビを見晴らせるための仲間を呼んでこさせてから、自分は服を着替える。イネスは自分を捨てないで、と訴えるがペペはカスバのせいなんだ、と申し訳なさそうに言い家を出る。

 ペペは何にも構わずカスバの階段を下りて海に、港に向かっていく。ついにはカスバを出てタクシーに乗り込んだ。

 イネスはタクシーでホテル・アレッティに来ていた。ペペが来ると踏んでいたサリマンは驚くが、イネスはペペが港へ向かったことを打ち明けてしまった。イネスは港についてからペペに行かせてあげて!とサリマンに訴えるが、サリマンは聞かなかった。

 港に着き船に乗り込んだペペ。窓ガラスの向こうの部屋にギャビーを発見するが後一歩のところでサリマン刑事に捕まってしまう。

 パトカーに連行されるペペはイネスと視線を合わせる。

 パトカーの前。港の出入り口の門が閉められている。ペペは船を見つめ、逃げはしないから門のところで船を見送らせほしい、とサリマンに頼む。サリマンはペペが義理堅い男だと知っていたので承諾した。

 ペペは両手に手錠をはめられ、出港する船を見つめる。一方、ギャビーも船のデッキに出てカスバの街を見つめる。

 ペペはギャビーに気付くだろうか。大声で愛する女を呼ぶ。
「ギャビイイイイイイイイイイ!」

 しかし船の出港の汽笛がその叫び声をかき消し、汽笛の音を煩わしく思ったギャビーは船の中に戻ってしまった。

 声の届かなかったペペは涙を浮かべながら胸ポケットに隠していた小さなナイフで自らを刺した。倒れ息絶えるペペ。それを見つけたイネスはごめんねペペと泣き叫んでいた。

 船は何も知らなかいかの如く出港していった・・・









 この映画についてこれから邦題「望郷」に絡めてお話しましょう。

 まずペペ・ル・モコという男はカスバでなんでも手に入れることができます。酒、女、地位、金。しかしペペが一番に望むものはカスバからの脱出でした。カスバに飽き飽きしてました。

 そんな時、ペペはギャビーという同郷の女と出会います。最初は彼女の身に付ける宝石に憧れました。カスバの町では宝石で食っているギャビー。つまり宝石とはギャビーにとってカスバの象徴です。

 ところがペペはギャビーの宝石なんて、いりませんでした。ペペはギャビーという人間が欲しかった。ギャビーは故郷の象徴です。美しい外見よりも内面から溢れる“故郷のニオイ”にゾッコンになりました。

 ペペは故郷を求めます。故郷の象徴であるギャビーを求めます。しかしカスバの街はそれを許しませんでした。ギャビーは帰国してしまう。実はギャビーがマキシムから貰った宝石を一度、マキシムに返すんですが手切れ金として再び持って行ってしまう。この瞬間に運命は決まっていたんですね。

 宝石といえば、最初にペペが親父さんに真珠の鑑定を頼んだ時に「この真珠がまるで手に張り付いたように離れない」と真珠の美しさのあまり手放したくない、という気持ちを明かした言葉を放っているんです。ペペが宝石を愛したように宝石もペペを愛しました。まるで宝石に込められたカスバの呪い。

 それを知ったペペはもはやカスバの街など目もくれず、故郷への思いだけを背負って港へと向かいます。

 でも港で結局、船に乗って脱出は出来ませんでした。最後に自分の声は届くんじゃないか、とペペはギャビーに向かって叫びます。故郷を取り戻す最後の希望を込めて。

 しかし故郷は、残酷にも汽笛でかき消すことによってペペ・ル・モコを拒絶しました。ペペは涙を浮かべ、故郷を取り戻せなかった絶望から自殺してしまいます。

 というわけでこの映画は愛する女を手に入れることができなかった、という哀しいストーリーでもありますがペペにとって最も辛かったのは故郷を取り戻せなかったことではないでしょうか。望郷、という思いだけ抱きながらペペ・ル・モコという男は死んでしまいました。

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(1997/07/25)
ジャン・ギャバン

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Category: 洋画ハ行
オードリー・ヘプバーンとピーター・オトゥールの共演ですね。オシャレ二人組。


『おしゃれ泥棒』 How to Steal a Million (1966年・米)
おしゃれ泥棒
スタッフ
監督:ウィリアム・ワイラー
脚本:ハリー・カーニッツ
原作:ジョージ・ブラッドショウ「100万の盗み方」
製作:フレッド・コールマー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
撮影:チャールズ・ラング
編集:ロバート・スウィンク
配給:20世紀フォックス
キャスト
ニコル・ボネ:オードリー・ヘプバーン
シモン・デルモット:ピーター・オトゥール
シャルル・ボネ:ヒュー・グリフィス
デイヴィス・リーランド:イーライ・ウォラック
美術商デ・ソルネ:シャルル・ボワイエ
グラモント館長:フェルナンド・グラヴィ
パラヴィデオ:マルセル・ダリオ
警備責任者:ジャック・マリン
執事マルセル:バート・ベルトラム


 ウィリアム・ワイラー監督作品「おしゃれ泥棒」。原題は「How to Steal a Million

 原題を直訳すると「100万の盗み方」。100万ってのは映画見れば分かりますがオードリー・ヘプバーンの演じる貴婦人のお父さんが作った彫刻ですね。そのお父さんはヒュー・グリフィスが演じてます。で、ちょっと色々事情があってその彫刻を盗むことになるんですね。その盗み方っていうことです。

 ウィリアム・ワイラー監督。とっても有名な監督さんです。知らない人のために、「ローマの休日」の監督さんです。ワイラー監督を知らない人はいるかもしれませんが、ローマの休日を知らない人はまずいないでしょう。他にも「ベン・ハー」(1959年)や「大いなる西部」(1958年)、「我等の生涯の最良の年」(1946年)など挙げればキリがありませんね。

 製作のフレッド・コールマー。偉大なる映画プロデューサー、サミュエル・ゴールドウィンの秘書をやってました。自身も「アリゾナの決闘」(1948年)や「ピクニック」(1955年)などの製作を手がけています。サミュエル・ゴールドウィンに敵うほどの製作者ではないですけども。

 オードリー・ヘプバーンはもう語る必要もないくらい有名ですしピーター・オトゥールも前の記事「ラ・マンチャの男」でご紹介しました。そんな二人の共演作です。ちなみにヘプバーンはやっぱり「ローマの休日」でワイラー監督と組んでいました。

 二人はオシャレな洋服にオシャレな車に乗ってます。この映画は乗り物もオシャレですねえ。オードリーの愛車はイタリアの自動車ブランド、アウトビアンキの「アウトビアンキ・ビアンキナ スペシャル・ガブリオレ」です。ピーター・オトゥールは自動車ブランド、ジャガーの「ジャガー・Eタイプ」です。ついでにイーライ・ウォラックの乗った自家用ジェット機はブレゲー社の「ミスティア20」ですね。ブレゲー社は後にダッソー社に吸収されてしまいますが。

 イーライ・ウォラックのリーランド。「荒野の七人」(1960年)や「続・夕陽のガンマン」(1966年)でお馴染みのイーライ・ウォラックが演じる熱狂的なコレクターの役は予定ではジョージ・C・スコットがやる予定だったようですが撮影に一日遅れてワイラーにクビにされてウォラックになったようです。ジョージ・C・スコットはいい俳優ですが、オードリー・ヘプバーンにキスをするのは何だか想像できません(笑)

 オードリー・ヘプバーンがピーター・オトゥールに家に潜入された時にベッドで読んでいた本が「アルフレッド・ヒッチコック ミステリー・マガジン」というヒッチコック表紙の本でした。それを見てその小ネタに私笑っちゃいましたね。ヒッチコックは他人の映画でもカメオ出演しているのか、と。これもヒッチコックにギャラ払ってるんですかねえ。


【あらすじ】

 パリで仕事をする贋作職人の娘ニコルは父が絵の贋作を売って儲けているのを見て何とか父に止めてほしい、と願っていた。ある日、家に忍び込んできた泥棒さんとニコルは出会う。また、祖父が作った彫刻が父によって美術品に展示される。鑑定さえしなければバレることは無いだろうけども・・・















【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




フランス・パリ

 とあるオークション会場にて。競売人(ロジャー・トレヴィル)が出品されたポール・セザンヌの「デネモア夫人の肖像」という絵を紹介する。出品者は芸術品コレクターのシャルル・ボネ(ヒュー・グリフィス)。これが51万5千ドルというオークション最高値を出し、カーラジオでそのニュースを聞いていたニコル・ボネ(オードリー・ヘプバーン)は仰天する。

 ニコルは帰宅し執事マルセル(バート・ベルトラム)からシャルルが二階にいることを聞き二階に上がっていく。そして洋服ダンスの隠し扉からシャルルのアトリエに入り込む。

 アトリエではシャルルがゴッホの贋作を作っている真っ最中だった。もう贋作を売るのはやめて、というニコルのお願いだったがシャルルは贋作を売りつけることの正当性を主張する。

 そのとき、ボネ邸に警察隊がやって来る。慌てるニコルだったが、それは美術館の館長グラモント(フェルナンド・グラヴィ)と護送警護部隊だったのだ。

 どうやらシャルルが美術館にベンヴェヌート・チェッリーニが作ったとされるヴィーナス像を貸し与えるようなのだ。しかしそのヴィーナス像というのは祖母をモデルに祖父が作った像、つまり偽物の彫像だったのだ。

 何とかそのヴィーナス像の受け渡しを阻止しようと妨害するニコルとその妨害を阻止しようとするシャルル。何とか無事に受け渡され、グラモントは厳重な警護のもと美術館まで運んでいった。

 鑑定されたら一発で分かってしまう、と主張するニコル。しかし売りつけるわけでは無いのだから鑑定はされない、と楽観的なシャルル。

 夜。ヴィーナス像の展示会が開かれシャルルも招かれた。その展示会で、資産家で美術品コレクターのデイヴィス・リーランド(イーライ・ウォラック)はヴィーナス像を見つけ、会社にボネ家やシャルルの過去の出品品目を調べさせる。

 ニコルは自宅に一人残りベッドで「ミステリー・マガジン」なる雑誌を読んでいた。しかし何者かが邸宅に潜入した気配を感じニコルは階段を降りて拳銃を手にかける。電気をつけると、泥棒らしき男が壁に飾られている絵を盗もうとしていた。

 男はシモン・デルモット(ピーター・オトゥール)。シモンが盗もうとした絵画がゴッホ作だと偽ってシャルルの描いた偽物だったので警察を呼んで検査でもされたらたまったもんじゃない、とニコルは許すことにしたが銃が暴発してしまう。ニコルはシモンが流血したのを見て気絶する。

 目が覚めたあと、ニコルは拳銃がかすめたシモンの左腕の傷口の治療をしてあげる。シモンはニコルに自分の車を運転して泊まっているホテルのリッツまで送って欲しいと頼む。ニコルはそれに応じるが、ただのコソ泥が高級ホテルのリッツに泊まっていることに驚く。

 ニコルの乱暴な運転でリッツに着いたシモン。シモンはニコルの帰り用のタクシーを呼ぶ。ニコルが乗り込む前にシモンはニコルに盗もうとした絵の額縁に触れた手の指紋を拭き取ってほしい、と頼む。

 図々しい、次はキスでも頼むつもり?と皮肉を言うニコルにシモンは本当にキスをしてしまった。

 ニコルの乗ったタクシーが去ったあと、シモンはボネ邸の絵画から抜き取った繊維のようなものを顕微鏡などでじっくりと観察していた。

 帰宅したニコルは父シャルルに先ほど起こったったことを全て話す。ニコルはシャルルに自分が何もされていないことを説明し、シモンの言われた通りに額縁の指紋を拭いてから寝てしまった。

 翌朝、ニコルは美術館で飾られている彫像を見ていた。そのニコルにシモンが話しかけてきた。シモンは彫像のセキュリティについて気になりグラモント館長から警備についての説明を受ける。

 どうやら彫像の周りに赤外線センサーがあるようで、センサーが反応すると警報が鳴る。センサーの電源は警備室にあるようだ。帰るとき、ニコルはシモンが重大な話がある、というのも聞かずに帰ってしまう。

 シモンは美術商のデ・ソルネ(シャルル・ボワイエ)にボネ邸に潜入して調べたゴッホの絵が本物だった、とウソをつく。デ・ソルネの依頼でボネ家の絵が贋作でないだろうか、と疑われてシモンは調べていたのだった。シモンはニコルも共犯者だったのだろうか、と気になる。

 ニコルはアメリカの企業の社長であるデイヴィス・リーランドからお食事に誘われていた。デイヴィスはかつてシャルルからアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックが描いたという贋作を購入したことがある。ニコルはそのことをシャルルから聞かされもしかしたらデイヴィスは絵が贋作だと気づいて探りを入れてきたのでは、と不安になる。

 いざお食事の時。デイヴィスはニコルから真意を打ち明けるように言われ、打ち明けようとした矢先に本社から電話がかかってくる。

 デイヴィスが退席した間にシモンがニコルに話しかけてきた。どうやらデイヴィスが本社から呼ばれた電話というのはシモンがかけた偽電話のようだ。シモンはニコルに大事な用件を話そうとするが、短気なデイヴィスはすぐに帰ってきてしまい今度会う場所として自分のホテルの部屋を教えて去っていった。

 帰ってきたデイヴィスは今回の食事の真意を打ち明ける。どうやらデイヴィスは美術館で展示されているチェッリーニのヴィーナス像に一目惚れしてしまい、何としても入手したいがために展示期間が終わってから手元に帰ってくるシャルルの娘ニコルと接近したかったようなのだ。

 ニコルはデイヴィスがシャルルの作品が贋作だと疑っていたわけじゃないのか、と安堵する。

 ニコルはシャルルにこのことを報告する。丁度そのタイミングで美術館館長の代理として保険署名証を持った男(エドワード・マリン)がやって来た。どうやらヴィーナス像に保険をかければ紛失・災害で倒壊など寄贈主の下に帰ってこない事態が発生した場合に署名すれば100万ドル入ってくるのだという。

 喜んで署名するシャルル。しかしその保険に署名してしまったことでヴィーナス像が鑑定に出されることが決まってしまった。シャルルとニコルは動揺する。しかも鑑定学の第一人者が鑑定することとなり、鑑定されれば一発アウト。シャルルはニコルを自分に巻き込まないようにアメリカへ逃亡させようとすらする。ボネ家、万事休す。

 悩んでいると、南米からやって来たパラヴィデオ(マルセル・ダリオ)という紳士が絵を売って欲しい、と頼みに来たので早々に追い払う。シャルルはもうヤケクソになっていた。

 ニコルはシモンのホテルのレストランに彼を呼び出した。ニコルは顔を隠す透けたレース、アイシャドウ、黒レースタイツを着込んで自分がニコルだとバレないような格好をしている。ニコルはシモンが泥棒だと信じ、美術館からヴィーナス像を盗んでほしいと依頼する。

 しかしシモンはそれを聞いてすぐに拒否。美術館は警備員の厳重な警備、そして彫像の周りには赤外線センサーという最新鋭のシステム。100万ドルの値打ちがあるだけに、とても簡単に盗める代物ではない。

 あれこれ話している内にシモンは折れてニコルに協力することに。明日、美術館へ下調べに行こうと言うのだ。

 翌朝、美術館の周りを下調べするシモンとニコル。警備員だけでなく近くに内務省の建物があり、内務省のガードマン、更には大統領のお屋敷に大統領の護衛兵士たちなどがいる。警報が鳴ったらすぐに飛んできそうだ。

 今度は美術館の中を下調べ。シモンはヴィーナス像の顔がニコルそっくりだ、と疑問に思う。祖父が祖母をモデルに作ったなんて言えるわけがないニコルは適当にはぐらかす。

 その後シモンは警備員が掃除用具を片付ける階段の左手のスペースの物置部屋を鏡越しに見つめる。警備員は物置部屋に箒を入れてから鍵を閉めて鍵を階段の段差下の鍵掛けに引っ掛ける。

 シモンは階段の段差下のスペースに忍び込み、鍵の場所と物置部屋のスペースの広さを巻尺で計る。更に消火栓と長い赤いバケツを発見する。

 それからシモンは警備員が交代するのを見て、休憩に入る警備員がどこに行くのか追いかける。警備員は警備室に入っていきシモンは警備室に入っていく。

 シモンは観光局の人間を名乗り、警備責任者(ジャック・マリン)に掃除の徹底を促す。シモンはさり気なく警備室から繋がる螺旋階段の脱出口を確認し、警備室を出る。

 シモンはヴィーナス像を盗む前に別の盗みで腕を慣らしたい、と言うがニコルにはそんな時間はない。教授が鑑定に来る日が迫っていた。

 シモンもニコルに、ヴィーナス像の展示期間が終わったらヴィーナス像はボネ家に戻るのだから、それから盗めばいい、と言うがニコルはそれでは遅いことだけ伝え、真実はどうしても伝えられなかった。それを言ってしまえばシャルルが贋作職人だとバラしてしまう事になる。

 ニコルとシモンは公園を歩きながら考えていた。シモンは公園で子供にブーメランを売っているオヤジがブーメランを飛ばして自分のところに戻ってくるシーンを見てブーメランを2個買う。どうやらシモンには考えがあるようだ。

 シモンの部屋に招待されたニコル。ニコルはシモンが買った掃除婦の服に着替えさせられる。美術館は明け方になると掃除婦がたくさんやって来て美術館の一斉掃除が始まるのだ。

 シモンはニコルが着替えている隙に、窓からブーメランを投げてちゃんと帰ってくるのを確認する。

 シモンは窃盗計画の理由を話さないニコルに嫌気がさしていて自分が計画に協力できない、と言う。ニコルがシモンの協力を仰げないと知ったことで泣いてしまい、シモンは協力を承諾し美術館での待ち合わせの時間を伝える。


 待ち合わせ時間に間に合うように家を出ようとしたニコル。そこへデイヴィス・リーランドがやって来て指輪を渡し一方的に婚約したいことを伝える。

 時間がかかって何とか到着したニコルはデイヴィスが鬱陶しかったので婚約だけした、ということをシモンに伝える。

 ニコルとシモンは美術館の中に入る。この計画には感情運動と機械の電源を切ることが重要だ、と伝えシモンはニコルに計画を実行する意志がまだあるか最終確認をする。

 計画は続行。美術館の閉館のベルが鳴りニコルとシモンは警備員の目を掻い潜ってホールの暖炉の中に隠れる。暖炉の前には衝立が置かれていて隠れるのに最適な場所なのだ。

 警備員たちが一斉にホールから居なくなってからシモンは物置部屋の鍵を取って二人で物置部屋に隠れる。

 警備員が確認のために、物置部屋の部屋の鍵を開けて中を確認した時には、奥の方に隠れてやり過ごした。だが外から警備員に鍵を閉められてしまった。しかしシモンはさして動揺していない。

 物置部屋に閉じ込められてから一時間ほど経った頃、警備員の見回りの音が聞こえる。中にはサボって主任に隠れて階段の下で酒を飲む警備員(ムスタッシュ【※1】)も居るようだ。
※1】ムスタッシュ:本来は「口ひげ」の意だが今回は人名。そういう名前で活動している俳優(1929–1987)

 シモンは警備が一時間間隔で行われていることを確認し、鍵かけにかかっている物置部屋の鍵を壁越しに強力な磁石を使ってドアの下まで持ってきて磁石で鍵を取る。

 しかしその鍵は部屋の中から開けることはできない。そこで鍵穴からロープを垂らし、垂らされたロープを一旦中に入れてからロープの先に鍵を繋いで今度はロープを引っ張る。

 中からロープを引っ張ることによって鍵が鍵穴に引っかかり、ちょっと出てきた鍵をペンチで回して鍵を開けることに成功した。

 外に出れるようになったシモンとニコル。シモンは作戦を説明する。何回も警報のベルを鳴らしていればその隙に嫌になった警備員が自分から電源を切るのではないか。つまり苛立ちという感情反応を利用し電源を切らせる作戦なのだ。

 その為に、まずシモンがブーメランを彫像の付近に飛ばして赤外線センサーを反応させる。さあ館内に一斉に警報が鳴り出し、警備員たちが警備室から出てきて館内を一斉捜索。警察の部隊も駆けつける。

 シモンはブーメランを回収し既に物置部屋に隠れていた。

 結局、泥棒は見つからずベルは停止され警察隊は撤収。警備責任者は内務省にうるさい、と苦情の電話を受け苛立つ。

 物置部屋に隠れたシモンはニコルを問いただしていた。シモンはすでにあのヴィーナス像が贋作であることに気付いていた。そして鑑定が迫っていて鑑定されれば贋作であることがバレてしまうことも最初から知っていたようだ。ニコルはそれを認めなぜ自分に協力するのか、と聞く。

 シモンはニコルに言葉の代わりにキスをしてその理由を説明した。ニコルは訳を知ってもう一度、“説明”をねだる。何度もキスを交わす二人。

 熱いキスの終わったあと、もう一度彫像に向かってブーメランを投げ赤外線センサーを反応させるシモン。再び大音量の警報ベルが鳴り警備員と更に警察隊も出動する。が、ニコルとシモンは物置部屋に隠れていて泥棒さんは警察隊にも見つけられなかった。

 警備責任者はベルを切り、今度は警備室の電話が鳴る。大統領からの苦情だった。苦情を受けた責任者は機械の不具合だと思い込み、ついに憤怒して赤外線センサーの電源を切ってしまう。

 あとはこっちの勝ちだ。シモンはヴィーナス像を手に取り、代わりにそこに酒瓶を置く。シモンはニコルに掃除婦たちが来たらそれに混じって掃除をして誤魔化し、警備員たちがヴィーナス像が無くなったことに気付き、大慌てで館内を捜索しはじめ警備室が空いたら、警備室へ行くように指示を出す。

 シモンはニコルの掃除用のバケツに、布でくるんだヴィーナス像を入れて一足先に去っていった。

 掃除婦たちの集団が掃除をしにやって来た。ニコルはそれに混じって掃除を開始する。

 警備の見回りの時間がやって来てホールに出る警備主任たち。警備員らはヴィーナス像の代わりに酒瓶が置かれていて大慌て。

 急いでベルを鳴らし大慌てで犯人とヴィーナス像を探すが掃除婦たちも居て館内はてんてこ舞い。その隙にニコルはバケツに入れたヴィーナス像と共に警備室に潜入する。

 警備室に一人警備員が残っていた。ニコルは逃げようとするが警備員に捕まってしまう。だがそれは警備員に変装したシモンだったのだ。二人は螺旋階段で美術館を脱出する。


 ヴィーナス像が盗まれパリは大騒ぎ。デイヴィス・リーランドは美術商のデ・ソルネにヴィーナス像を盗品でもいいので手に入れるルートを教えてほしい、と頼む。

 デ・ソルネは最初は拒否していたが、そういう方面に詳しい探偵のシモン・デルモットという男の連絡を教える。

 ニコルはシモンと電話で会話を楽しむ。ニコルは鑑定されずに済んでリラックスしていた。そしてホテルのバーでシモンと待ち合わせをした。

 グラモント館長はヴィーナス像の鑑定をしていないので紛失保険100万ドルが効く前だったのに盗まれた、と申し訳なくしていた。

 しかしシャルルは鑑定で自分の贋作がバレる前だったのでホッとしており大きな心で許したフリをする。グラモントが去ったあと、シャルルはニコルと喜び合う。

 シモンはバーでデイヴィス・リーランドからヴィーナス像を手に入れてくれ、という依頼を受けていた。シモンはこの窃盗にはフランスの裏社会のマフィアが絡んでいるとか適当なことを言い、鑑定を防ぐためにも絶対に誰にも見せず保管させることを誓わせる。

 極めつけにデイヴィスに作者の家族と接近を持つのは危険だからニコルからは手を引くように言う。デイヴィスは最後の忠告を最初は断ったが、シモンの言うとおりにする。

 デイヴィスが出て行くのと同時にニコルがやって来る。デイヴィスはニコルをあからさまに避けていった。

 シモンは自分が美術品鑑定士の資格も持っていて、大学で犯罪学の学位も貰った探偵で、絵を盗もうとしたのも繊維を回収して、贋作か贋作でないか調べるために派遣されたことを明かす。

 そこへシャルルもやって来た。シモンはシャルルにヴィーナス像が無事であり、どこかへ渡すことと自分はニコルという美女を所望しているということを伝え去っていった。

 デイヴィス・リーランドはヴィーナス像を、シモンから受け取り帰国するための自家用飛行機に乗り込んでいった。デイヴィスは一人でその彫像を眺めるが、その中に自分がニコルと婚約したときに彼女に渡した指輪も入っていた。

 シモンはシャルルに自分がタダでヴィーナス像をあげた事を伝え、自分は鑑定士、あなたは詐欺師。どちらかが引退するべきだ、とシャルルに迫る。シャルルは自分が引退することを承諾した。

 新婚旅行に向かうため、車に乗って家を出ようとするシモンとニコル。それと入れ違いにゴッホの贋作の絵を欲しがっていた南米のパラヴィデオがやって来る。シャルルはパラヴィデオが欲しがっている絵を売る意志があることを伝える。

 それを遠くで見ていたシモンはあの紳士は誰かと尋ねる。ニコルはパパのいとこだ、と嘘をついた。







 なんともオシャレな映画でしたね。ピーター・オトゥールのフワフワッとした軽妙な演技はなかなかの物だったと思います。オトゥールはこういうオシャレな役の方が私は好きなんです。

 オシャレな上に楽しめた映画でしたね。ワイラーは「ローマの休日」といい、街を撮るのがうまいですよねえ。この映画もオシャレな服、洒落た車、綺麗な建物、いろんな街の風景を楽しめましたねえ。

おしゃれ泥棒 [DVD]おしゃれ泥棒 [DVD]
(2005/04/08)
オードリー・ヘプバーン、ピーター・オトゥール 他

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※ストーリーの基になった小説
こちら
Category: 洋画ア行
正義を重んじ悪を打ち倒す騎士ドン・キホーテ。


『ラ・マンチャの男』 Man of La Mancha (1972年・伊)
ラ・マンチャの男
スタッフ
監督:アーサー・ヒラー
製作:アーサー・ヒラー
製作補:ソウル・チャップリン
製作総指揮:アルベルト・グリマルディ
原作:デイル・ワッサーマン「ラ・マンチャの男」
脚本:デイル・ワッサーマン
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽:ローレンス・ローゼンタール
主題歌:ミッチ・リイ(作曲)、ジョー・ダリオン(作詞)「見果てぬ夢」
配給:ユナイテッド・アーティスツ
キャスト
ミゲル・デ・セルバンテス:ピーター・オトゥール
アルドンサ役:ソフィア・ローレン
舞台監督:ジェームズ・ココ
牢名主:ハリー・アンドリュース
大公:ジョン・キャッスル
ペドロ役:ブライアン・ブレスド
床屋役:ジーノ・コンフォルティ
神父役:イアン・リチャードソン
アントニア・キハーナ役:ジュリー・グレッグ
家政婦役:ロザリー・クラッチリー
宿屋の夫人役:ドロシー・シンクレア
教会の騎士団長:マルヌ・メートランド


 アーサー・ヒラー監督作品「ラ・マンチャの男」。原題は「Man of La Mancha

 デイル・ワッサーマンが制作した作品が原作ですね。で、その原作というのはミゲル・デ・セルバンテスの「ドン・キホーテ」を基にしている物語なんですね。
 「ドン・キホーテ」っていうのはスペインを批判している部分も含んだお話で、本ばっか読んでた人が自分を勇ましい騎士ドン・キホーテだと思い込んで旅に出る、っていうお話です。で、この「ラ・マンチャの男」という舞台劇はそのドン・キホーテをセルバンテスが牢獄内で演じるっていう物語です。初演はリチャード・カイリー。演劇、ミュージカルの名誉ある賞トニー賞も受賞された作品です。日本では今の9代目松本幸四郎が演じてましたね。

 アーサー・ヒラー。この人の手がけた作品を観て一番まっさきに「おっ!?」と思ったのは「ある愛の詩」(1970年)ですね。観たことはないのですが映画の名前とテーマソングは私も知っていました。他にも「大陸横断超特急」(1976年)や「あきれたあきれた大作戦」(1979年)など私の知ってるけど観たことはない映画が沢山ありました。このヒラー監督作品は私初めてです。

 製作総指揮はアルベルト・グリマルディ。この人は「夕陽のガンマン」(1965年)なんていうイーストウッドの作品の製作もやってました。70年代まで西部劇映画の製作を多くやってた人です。

 ドン・キホーテ、セルバンテスの役はピーター・オトゥールがやってますね。この人は舞台出身だからいろんな役をやってもうまくこなせる俳優さんというイメージがありますね。綺麗なお顔と美しい青い目をしてるんですよねえこの人。この人の評価が高いのはやはり「アラビアのロレンス」(1962年)でしょうか。私はまだ「チップス先生さようなら」しか観たことが無いのですが、その時はお爺ちゃんになった時の先生の役までうまいなあ、と思いましたね。
 ただ残念なのはオトゥールの歌のシーンはサイモン・ギルバートという人が吹き替えたようですね。出来ればオトゥール本人の歌声で聞きたかった。

 ソフィア・ローレン。ただでさえむっちりしていて魅惑的な女優さんなのに今回の役は青少年が目のやり場に困る衣装を着ていますね。この女優さんの映画も実は初めて観ます。数ある映画出演の中でも50年代60年代70年代前半は最盛期ですね。この映画はローレンのキャリアでも中期くらいに当たりますが、魅惑的な肉体は衰えていません。
 ソフィア・ローレンの歌声も当初はマリリン・ホーンという歌手が吹き替えする予定だったようですが、マリリン・ホーンはローレンとギャラが同じじゃないことに不満を持って引き受けなかったようですね。

 最初はワッサーマンの作った「ラ・マンチャの男」を1961年にミュージカル化させた演出家のアルバート・マールが監督に、ミッチ・リーを作曲家、デイル・ワッサーマンは脚本としてユナイテッド・アーティスツに雇われました。しかしスクリーンテストのときにどうも会社側の思ったような映画ではなかったらしく、それらのスタッフを一新して、「ベケット」(1964年)などを撮ったピーター・グレンヴィルを監督に据えようとしました。
 ところがグレンヴィルが原作の歌のほとんどを使わないように考えていたことを知ってまた解雇されました。それで次に据えられたのがアーサー・ヒラー監督、製作補にソウル・チャップリンというメンバーです。このメンバーで落ち着いたようですけども映画の外枠というか、大まかなものは既に決まっていたようですね。


【あらすじ】

 詩人セルバンテスは部下の舞台演出監督と共に教会に演劇内容が異端であると逮捕され、宗教裁判を控えて投獄されてしまった。その牢獄では荒くれたちがセルバンテスの持ってきたものを身ぐるみ剥がそうとし、セルバンテスが持っている脚本を燃やそうとすらする。しかしセルバンテスはその脚本を何が何でも守るべく、その脚本を基に囚人たちを交えて演劇をしようとする。それはドン・キホーテという正義の騎士の物語であった。













【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 詩人で劇作家のミゲル・デ・セルバンテス(ピーター・オトゥール)は召使兼舞台監督(ジェームズ・ココ)と共に演劇をしている最中に教会の騎士団長(マルヌ・メートランド)ら騎士団によって演劇の内容が異端であるとして逮捕され宗教裁判を控えて地下の牢獄に入れられてしまう。

 セルバンテスと監督が押し込められた牢獄はゴロツキだらけ。しかも出口とは出口側の人たちから架け橋を掛けない限り、渡ることができない。仮にゴロツキに殺されそうになっても助けも呼べないのだ。

 架け橋が上がっていくと同時に寝ていたゴロツキたちが動き出しセルバンテスと監督を押さえつける。ゴロツキたちはセルバンテスが持ってきた舞台衣装などを根こそぎ奪っていく。

 ゴロツキたちに押さえつけられ殺されそうになったとき、囚人の牢名主(ハリー・アンドリュース)がセルバンテスたちの身分などに興味を示しひとまず解放してくれた。

 セルバンテスが詩人であることを知った囚人の中で大公(ジョン・キャッスル)と呼ばれる男は詩人を現実を曇らせ夢ばっか追う人間だと批判する。大公は自国の偽情報を他国に売りつける工作員だったが、真実の情報を他国に売りつけてしまい牢獄送りにされた。

 牢名主が裁判をしよう、と皆に言う。その裁判はこの牢獄に投獄された者はみんな受けるという。有罪になれば所持品を没収されてしまう。

 セルバンテスが腕から離さずに大切に持っていたある脚本も奪われてしまう。その脚本は牢名主により焚火で火に付けられそうになり、セルバンテスは裁判を受けることを了承する。

 しかし弁護士もいない裁判。検察官は大公。即刻、有罪がくだされそうになるがセルバンテスがその脚本に書かれている演劇を囚人たちの協力を得て、自分がお芝居で弁明をしたいという。牢名主たちは大公の反対をはねのけ、興味を持ってその演劇に参加する。

 さてセルバンテスが演じるはアロンソ・キハーナ。隠居し読書にふける老人。さてその老人は本の影響で今の悪で乱れし世に憤りを感じ、思い悩む内に気が違ってしまいやがて正気を失いひとつの思考に至る。
 アロンソ・キハーナは自らを悪を懲らしめ正義の世を取り戻す勇敢なる騎士ドン・キホーテと思い込むようになった。

 舞台監督兼召使の男が演じる近所の小作人サンチョ・パンザをアロンソは旅の相棒としていざ旅へ出発する。汚れてるとは言え、甲冑を纏い槍を持てばアロンソ・キハーナはもはや老人ではなくラ・マンチャの騎士ドン・キホーテだ!

 正義の旅立ちの唄を歌い囚人たちが馬役を演じ、ドン・キホーテとサンチョ・パンザは乗り込む。

 演劇の世界。ドン・キホーテとサンチョ・パンザは馬で荒野を歩く。ドン・キホーテは大魔王の恐ろしさをサンチョに説いた。

 そんな二人の目の前に風車小屋が現れる。我らがドン・キホーテは悲しいかな、その風車小屋を悪しき巨人と勘違いし果敢に挑んでいった。周る風車が巨人の4本の腕に見えるようで、ドン・キホーテはその風車に乗っかり必死に剣を振るう。やがて〝腕〟に振り落とされ、衰えた体で無理したのがたたって休息を取る必要ができた。

 ドン・キホーテは小山の上の方にあるボロっちい宿屋を見つけて勇者を迎えるお城だ、と喜ぶ。我らが騎士にはボロっちい宿屋も城址に見えるようだ。そこで休息を取ることに決める。

 さて舞台は牢獄に戻り、セルバンテスは宿屋の主人役を牢名主に、その夫人役を囚人の女(ドロシー・シンクレア)にやらせることに。大勢の荒くれはロバ追いの役。そして馬追いの頭のペドロの役を左手が義手の囚人(ブライアン・ブレスド)が。娼婦の役を囚人の女フェルミナ(ミリアム・アセヴェド)。

 そして宿屋の設定で最も欠かせないのは宿屋のメイドのアルドンサ。人生に絶望しながらも男に体を金で売る女の役。この女は焚き火の近くでドン・キホーテのおはなしに全く興味を示す素振りを見せない囚人の女(ソフィア・ローレン)が選ばれた。

 アルドンサは下劣な男どもを忌み嫌いながらも自分は金で男と寝てしまう女なのだ、とそんな自分を嫌ってもいた。しかしこの世の中、この人生では金を払う男を拒否することは出来ない、と受け取ってしまうのだ。

 そんな時、宿屋にドン・キホーテとサンチョの二人がやってきた。ドン・キホーテは恥ずかしがりもせず自分を騎士だと名乗るが入口に長い槍が引っかかって落馬し醜態を晒してしまう。宿屋の夫人は狂人だ、と泊まらせるのを渋ったが主人は客は客だ、ともてなす事にする。

 ドン・キホーテは宿屋のメイドのアルドンサを見てあなたの正体は麗しき処女ドルシネアだと言って疑わない。しかし自分の身の上をわきまえるアルドンサにとってはそんな事を言われても迷惑でしかない。ドン・キホーテを避け、他のロバ追いの下衆男たちからもからかわれる。

 その舞台を大公が弁明に相応しくないただの時間稼ぎだ、と叫んで中断させる。しかしセルバンテスは牢名主から続ける許可をいただき次のシーンに移る。

 次のシーンはドン・キホーテではなく、アロンソ・キハーナの元の家庭でのシーン。アロンソが突如旅に出たことで囚人の女(ジュリー・グレッグ)演じる姪アントニア・キハーナは大慌て。囚人の女(ロザリー・クラッチリー)演じる家政婦、囚人の男(イアン・リチャードソン)演じる牧師は家へ連れ戻す策を考え、大公演じる仏頂面の精神科医カラスコ先生がアロンソの正気を無理やり戻させて、家にも連れ戻す策を講じる。

 次のシーンの舞台は再び宿屋。アルドンサに対してサンチョを通じて恋文とメッセージを送るドン・キホーテ。しかしアルドンサはやはり迷惑そうで自分を汚い奉仕人のアルドンサでしかないと突っぱねる。更にサンチョはドン・キホーテからドルシネアことアルドンサのスカーフを頂いてこいという命令を受けていた。

 それを聞きアルドンサはさっさとスカーフの代わりにボロボロの布を渡す。アルドンサはサンチョがドン・キホーテに付き従う理由に興味を示し聞いてみる。サンチョはドン・キホーテでありアロンソ・キハーナという男の魅力に惹かれていたのだ。理解できないアルドンサだったが、ドン・キホーテから貰った手紙に少し心を動かされる。

 ドン・キホーテはサンチョから布のボロ切れを受け取るがドン・キホーテにとってはそれだけで満足。その時、金ピカの洗面器を頭にかぶった囚人の男(ジーノ・コンフォルティ)演じる床屋がやって来る。

 ドン・キホーテは黄金の洗面器を伝説の黄金の兜だと言い張り彼から半ば奪い取る形で金ピカの洗面器を手に入れ、ボロっちい布を頭に巻き、洗面器を被って伝説の騎士になった気分に浸る。

 その後でドン・キホーテは宿屋の主人に礼拝堂を借りて徹夜で祈りを捧げたいという。主人が礼拝堂は修理中だ、と答えると中庭で祈りを捧げることに。そして翌朝に自分に爵位を与える儀式をしてほしい、と頼み込む。心優しき主人はそれを了承する。

 直後、宿屋に名家のお嬢様率いる黒装束の軍団がやって来る。どうやらお嬢様のお兄さんが大魔王の魔術によって石化され、大魔王を打ち祓い助けてほしいと懇願しに来たようだ。ドン・キホーテはその願いを聞き入れることにした。

 ドン・キホーテとサンチョ・パンザがその場を居なくなってから石化したハズのお兄さんが動き出す。どうやら牧師、カラスコ、家政婦らが一芝居打ったようだ。ドン・キホーテをこのまま乗せて、後で正気を取り戻させ連れ戻す算段のようだ。アルドンサはそんな一行を卑怯者だ、と罵る。

 水汲みをしていたアルドンサは下衆男たちに絡まれ男に対する絶望を募らせていく。アルドンサはドン・キホーテの恋文をペドロに見られからかわれてしまう。

 ドン・キホーテは夜中、一人で祈りを捧げていた。それを気になったアルドンサがドン・キホーテに話しかける。ドン・キホーテが自分をドルシネアと呼ぶのに下心があるのだろう、と疑うアルドンサ。しかしドン・キホーテは誠実さを見せ、ドルシネアを戦いの励みにしたい、と言うのだ。

 ドン・キホーテのこの冷たい世を暖かな黄金のように輝く世の中に変えたい、という理想にアルドンサはこの世の中は変えっこのないウジ虫がわくゴミみたいな世界だ、アタシもその中の一人さと返す。

 しかしドン・キホーテのいう旅が気になったアルドンサはそのことを聞くと、ドン・キホーテは旅は自分に与えられた騎士の特権だ、と答え「見果てぬ夢」を歌う。

♪見果てぬ夢を追い かなわぬ敵に挑む
 耐え得ぬ悲しみに耐え 勇者も行かぬ地へ向かう
 正せぬ誤りを正し 清きを遠くより愛す
 疲れきった腕で 届かぬ星をつかむ

 これが我が旅 星に向かって行こう
 かなわぬ夢でも いかに遠くても
 正義のために戦う 問いも休みもなく
 至上なる戦いのために 地獄へも行こう
 この栄光の旅に 背を向けることがなければ
 死しても 我が心は 安らかに眠ろう

 世の中を良くするため
 男は笑われ 傷を負い
 最後まで戦うのだ

 届かぬ星をつかもうと

 「見果てぬ夢」を歌い終わったあと、汚れていると自分で思い込む自分をきちんと見てほしい、と言うアルドンサ。そこにペドロが邪魔をしに来た。いつまでたっても部屋に来ないアルドンサをペドロはぶつ。

 頭に来たドン・キホーテはご自慢の槍の取っ手の部分でペドロの脳天にガツンと一発入れる。大ダメージのペドロは応援に部下を呼ぶ。

 大人数を相手にドン・キホーテ、アルドンサ、応援に駆けつけたサンチョ・パンザの3人は大乱闘。なんだか正しい乱闘のようには見えないが、一応は下衆男どもをやっつけることに成功する。

 下衆男たちは退散。そこへ宿屋の主人がやって来て厄介事は勘弁してくれ、と早い立ち退きをお願いする。ドン・キホーテはそれに応じる代わりに、爵位を与える儀式をしてほしい、と頼む。優しい御主人はそれに応じてドン・キホーテに爵位を与えた。

 その後でドン・キホーテは倒したロバ追いたちの傷を治療してやろうとする。倒した敵にも誠意を見せるのが騎士道だと聞くとアルドンサが自分がやる、と言って一人でロバ追いたちがうなされている小屋に入る。

 ロバ追いたちの治療をしてやろうとしたアルドンサ。しかしロバ追いたちはそんなアルドンサを捕まえ、宿屋を出発しアルドンサを拉致していった。

 そうとも知らずドン・キホーテは勝利の余韻に浸り身を引き締めるために「見果てぬ夢」を歌う。

 その時、牢獄の架け橋が下がってきて教会の騎士団たちがやって来た。舞台は一時中断。セルバンテスは自分が連れて行かれるのかと思った。しかし宗教裁判のために連れられていったのは別の人物だったようだ。

 大公は今回は命拾いしたようだがこれが現実だ、と冷たく言い放つ。セルバンテスはこの絶望しかない世界で正気を保ったまま現実を見続けるよりも、正気を無くし常軌を逸してでも夢を追い続けるほうが利口ではないか、と主張する。

 ドン・キホーテはサンチョと共に宿屋を出発した。ドン・キホーテはアルドンサが居なくなった理由もなにか事情があってのことだろう、と楽観的だった。

 二人は道端でボロボロの服を来たアルドンサと再会する。宿屋でのドン・キホーテと共に闘ったアルドンサではなく、男に拉致され何もかもに絶望してドルシネアと呼ばれることが嫌なアルドンサに戻っていた。またはそれ以上に一度、夢が叶うのでは、と期待させられただけに絶望をしていた。

 理想の壁にぶち当たったドン・キホーテ。そこに謎の騎士団がやって来る。謎の騎士団を大魔王だと思い込み決闘を申し込むドン・キホーテ。謎の騎士団団長は自分を鏡の騎士と名乗り鏡で出来た盾をドン・キホーテに見せる。そして
「自分の顔をよく見ろ。この老いぼれがラ・マンチャの騎士ドン・キホーテだと?」
 と現実を突きつける。残酷な現実を見せられたドン・キホーテことアロンソ・キハーナは絶望しそのまま倒れてしまった。騎士団長は鎧を外す。騎士団長に扮していたのは精神科医カラスコだった。アロンソはそのまま意識を失う。

 セルバンテスが考えていたドン・キホーテの物語はここまでしか考えていなかった。あまりにも消化不良な結末に牢名主は有罪判決を下そうとするがセルバンテスは即興でラストを考える。そしてもう一度、舞台を演じる。

 最後のシーン。ここはアロンソ・キハーナの家。カラスコ医師の強引な処置もあってアロンソはマトモな判断もできず呆然としてもはや死にかけていた。サンチョがやって来たことで意識を少し取り戻したアロンソは牧師に遺言を残そうとする。

 そこにドン・キホーテに心を救われたアルドンサがやって来る。だがアロンソはアルドンサの事も自分がドン・キホーテを名乗って旅をしたことも覚えていない。アルドンサは僅かな希望にかけてアロンソに「見果てぬ夢」を思い出させようとする。アロンソは涙を目に貯めながら自分の夢を思い出していった。

 そしてアロンソはついに全てを思い出した。アロンソはベッドを降りてサンチョ、アルドンサと共に旅を続けようとして「見果てぬ夢」を歌う。

♪栄光のラッパが 我が心を駆る
 ラッパが呼びかける
 どこへ行こうと 友と一緒
 我が従者 そして我が君

 私はドン・キホーテ ラ・マンチャの騎士
 運命が呼びかける
 幸運の風が 私を押し進める
 前へ前へと
 運命の風が 私を押し進める
 栄光への道へと

 歌い終わった時、アロンソ・キハーナは息絶えてしまった。

 アルドンサはアロンソ・キハーナが死んでもドン・キホーテは生きている、とサンチョに言いどこかへと旅立っていった。

 舞台の終わりと共にセルバンテスを迎えに来た教会の騎士団が架け橋を下ろしてやって来る。牢名主はセルバンテスを無罪にして大切な脚本を他の人にも伝えてやれ、と返す。

 架け橋の階段を上っていくセルバンテスと舞台監督。アルドンサを演じた囚人の女をはじめとして囚人たちはセルバンテスを「見果てぬ夢」で送る。

♪見果てぬ夢を追い かなわぬ敵に挑む
 耐え得ぬ悲しみに耐え 勇者も行かぬ地へ向かう
 勇者も行かぬ地へ 永遠のかなたまで
 旅に疲れていても 届かぬ星に手を

 届かぬ星に手を どんなに高くても
 求める心を忘れず
 遠く 到達しがたい 星に向かおう





 希望を追いかけよ、夢を諦めるなという励ましの物語でした。そして私たちをドン・キホーテの夢を受け継がせようとしてくれている物語でしたねえ。

 この映画の製作国であるイタリアは1950年代はめざましい経済復興を見せたのに対し、60年代からストライキの流行や一部での共産主義の流入などでその発展が衰退しつつありました。この映画はイタリア経済の立て直しというか国民の鼓舞のためにも良い映画だと思われたのではないでしょうか。残念ながら80年代中期まで経済の失速は立ち直らないのですが。

 ドン・キホーテという物語が作られたのは17世紀はじめ。スペインがヨーロッパ中で戦争を繰り広げ衰退しつつあるような時期でした。セルバンテスというのは本当に過酷な人生だったようです。生活も良くならなかった。そんな中でも自分を失わないためにセルバンテスは「ドン・キホーテ」という物語を書いたのではないでしょうか。で、その物語の中に自分の国スペインへの恨みを込めてスペイン人の騎士がオランダを代表する風車に負けるシーンなんてのを書いたのでしょう。

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デール・ワッサーマン、青木 信義 他

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Category: 洋画ラ行
驚き短編映画です。


『肉片の恋』 Meat Love (1989年・捷)
スタッフ
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル


 ヤン・シュヴァンクマイエル監督作品「肉片の恋」。原題は「Meat Love

 多くは語りません。というか語れることがありません。ただ見た映像が全てです。私としてはこの発想力の凄さを褒めたいですねえ。面白おかしくて、ちょっと不気味かもしれません。そしてこの世界は不可思議そのものです。

 ヤン・シュヴァンクマイエル。この人はチェコの映像作家さんです。お父さんのヴァーツラフ・シュヴァンクマイエル監督も映像作家さんらしいです。ヤンさんは、鬼才とでも評しましょうか。彼の作品は変なのばっかりなんですが、人によってはそれがやみつきになるようです。ただ私がこの監督の作品に初めて触れたのが「部屋」で強烈なトラウマを植えつけられたので少し苦手な監督さんでもあります。


【あらすじ】

 男の子らしき自我を持った肉片と女の子らしき自我を持った肉の恋愛。









【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 大きな肉をナイフが切って2枚の肉片が誕生する。

 肉たちは自我を持って動き始め女の子らしき自我を持った肉片がスプーンを鏡がわりに自分の顔を見つめる。

 もう一枚の男の子らしき肉片が女の子らしき肉片の気を引こうと背中を叩く。驚いた女の子らしき肉片はビックリしてスプーンを落としすぐにタオルで体を隠す。

 男の子らしき肉片はラジオをつけて良いムードを作りダンスを誘う。二枚は手を取ってダンス。

 やがて女の子らしき肉片が小麦粉をお風呂に見立て粉を掛ける。よくもやったなー!と男の子らしき肉片も小麦粉に飛び込み二枚は肉肉しく絡み合う。

 やがてその二枚にフォークが突き刺さり油に揚げられた・・・





 楽しげですが、結末がどこか残酷ですねえ。「部屋」のブログで触れましたが、ヤン・シュヴァンクマイエルは食べることが嫌いなんだそうです。でもこの映画では肉を美味しそうに撮ってくれてますね。

 この映画の解釈は何だかいろいろありそうですが、私個人の解釈としますと、シュヴァンクマイエルが食事行為を嫌っていることは前述した通りなのですが、人間が生物を食す、という残酷さを表しているような気がします。皆さんこどもの頃に「泳げたいやきくん」を聞いて「何で漁師のおじちゃん鯛焼き食べちゃうの・・」と思ったことありませんか?大人になるにつれて忘れていくこの感覚を視聴者に思い出させようとしたのではないでしょうかね。

 もう一つの解釈としては肉の塊が人間の仕草をする、ということを重視して考えて人間は自我を持った肉塊に過ぎないということでしょうか。つまりこの映画の肉片くんたちは人間そのもの。あんたらも結局もっと強い肉食生物が現れれば食われる存在になり得るんだよ、という主張かもしれません。あるいはこの解釈二つを足して混ぜ合わせたものかもしれませんね。

 どっちにしろ監督自身が何を意図して作ったのか正確な答えは私には分かりません。

Category: 洋画ナ行
ブルー・マックスとは「プール・ル・メリット勲章」のことでドイツ帝国内の第一次世界大戦終結時までは最高の名誉勲章でした。


『ブルー・マックス』 The Blue Max (1966年・米)
ブルー・マックス
スタッフ
監督:ジョン・ギラーミン
脚本:デヴィッド・パーサル、ジャック・セドン、ジェラルド・ハンリー
翻案:ベン・バーズマン、バジリオ・フランキーナ
原作:ジャック・D・ハンター
製作:クリスチャン・フェリー
製作総指揮:エルモ・ウィリアムズ
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
撮影:ダグラス・スローカム
編集:マックス・ベネディクト
キャスト
ブルーノ・スタッヘル少尉:ジョージ・ペパード
カエティ・クルーガーマン夫人:ウルスラ・アンドレス
カウント・クルーガーマン将軍:ジェームズ・メイソン
ハイデマン飛空隊長:カール・ミカエル・フォーグラー
ホルバハ:アントン・ディフリング
ファビアン:デレン・ネスヴィット
副官ケタリング:ハリー・トゥーブ
ハンス執事:ヒューゴ・シュスター
ロップ伍長:ピーター・ウッドソープ
レンドルフ元帥:フリードリヒ・レデブル
エルフィ・ハイデマン夫人:ロニ・フォン・フライドル
マンフレート・フォン・リヒトホーフェン:カール・シェル
ウィリー・クルーガーマン:ジェレミー・ケンプ


 ジョン・ギラーミン監督作品「ブルー・マックス」。原題は「The Blue Max

 ブルー・マックスとは前述した通り、最高勲章です。軍人は頂けるだけで名誉なこの勲章を欲しがります。これを手に入れたら英雄も同然です。主人公も、軍人さんでこれが欲しいわけです。名前はスタッヘル。ドイツ語の意味は針やトゲといった意味で、この主人公人一倍野心が強い。しかも自己中心的な考え方をしている。果たして手に入れられるのやら、というのを見守ってあげましょう。

 ジョン・ギラーミン。アクションが多い作品やらパニック物やらを撮らせたら一流の監督さんですね。この人の映画は「タワーリング・インフェルノ」(1974年)は見ました。「ナイル殺人事件」(1978年)も見ました。で、この人「レマゲン鉄橋」(1969年)や「キングコング」(1976年)の監督さんでもあったんですね。やっぱりパニックとか、戦争アクションが得意な人です。

 主演はジョージ・ペパード。この人と言えばTVドラマの「特攻野郎Aチーム」を思い浮かべる人が多いのかもしれませんが、私はそのドラマ見たことないので、私の中では「ティファニーで朝食を」のオードリーの相手役です。ジョージ・ペパードの青い瞳がまた綺麗なんですなあ。今回の映画では撮影で何度か実際にペパードが飛行機を飛ばしたらしいですよ。

 この映画の見所の一つは空中戦ですね。追われ追いかけの追尾劇、空中戦。うまいもんです。この映画ではロサンゼルスを拠点とする第一次世界大戦の飛行機ファンのグループが実際に映画の空撮についてアドバイスをしていたそうです。特に橋の下をくぐり抜けるシーンなんてのはスタントの飛行士デレク・ピゴットが実際にやったようですね。それを多数のカメラアングルから撮影していました。

 マンフレート・フォン・リヒトホーフェンは実在するドイツの軍人で第一次世界大戦最高の撃墜王でした。80機撃墜したそうですよ。彼の乗ってる飛行機フォッカーDr1 425/17が赤いもんで「赤い悪魔」「レッドバロン」なんて呼ばれてました。この映画でも飛行機の通し番号までちゃんと再現されてました。


【あらすじ】

 第一次世界大戦。西部戦線で空軍の飛行機を見て以来、飛ぶことに憧れたスタッヘル少尉。同僚がみな貴族なのに対して自分は平民出だったため、同僚たちとの軋轢が生じる。また厳しい戦場の現実を知り成果が全てという考えのスタッヘルと騎士道精神を重んじるハイデマン隊長とも対立していき・・・















【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 1916年。西部戦線でブルーノ・スタッヘル少尉(ジョージ・ペパード)は空飛ぶ空軍の飛行機を見て、飛行機に憧れる。

 2年後の1918年。ハイデマン飛空隊に新たに配属が決まったスタッヘルは基地に着くが早速、曲芸飛行をする何者かの飛行機に迫ってこられて身をかがめ、服を汚してしまうハプニング。その後でハイデマン隊長(カール・ミカエル・フォーグラー)に挨拶をする。

 みんなの前で自己紹介を兼ねた質問をハイデマンにされたスタッヘル。周りの同僚ほとんどが貴族の出身であることを引き目に感じていたスタッヘルは自らボロホテルの経営者の息子、貴族階級の家柄ではないことを明かす。同僚たちはヒソヒソと笑い合いハイデマンはそれを察して個室へ呼ぶ。

 ハイデマンはスタッヘルを励まし彼が飛行学校でいままで使用していた飛行機のことなどを聞く。

 やはり同僚たちはスタッヘルのことを馬鹿にしていた。スタッヘルは18機を撃墜した先ほどの曲芸飛行をしていた男ウィリー・クルーガーマン(ジェレミー・ケンプ)と話をするようになるがウィリーもスタッヘルを見下す人間の一人のようだ。

 宿舎に着いたスタッヘルは自分の部屋で持ち物をカバンから出していると、ウィリーが話しかけてきた。スタッヘルの憧れでありブルー・マックス勲章を得たマンフレート・フォン・リヒトホーフェン(カール・シェル)の写真をウィリーが見て彼の話を始める。

 ウィリーの初陣は気さくな軍人ファビアン(デレン・ネスヴィット)と組むことになった。ファビアンの飛行機の左後方につき、イギリス軍の飛行船を撃ち落とすのが今回の任務。ファビアンと共に飛行船を撃ち落とすことに成功したものの、イギリス軍の飛行機二機が迫ってきた。

 ファビアンはイギリス軍の飛行機に後ろにつけられ撃墜され、スタッヘルももう1機に後ろにつけられてしまった。スタッヘルは低空飛行をしながら広野で一回、敵の追跡を撒いて再び敵に発見されたときにはすでに敵機の後ろについている、という状況を作り出した。

 後ろにつければ反撃開始。イギリス軍機を見事に撃墜することに成功した。

 スタッヘルは帰還しすぐに副官のケタリング(ハリー・トゥーブ)に報告するが、陸軍の報告も目撃情報もなく撃墜未確認としてカウントに数えられなくなってしまった。なおも粘るスタッヘルだったがケタリングに未練がましいと一蹴されてしまう。

 スタッヘルはなおも諦めきれず夜の大雨の中、運転手のロップ伍長(ピーター・ウッドソープ)と共に撃墜地点まで確認に出かける。だが自分の撃墜した敵機は見つけることができず、宿舎に帰ってハイデマンに叱責される。

 更にその夜、ウィリーら同僚たちに未確認機の撃墜を嫌味のように祝われる。そこにケタリングがやってきて次の攻撃のとき、スタッヘルと組みたい人間はいるか、ということを全員に聞くが誰も名乗りを上げない。ウィリーが哀れむようにスタッヘルと組むことにした。

 スタッヘルとウィリーは敵軍機を上空にて発見。後機銃で撃ってくる敵兵を撃ち機能停止させ追撃を加えようとしたが、敵機の操縦士がこちらに攻撃する意思がもう無いことを察し、それを止めて基地に強制着陸させることにして投降を促し、敵操縦士も同意した。

 基地の上空近くまで誘導したとき、後機銃の兵士が再び意識を取り戻し左目を撃たれて目が見えないながらもこちらを撃ってきた。スタッヘルは止むなく敵機に攻撃を加え敵機は墜落した。ハイデマンを含めた他の隊員たちは降りてきたスタッヘルを咎めるように睨みつけた。スタッヘルは戦場は非情な世界だと教わったと非難の目に言い返し、これも撃墜にカウントするよう言い去っていく。

 ハイデマンはウ後機銃の射手が撃ってきたので止むなくスタッヘルが撃った、という事実を述べたウィリーの報告書に、庇うなと釘を刺した。しかしウィリーが事実だと保証したので今回は不問に処されることとなる。

 敵兵の葬儀が基地で行われる。しかしスタッヘルは自分が殺されて、自分を殺した相手なんかに葬儀に出て欲しくないから、と葬儀に出るのを断る。そして死んだ相手に礼を捧げるのが騎士道だ、というハイデマンの考えを戦場に騎士道もクソもないと批判する。しかし命令だったので渋々、参加することをウィリーに伝える。ウィリーはスタッヘルをコブラのような男だ、と評する。

 基地でウィリーが敵機20機撃墜を果たしたため彼のプール・ル・メリット勲章を与える授与式が行われた。カウント・クルーガーマン将軍(ジェームズ・メイソン)はホルバハ(アントン・ディフリング)、妻のカエティ(ウルスラ・アンドレス)と共に基地に来て甥っ子ウィリーに勲章を与える。

 ウィリーの勲章授与のパーティ。カウントはホルバハと共にスタッヘルという男に空軍司令部が興味を示していることをハイデマンに伝える。国民は庶民から這い上がった英雄という存在を欲している。スタッヘルはその英雄像にピッタリの男だったのだ。そしてカウントはスタッヘルを叱咤激励する。

 ウィリーは義理の伯母のカエティをスタッヘルに、スタッヘルをカエティに紹介する。カエティは気品のある女性だった。スタッヘルはカエティにピンク・シャンパンを持ってくるよう頼まれたが、カエティは勝手にウィリーとダンスを始めてしまい渡すことができなかった。

 パーティが盛り上がってきたころ、カウント将軍がドイツ軍の反撃開始の手紙が届いたことを知らせ、ドイツ人たちは興奮する。スタッヘルはカエティの美しさに惚れ込んでいた。

 パーティから帰ったスタッヘル。そこにカエティが隣室のウィリーの部屋と間違えて入ってきてしまった。カエティはスタッヘルから酒を貰い良い雰囲気になっていた。カエティが隣室に去ったあと、窓を眺めると味方のものらしき砲火が夜空を包み込むんでいた。

 スタッヘルら空軍も地上で奮闘する敵軍を空から射撃。そして更に上空からイギリス空軍が襲来。相次ぐ上空交戦で活躍するスタッヘルはついに8機もの敵機を撃墜した。

 ある出撃の前、整備士のツィーゲル(デレク・ニューアーク)はもう愛機に限界が来ている、と報告する。上空を飛んでいるとき、赤い飛行機が英軍の飛行機二機に接近されているのを発見する。スタッヘルは一機を撃墜するももう一機に後ろにつかれて攻撃され、不時着をする。

 負傷しながらも何とか爆発に巻き込まれずに済んだスタッヘル。救った赤い飛行機が近づいてきて感謝を込めて手を振ってどこかへ去っていった。

 スタッヘルは近くの軍営に行き、基地へ帰るトラックに乗せてもらう。運転手の指示通り荷台に乗るとそこにはウィリーが居た。ウィリーはカエティに下心を抱いても叶わないだろう、と忠告するがウィリーは自信たっぷりでもし落とせたら君にシャンパンをおごるよ、と返す。

 基地につくと先ほど助けた赤い飛行機の操縦士が待っていた。なんとスタッヘルや多くのドイツ軍人が尊敬するマンフレート・フォン・リヒトホーフェンだった。リヒトホーフェンはスタッヘルの腕を気に入り、自分のベルリンの部隊に配属しないか、と誘うがスタッヘルは自分はまだこの基地にいるべき人間だ、として丁重にお断りした。

 カウント将軍はスタッヘルの左腕の負傷を聞き、ホルバハにスタッヘルをベルリンへ呼ぶように伝える。ベルリンに呼ばれたスタッヘルはまず空軍元帥レンドルフ(フリードリヒ・レデブル)と謁見し、空軍の計画する単葉機導入案について、単葉機は多少の危険は付き物でも空軍はその危険と付き合うべきだ、とアドバイスをする。

 病院に来させられたスタッヘルは負傷した左腕に包帯を巻かれ、ハイデマン隊長の夫人で病院で看護婦として手伝っているエルフィ・ハイデマン(ロニ・フォン・フライドル)とツーショットでマスコミの写真撮影を受ける。終わってからカウント将軍がやってきて晩餐会に招待する。

 晩餐会に参加したスタッヘル。カウント将軍は作戦を練るので忙しく参加していなかった。晩餐会が終わってから家にはカエティ、執事のハンス(ヒューゴ・シュスター)、そしてカエティと逢引をしたかったスタッヘルが残っていた。スタッヘルはハンスを使ってカエティをからかってから、彼女の部屋で濃厚な一夜を過ごす。

 基地に戻ったスタッヘルは自分がカエティを手に入れたことをウィリーにシャンパンを奢ることによって知らせた。平静さを保とうとしながらもウィリーは興奮し必ず痛い目に遭わせる、と告げる。スタッヘルは笑いながらウィリーの部屋を去っていった。


 戦況は変化した。米軍の参入により敵軍の反撃が始まり、味方の陸軍は苦戦していた。更に味方偵察機が破壊され、敵の情報が分からない。ハイデマン飛空隊はサン・ジュスト付近を飛び、敵の目を引きつけるうちに、別の飛行隊が付近の写真を撮って情報を収集する作戦に出る。その護衛をウィリーとスタッヘルが買って出た。

 出撃したウィリーとスタッヘルは空中で敵軍と遭遇。しかしスタッヘルの機銃が途中でジャムってしまい、ウィリーが5機のうち3機を撃墜する大活躍を果たした。スタッヘルは手が出せなかった。

 撃墜後、ウィリーは川に架かる橋を見つけ、その橋の下を飛行機でくぐり近くの廃墟の塔を接触ギリギリで越える、という競争をスタッヘルに促す。つまり裏を返すとスタッヘルに失敗させて彼を墜落させようとしているのだ。スタッヘルはそれに応じる。

 結果、ウィリーが最初に一回成功し次にスタッヘルも成功する。さて次のウィリーのターン。ウィリーは橋をくぐり抜け、塔に向かって突っ込むが、上昇が足りず塔の上部にかすって墜落。ウィリーは爆死してしまった。

 スタッヘルがハイデマンにウィリーの死を知らせハイデマンはショックを受ける。そこへケタリングがやってきてイギリス機2機の撃墜が確認された、と報告する。スタッヘルに聞きもせずにウィリーの撃墜だと断定したハイデマンにスタッヘルは反発して自分が撃墜した、と主張する。

 スタッヘルの飛行機は40発、約数秒しか乱発できないままジャムったことを知っていたハイデマンはスタッヘルの嘘を見抜きスタッヘルの主張を認めなかった。

 ウィリーの葬儀が終わり、スタッヘルはカエティの下を訪れる。スタッヘルは寝室でカエティに自分がウィリーに負けたくなくて思わずウィリーの手柄を横取りしてしまった、と真実を打ち明ける。カエティは自分を巡っての争いも関連してスタッヘルがウィリーを打倒したことを知り、嬉しがりながら性交を始める。

 戦況は著しく悪くなっていき基地も敵軍機に攻撃にさらされる。ハイデマンの飛空部隊はマルモン地区を進軍する敵陸軍の襲撃に徹し、仮に敵軍機が現れても空中戦は展開せずに撤退するのが任務だった。ハイデマンは特に功を焦るスタッヘルに釘を刺す。

 マルモン地区の敵陸軍を襲撃し壊滅的打撃を与えたハイデマンの部隊。さて帰還のときに上空で敵軍機を発見。攻撃はするな、というハイデマンの命令を無視しスタッヘルは敵軍機へ向かっていく。それに続いて続々と他の隊員たちも敵機に応戦しはじめた。

 敵軍機は多く撃墜することが出来たものの出撃した味方機の半分以上も撃墜されてしまった。ハイデマンは敵の方が壊滅したとはいえ味方も多く犠牲となってしまったことにはスタッヘルの命令無視に責任がある、と責めるとスタッヘルはあんたは腰抜けだ、と返す。

 ハイデマンはスタッヘルの命令無視を理由に軍法会議にかけようとするがカウント将軍により棄却されてしまう。カウント将軍が現在の混乱するドイツ国民の不満を鎮めるためにも英雄スタッヘルの絶対的存在が保たれなければならないことを考慮した命令により、それらの事実を書いた報告書を撤回することにしたが、ハイデマンは飛ぶのが嫌になり、ベルリンの書類仕事に異動させてほしい、と頼み込みカウントは了承する。

 そしてカウントはスタッヘルをベルリンに呼ぶようにハイデマンに言う。ベルリンで皇太子(ロジャー・オスタイム)に直接、プール・ル・メリット勲章をスタッヘルに授与する式典と、その後に元帥が考えていた新型の単葉機の実演テストで単葉機をスタッヘルが操縦することになっていた。

 スタッヘルはベルリンのホテルに宿泊。その部屋にカエティがやって来る。カエティの用件はドイツが負けるのはわかりきっているから夫も国も捨て隠した資産を使ってスイスに逃亡し暮らそう、という愛しているが故の提案だった。

 しかしスタッヘルはまだドイツ軍と自分の名誉に固執しその申し出を断る。そしてカエティに対しても逃亡する人間は嫌いだ、と罵倒しカエティは憤怒して去っていった。

 そして式典。プール・ル・メリット勲章がリボン付きでスタッヘルの首にかけられる。その授与を見守っていたカウント将軍のもとに電話がかかってきて、その電話に応対したカウントはスタッヘルをホルバハの見張り付きで近くの小屋に一時拘禁させる。

 そしてカウントは単葉機を現在飛べない状況にあるスタッヘルの代わりにハイデマンに単葉機の実演テストで操縦してもらうことにした。

 ハイデマンは実演テストで飛行を見せて無事に着地した。エルフィは夫の生還に喜び、スタッヘルは自分の出番が取られて不快な気分だった。

 一方、カウントは妻カエティが元帥にスタッヘルという軍人がウィリーの手柄を横取りしてしまったのだ、ということを一時任せの怒りからタレコミしてしまった事を知り激怒する。このままではスタッヘルは軍法会議にかけられ、国民の描く英雄像が砕かれてしまう。

 そこにハイデマンが戻ってきて実演テストの単葉機はあまりにもバランスが悪く今回生還できたのは奇跡的で、次誰かが乗れば間違いなく墜落するだろう、という報告をする。

 カウントはスタッヘルの拘禁されている小屋に電話をかけてスタッヘルに準備が出来たので単葉機に乗るよう指示。そして止めようとするカエティを抑える。

 スタッヘルは意気揚々と単葉機に乗り込み空へと飛んでいく。ハイデマンは上空へと飛んでいく単葉機を見て驚き、カウント将軍を見つめる。

 曲芸飛行を続けるスタッヘル。カウント将軍はスタッヘルのプロフィールにスタンプを押す。直後、スタッヘルの乗った単葉機が墜落。カウント将軍はホルバハにスタッヘルのプロフィールを陸軍本部に持っていくよういい、崩れるカイティに昼食会に遅れるから立て、と言う。

 車へ向かう道中、ハイデマン夫婦と出くわす。ハイデマンはカウント将軍に敬礼しカウント将軍も敬礼し返す。そして将軍夫婦は車に乗り込み昼食会へと向かっていく・・








 欲ってのはなかなかいい結果を生まないものですね。騎士道を重んじる隊長さんの他の人はほとんど欲に踊らされてました。そしてこの物語の中心にある諸悪の根源、それがブルーマックス。求め欲し、欲に踊り踊られの物語ですね。浅ましい戦争で欲に振り回された人々の活躍。

 勲章というのは「国家 または公共への功労に対して国から授与される名誉の表彰」とのこと。つまりそもそも勲章というのは勲章が欲しくて頑張るためのものでなく、勲章などの与えられる利益や名誉を考えないで行動しその結果、偶然というのはおかしいですが、自分が欲しくて頑張ったわけじゃないのにいつのまにか与えられるものが勲章であるはずです。
 しかしこのスタッヘルというのは勲章が欲しくて勲章のために戦争をして敵を撃墜していたんです。私はそんなスタッヘルの自己中心的かつ野心的な性格が災いし報いを受けたのだ、と考えています。だから軍が出自と活躍を優先し内面的な人間性を考慮せずに英雄に祭り上げてしまったことが後々、カウント将軍にとって面倒くさくなってしまいましたね。
 そもそも勲章はただ人間の組織が人間に与えるだけの物でしかないのに、それに大きな価値を与えそれを与えられることを軍人の最もな名誉としてしまった軍などもいけないのでしょうけど。

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※原作小説
The Blue MaxThe Blue Max
(1966/08)
Jack D. Hunter

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Category: 洋画ハ行
それまでテレビドラマの演出家だったサム・ペキンパーの映画監督デビュー作品です。


『荒野のガンマン』 The Deadly Companions (1961年・米)
荒野のガンマン
スタッフ
監督:サム・ペキンパー
脚本:アルバート・シド・フライシュマン
原作:アルバート・シド・フライシュマン『The Deadly Companions』
製作:チャールズ・B・フィッツシモンズ
音楽:マーリン・スカイルズ
撮影:ウィリアム・H・クローシア
編集:スタンリー・ラブジョン
キャスト
イエローレッグ:ブライアン・キース
キット・ティルドン:モーリン・オハラ
ミード・ティルドン・ジュニア:ビリー・ボーン
雑貨屋キャル:ジェームズ・オハラ
牧師:ストローザー・マーティン
ヒラ町長:ペーター・オクロティ
カクストン医師:ウィル・ライト
アパッチの男:バック・シャープ
ビリー・ケプリンガー:スティーヴ・コクラン
ターク:チル・ウィリス


 サム・ペキンパー監督作品「荒野のガンマン」。原題は「The Deadly Companions

 原題を直訳した感じでは「生かしちゃおけない連れ」みたいな感じですかね。companionは仲間だとか連れ。deadlyは命がけの、必死の、致死的なという意味が一般的ですが映画の内容を考えると殺さなきゃならん、といった意味の方が適切な気がしました。

 サム・ペキンパー。この人はこの映画で映画監督初デビュー。それまではTVシリーズの脚本やら監督など、テレビの世界で活動していました。私としてはこの人は「ワイルドバンチ」(1969年)や「戦争のはらわた」(1977年)などの監督さんとして馴染み深いです。というかこの人は残酷でリアリティを作る作品のイメージがありますね。今回の映画は別に残酷でもないと思いますが。

 原作はアルバート・シド・フライシュマンの小説です。この人は冒険ものが得意な作家さんですね。ただこの映画ではどうやら先に脚本家として台本を完成させた後に製作のチャールズ・B・フィッツシモンズの依頼で小説化したようです。そんな依頼があった理由は後述しますね。「壮烈!外人部隊」(1958年)では脚本だけやって「中共脱出」(1955年)では原作もしています。

 主人公を演じるのはブライアン・キース。この人は映画界でも後のテレビドラマ界でも活躍する人です。テレビドラマなら「ニューヨーク・パパ」で大人気になりました。映画のクレジット付きのデビューは「アロウヘッド」(1953年)からです。他にも「ビッグトレイル」(1965年)、「ネバダ・スミス」(1966年)、「風とライオン」(1975年)などの映画作品もあります。

 さてヒロイン役はモーリン・オハラ。行水シーンや服を脱いで乾かしていたシーンがあったりと、セクシーな役でした。恐らく彼女か彼女の家族がこの映画の製作にとても躍起になっていたのではないでしょうか。まず製作のチャールズ・B・フィッツシモンズはモーリン・オハラのマネージャーで、実の弟。そして雑貨屋さんのキャルを演じていたジェームズ・オハラもモーリン・オハラの弟さんです。
 フィッツシモンズは脚本のフライシュマンと共にこの映画を作るためにわざわざカルーセル・プロダクションという会社を作り、サム・ペキンパーを15,000ドル、ブライアン・キースを30,000ドルで雇いました。

 この映画を作るとき、少しストーリーに触れてしまいますが少年の死体が入った棺を運ぶというストーリーから製作資金の金策に困難したようです。そこで製作のフィッツシモンズが脚本のフライシュマンに映画の脚本を小説化してもらいました。その小説が売れたので、フィッツシモンズは映画館主や配給会社のパテ・アメリカの説得に成功しこの映画の公開が出来たようですよ。なかなかに頑張りましたね。


【あらすじ】

 元北軍兵士イエローレッグは自分の頭を剥ぎかけた南軍兵士を追いかけていた。やっとその兵士を見つけ、油断を見せるために一緒に組んで銀行強盗をしようと提案。しかしその銀行で別の強盗が仕事を終えてでてきた。その強盗どもを始末する最中、イエローレッグは誤って踊り子の息子を殺してしまう・・・













【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 放浪ガンマンのイエローレッグ(ブライアン・キース)はとある酒場でイカサマをやって首を吊るされている男を発見。その男ターク(チル・ウィリス)は左手に何者かに噛まれた傷があり、イエローレッグはタークをついいままで女と遊んでいたタークの相棒ビリー・ケプリンガー(スティーヴ・コクラン)と共にタークを助け外に引っ張り出す。

 イエローレッグはタークとビリーに銀行強盗をして、一儲けしようと持ちかける。二人は乗り、早撃ちが得意なビリーはイエローレッグを気に入るがタークはイエローレッグの上から目線な態度が気に入らない。三人はヒラという町に入った。

 イエローレッグとビリーは酒場に立ち寄る。その酒場では神父さんが神の教えを説きに来るらしく、その説話の間は酒場を教会として貸し切り、閉店してしまうらしい。

 やがて町人たちがゾロゾロと酒場へ入ってくる。その中には踊り子のキット・ティルドン(モーリン・オハラ)と息子でハーモニカを吹くのが好きなミード・ジュニア(ビリー・ボーン)もいた。キットの父親は既に他界しており、子どもと2人で町に住んだためにほかの町人から名前も知らない男の子を孕んだ尻軽女と噂されていた。

 ビリーはキートに欲情。そこへ牧師(ストローザー・マーティン)が入ってきてありがたいお話を町人にし始める。

 牧師は酒場で帽子をしているイエローレッグ、ビリー、そして合流したタークに帽子を取るよう言う。応じるビリーとタークだったがイエローレッグは帽子を取らずに不機嫌そうに去っていった。イエローレッグは帽子を寝るときも取らないのだ。

 タークは手に入れた金で自分の思いのままのフリードニア共和国(「我輩はカモである」(1933年)という映画でも名前が登場)という国の建国を夢見ていた。奴隷を雇い、軍人を雇い軍国主義的な国にしたいそうだ。しかしビリーはそんなタークの夢を嘲笑する。

 イエローレッグはカクストン医師(ウィル・ライト)に右腕の中にある銃弾の摘出を依頼しようとしたが、それが長くなるため取りやめた。医師はイエローレッグの顔に見覚えがあるといい、かつて南北戦争のころ、北軍に所属し南軍の兵士に頭の川を剥ぎ取られそうになった兵士だろう、と確信していた。

 イエローレッグはその南軍兵士への復讐を目論んでおり、その復讐相手というのはタークのことだった。イエローレッグはタークの左手の噛まれ傷で確信していた。

 一方ビリーは酒場でキットのことを気に入り拳銃をぶっぱなして牧師のお話を中断させ、彼女に接吻をする。キットはビリーにビンタを食らわせる。キットとタークは酒場を去っていった。

 ダンスホールに戻ったキットを追おうとしたビリー。そこへイエローレッグが帰ってきて銀行強盗開始の合図をする。

 いざ銀行に向かおうとした時、別の銀行強盗が銀行から出てきた。イエローレッグたちは拳銃で強盗を退治するが、イエローレッグが右腕で撃った弾がミード・ティルドン・ジュニアに当たり、死なせてしまった。キットは悲しみに暮れながらミードの遺体を運ぶ。

 キットは自分たち親子を蔑む町人たちがいるこの町・ヒラにミード・ジュニアを埋葬するのが許せなくて、町長(ペーター・オクロティ)、牧師、雑貨屋のキャル(ジェームズ・オハラ)の説得も聞かず夫ミードの墓があるサリンゴに埋める、という。

 しかしサリンゴはすでに廃墟の町でヒラからサリンゴへの道はアパッチ族の襲撃が多発している地帯。だがキットは誰の手も借りずに自分ひとりで行く、と強情を張っていた。

 そのことを聞いたイエローレッグは護衛を申し出るが、息子を死なせた恨みからその申し出も拒否する。ビリーも彼女への性的興味から同行を申し出るがやはり拒絶しひとりで馬車を走らせて出発した。イエローレッグとビリーは勝手に彼女の護衛をすることに決める。しかしタークは銀行強盗の事しか頭になく、同行を嫌がっていた。

 命令ばかりしてくるイエローレッグに嫌気が差していたタークはビリーに射殺するよう言うが、背後から銃で撃つのは流儀に反するとして断る。

 やっと全力でイエローレッグたちから逃げるキットの馬車に追いつく。再び護衛を申し出るもやはり断るキット。

 しかしキットの馬車は沼地にハマってしまい動けなくなってしまう。イエローレッグとタークが逃げたキットの馬を追いかけ、ビリーは馬車を引き上げるのを手伝う。

 しかしビリーはキットに無理やりキスをする。突き放したキットはそのまま沼に全身浸かってしまいびしょ濡れになる。ビリーは「ダンスホールの女がキスくらいで」と軽んじた発言をした。キットはビリーに殺意すら抱く。

 イエローレッグは頭皮を剥がされたガンマンの死体を発見する。どうやらアパッチ族の襲撃を受けて殺されたガンマンのようだ。

 服を脱いで乾かすキット。タークはイエローレッグに対し、キットに惚れ込んでしまったんだろう?とからかう。そしていつまでも帽子を取らないイエローレッグに帽子を取るよう拳銃をつきつけてビリーが言うが、イエローレッグのそれでも帽子を取らない姿勢に感心し、銃を収めた。

 タークはビリーにまたくだらない共和国建国の夢を飽きもせずに話し始める。一方、イエローレッグはキットに自分への恨みは分かる、と言い自分も恨みを復讐する時が来ていることを話す。

 その時、ビリーが試し撃ちを勝手にした。慌てて銃声の方に銃を向けようとしたイエローレッグだったが拳銃を落としてしまう。イエローレッグは落としてしまった拳銃を取り、ビリーは勝ち誇ったように不快な笑みを浮かべていた。

 夜。タークはビリーに自分が盗んできた将軍の帽子を見せびらかすがビリーの反応は冷めたものだった。タークと見張りを交代したあと、ビリーはキットに迫り彼女を無理やり抱擁しキスをしはじめた。イエローレッグはビリーを殴りつけて、彼をヒラに追い返すことにした。しかし復讐の相手タークも帰そうとはしなかった。

 翌朝、タークは一人でビリーの後を追って一人で戻ってしまった。イエローレッグはキットの意思が固いことを確認しサリンゴ行を止めようとはせず、別れを告げてタークを追いかける。

 しかしキットは馬に逃げられてしまい泣き伏せてしまった。イエローレッグはターク追跡の道中で、彼を追いかけるを止めてキットの下に戻ることにした。

 戻ってきたイエローレッグにキットは私を責めないのか、と問いかける。しかしイエローレッグは何か言うことを嫌がり、そのことについて言うことはなかった。

 馬を進めたイエローレッグとキット。道中、アパッチ族の大群に襲撃されている馬車を発見。アパッチの野生的な襲撃についに馬車は倒されてしまった。

 コーヒーを飲むイエローレッグとキット。キットはヒラを目指す道中のサリンゴで夫ミードが死に、自分とミード・ジュニアだけが残ってサリンゴに着いたが、町の人々の自分たちへの目は冷たく、町の方々で尻軽女と身元知れずの父親の子供と呼ばれる羽目になってしまったのだ。

 太陽が沈み、夜になったころ。イエローレッグはアパッチから馬を奪いに出かけた。アパッチのキャンプ地につき、見張りをしていたアパッチの男(バック・シャープ)を殴りつけ、馬を一頭奪い、もう一つの馬車を拳銃で脅かし、走らせる。アパッチ達は夜の暗闇に紛れたイエローレッグに気づかずに慌てて馬車を追いかける。しかし殴られたアパッチの男はイエローレッグに気付き一人で追跡をはじめた。

 馬を連れて帰ったイエローレッグは行水中のキットに出発を伝える。

 翌日の昼。馬車のわだち【※1】を消すために馬車の荷車を埋めるべくキットにその穴を掘らせる。疲れたキットと交代したイエローレッグ。イエローレッグはミード・ジュニアの棺も埋めようとしたが、キットがそれを許さなかった。
※1】わだち:車輪の跡

 夜、追いかけてきたアパッチの男の矢が近くに刺さる。しかしそれ以上の攻撃は仕掛けてこなかった。

 荒野を歩くイエローレッグとキットは岩場の陰で休んだ。イエローレッグはまだタークへの復讐を諦めていないらしい。

 その時、馬が足元に蛇がいて怯えている。イエローレッグは蛇を撃ち殺すが、馬にも当たり、馬は骨折してしまった。使い物にならなくなった馬は殺さなければならないため、イエローレッグは馬を撃ち殺す。

 再び歩き出した二人だったがまたしてもアパッチの襲撃が。しかし矢は当たらない。どうやらアパッチは恐怖を与えに与えて後で殺す算段らしい。キットはイライラが溜まり、アパッチの方へ拳銃を持って突っ込んでいこうとしたが、イエローレッグに制止させられ頬をぶたれる。

 キットは感情が高ぶってイエローレッグに抱きつくが、我を取り戻し離れる。

 夕方、別の岩場の陰で休憩する二人。眠りにつくイエローレッグの帽子の中が気になったキットはイエローレッグの帽子を取ろうとするがイエローレッグはその手を止めて拒否した。イエローレッグは帽子を取らない理由を隠さなくてはいけない訳があるとしか答えなかった。

 翌朝、起きてみるとアパッチ族の男に馬を殺されていて、人力で棺をサリンゴまで運ばなくてはならなくなってしまった。

 歩き続けて夕方。洞穴を見つけてそこをキャンプ地とすることに決めた。そしてイエローレッグはアパッチの男の襲撃を待ち伏せし殺すことに決めて洞穴を出ようとする。キットはイエローレッグに同行してくれた感謝の意を伝える。

 夜になり、アパッチ族の男が洞窟に潜入する。キットはすぐ後ろにアパッチの男を発見し思わず撃ち殺してしまった。銃声を聞きつけたイエローレッグが洞窟に戻り、キットが拳銃を持ったまま放心しているので彼女から拳銃を取った。

 やっとのことで廃墟の町サリンゴに着いた二人。墓場でミード・ティルドンの墓を探すイエローレッグだったが、見つからない。キットはそれを聞かされイエローレッグに自分が名前知れずの男の子供を産んだのだ、と誤解されていることに傷つき墓場を探すがどこにも無い。

 そんな時、イエローレッグは崩落した屋根を墓場で発見。それをどかしてみるとミード・ティルドンの墓があったのだ。

 ミード・ティルドンの墓を見つけた知らせに二人は喜ぶ。しかしそこにヒラの銀行を襲って金を奪った後のビリーとタークが現れた。ビリーはイエローレッグの拳銃を取り上げる。

 廃墟の家の中で対談をするビリーとイエローレッグ。どうやらビリーの話ではタークやビリーを町民たちはアパッチの襲撃を恐れて追いかけてこないらしい。ビリーはタークに銀行の金の分け前を馬のところへ取りに行かせその隙にイエローレッグにタークを殺すように指示して外に出ていった。

 キットはイエローレッグに復讐を止めてほしい、ミード・ジュニアが死んだのは事故と認めるが復讐をしてしまったときあなたを愛することはできない、と言う。イエローレッグは帽子を取り、自分が頭を剥ぎ取られそうになった傷跡を見せて「これでも愛せると言えるか?」と言う。

 しかしキットはそんなことを気にもしなかった。イエローレッグはそれだけで嬉しかった。むしろ、自分こそ踊り子として醜い男にキスをされたり、いやらしい事をされた心の傷を負っている。そんな私を愛せるか?とイエローレッグに尋ねる。イエローレッグは言葉の代わりにキスで答える。

 そこへタークが入ってきた。復讐を思い出したイエローレッグはキットが止めるのも聞かずに追いかけ発砲する。タークとイエローレッグは撃ち合いになるがどちらも弾が当たらない。

 見かねたビリーがタークを撃つ。そしてイエローレッグに決闘を申し込むがイエローレッグは復讐にしか興味がなくビリーを相手にしない。ビリーに裏切られたタークは仕返しに発砲しビリーを撃ち殺してしまった。

 タークは廃墟の家屋の中で篭っていてイエローレッグに追い詰められてしまう。金や自分の建国する共和国での地位で命乞いをするがイエローレッグは聞く耳を持たない。

 イエローレッグは自分の頭の傷を見せて正体を明かし、タークの頭をナイフで剥ぎ取ろうとする。そこへキットがやってきて説得する。イエローレッグはキットを追い出し、ナイフを刺す。タークの頭のすぐ近くに。

 イエローレッグは廃屋を去っていった。廃屋の中ではタークが「ビリー!!はやくイエローレッグを殺せ!!」と狂ったように叫んでいた。イエローレッグは復讐に失敗した。複雑な気持ちのイエローレッグはキットに抱きつくのだった。

 そこへ銀行強盗のビリーとタークを追いかけてヒラの町長や牧師らがやってきた。アパッチを恐れず銀行強盗の逮捕に来たようだ。牧師はイエローレッグに頼まれミード・ジュニアの墓で祈りを捧げる。

 連行されるタークは未だに共和国の話をしており、保安官らに共和国に入らないかと誘っている。町長たちはヒラへと列をなして戻っていき、イエローレッグとキットは手を繋ぎながら馬に乗りどこかへと去っていった・・・






 ペキンパーがこんな生ぬるい作品でデビューするとは、とちょっと意外な気もしました。私の中でペキンパーは「戦争のはらわた」というイメージが強いので。


 ここからは私の邪推を述べさせていただきます。

 ペキンパーといえば、残酷なイメージが強いですね。そんな監督が作ったこの映画。確かに男と女が結ばれ男が復讐を止めてハッピーエンド、ちゃんちゃん。という結末ですね。でも私はどうもこの映画がただのハッピーエンドには思えないのです。

 この映画のブライアン・キース。右腕に埋め込まれてる銃弾のせいか、ことごとく人殺しに失敗しています。一見すると主人公は優しいガンマンってことですね。モーリン・オハラの役と結ばれるに相応しい・・・まあ確かにそうとも取れますね。ただ、ブライアン・キースがこの映画の作中で明確に死なせてしまったのが一人。ミード・ジュニアというハーモニカ吹きが好きな少年ですね。

 これってミード・ジュニアくんからしたらとても残酷なことじゃありませんか?母キットが自分を死なせた男と愛を深めてしまったって。確かに贖罪の気持ちから棺運びを手伝いましたが、なんだかハッピーエンドで終わってない気がしますね。しかもブライアン・キースは幾度かサリンゴではなく道中で棺を埋めようとさえしていました。まあ安全を考えてのことなのでしょうが・・

 そう考えると私としてはただのハッピーエンドではなく、人間の残酷さを僅かに描いているような気がしますね。これはあくまで私個人の邪推に近いものなので皆さんはこう思わないで、ただのハッピーエンドだと思ってくれてもいいんです!ただ私はどうもペキンパーが残酷な作品のうまい監督さんだ、という執着があるようですからそういう発想に至ったのかもしれません。

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終戦の翌年公開の映画です。


『家計の数学 生計費500円』 (1946年・日)
生活費500円
スタッフ
監督:竹内信次
演出:竹内信次
撮影:丸子幸一郎
配給:日本映画社


 竹内信次監督作品「家計の数学 生計費500円」

 竹内信次さんが政府が国民に押し付けた生計費500円という政策についての記録映画です。当時の闇市やら食事情やらをうまく映しています。終戦直後の人々の生活を知るのにもいい映画です。

 竹内信次というのは記録映画監督です。ほかに「北方の霧」(1948年)、「太陽と電波」(1957年)、「ガソリン(1962年)、「生活と寸法 モデュラー・コーディネーション」(1962年)、「世界の魚網」(1964年)などの作品があります。

 占領軍の軍事費を当時日本が負担していた際にあまりにも日本の資産が足りず、国債を発行しまくりインフレが始まりました。現在では国債乱発が終戦のインフレの原因ではなく人々の物資不足により大量の消費をしまくったのが原因という説が強いようですが。
 日本政府は国民に一世帯一月500円の生計費でいこう、というインフレ対策を打ち出しました。当時の100円が現在の約2万7千円程度なので500円というと現在の約13万円程度です。また当時の1円は現在では約267円といったところでしょうか。

 ちなみにこの作品は「昭和の暮らし」というDVDの第4巻に収録されています。


【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 日本人はいままで数字のデータを考えようとせず、数字のデータを出されると全て真実だと鵜呑みにしてきた。数字というのは物事を正しく理解するのには必要な手段であることをこの映画で学びましょう。


 怒涛のように押し寄せる終戦直後のインフレーション。それと共に日本銀行券は大発行された。だがそれでも全く間に合わない。インフレが紙幣を乱発させ、紙幣の乱発がインフレを招くという悪循環が続く。そして国民の生活は苦しくなっていく。

 インフレを防ぐ防波堤の一つとして政府は一世帯一月の生活費を500円とする措置を国民に押し付けた。しかし果たして100円札5枚で一世帯が暮らせるものなのだろうか。

 政府の考える一世帯とは一家5人。主人37歳、主婦31歳、子供が13歳、8歳、4歳。この家族の一ヶ月の生活費は500円。その500円は住居費、教育・修養【※1】・娯楽費、交通費、被服費、保健衛生費、嗜好品費【※2】、光熱費、飲食費、予備費【※3】の総計。
※1】修養:知識や知性を高めること。おそらく今でいう教養を磨くことに置き換えられる。本を買うことなどが含まれる。
※2】嗜好品:なくても生きていける口・鼻にいれるもの。食料品費は生きていくのに必要不可欠な食事の料金。嗜好品費は間食(おやつ)や酒代などが含まれる。
※3】予備費:災害などの不測の事態や、予定外に収入が下がったとき、支出が予定より多すぎたときに補われる費用のこと。

 まず住居費53円(現1万円4千円程度)には家賃のほかに家の修理や家具などが含まれる。一畳あたり約8円(現2140円前後?)。政府のいうように家賃が約38円(現1万円前後)とすると、残り15円(現4000円前後)で台所用品や家具などの修理や買い替えも賄わなければならない。
 しかし15円じゃ弁当箱+しゃもじ、か大きなバケツ一個くらいしか買い替えられない。

 続いて教育・修養・娯楽費。ラジオは2円50銭。新聞代が月5円(現1355円程度)。2人の学校通いの子供の学用品が6円(現1869円程度)。こどもの絵本や雑誌を買えば8円(現2136円程度)。
 更に娯楽の中には映画も含まれた政府の計算のようだが、安い映画ならば5人家族のうちの1人のみ月一回映画を観られる程度。しかし5円の入場料をとる映画館や芝居鑑賞はまずムリ。

 お次は交通費33円(現8811円程度)。まあバカバカしい戦争をしたおかげ(映画のナレーションが言っていた通りに書いただけです)で遠い郊外から都内に電車などで通うことになる。
 東京での定期券一人あたりの平均は35円(現9345円程度)。ご主人の通勤以外に家族が電車に乗ることは出来ないことになってしまう。汽車での旅行だなんてとんでもない。

 被服費は一世帯につき年400円(現10万6800円程度)が基準となっている。しかし配給がさし当たられるのは妊婦などのみ。洋服がズタボロは当たり前だし、しかも足袋や下駄などもこの内で賄わなければならない。
 靴の修繕費もだいたい50円~70円(現1万3千円~1万9千円程度)かかる。贅沢なんざできませんな。

 保健衛生費は39円(現1万400円前後)とされる。入浴は一週間に一回、銭湯にかかる費用は5人で10円(現2670円程度)。散髪代は子供含め8円(現2136円程度)。ただし子供は髪は半分しか切れません。
 また、石鹸とチリ紙は配給で1円。保険料約5円(現1335円前後)も含まれる。あとは安い風邪薬か胃腸薬など10円程度のものしか買えない。身だしなみとしての化粧品はもう予算オーバーで買えないので女性はおめかしできない。
 子供が風邪になっても残りは5円(現1355円程度)ほどしか無いので、小児科に連れていけない。

 嗜好品費23円。酒は配給分、瓶一つの半分ほどで7円50銭(現1890円前後)。タバコを一日5本として一ヶ月に約6円(現1600円前後)を見込む。タバコの「ピース」や「コロナ」【※4】はお高くて買えやしない。
 残るは9円50銭(現2500円前後)であとは一ヶ月のおやつにみかん8個ほどしか買えない。1人、2つと3分の1しか食べれない。
※4】コロナ:1946年に発売開始したタバコ。ただし1年ほどで発売されなくなった。

 光熱費。一ヶ月、電気が20キロワット。ガスは10立方メートル。それはやかんでお湯を沸かすことならできるが、ご飯を炊くことはできない。配給として木炭5俵、薪12マを予定している。これでは半煮えのご飯しか食べれない。いくら寒くても暖房や炬燵も使えない。

 さて一番大事であろう飲食費237円(現6万3000円程度)。政府の言うような順調な配給がされるのであれば主食の米は2号1勺で一月100円(現2670円程度)。副食費は農林省の計画では117円(現3100円程度)。調味料は20円(現5340円程度)。これで237円。一日の食事は7円90銭(現2100円程度)。
 政府の配給が順調に行き渡って、5人家族は一日に5620カロリーしか摂取できない。主人は一日に1320カロリーを摂取。更にこれを3食分に分けなくてはならない。
※主人の摂取できる一日の食事。更にこれを3食に分ける。
一日分の食事

 主人が通勤に使用する満員電車で押され押されるだけで1時間400カロリー消費。往復4時間で1600カロリー。更に駅に行くまでの行き帰りではのっそり歩かなければならない。
 また栄養学の観点で言えば、一般的な勤務をするのに2400カロリー。電車の運転など重労働の場合は3000カロリー以上を消費する。色々な活動を抑えようと努力しても大人はどうしても2160カロリーの消費は必要とする。
 一家族一日に9210カロリーは要する。政府の配給通りでは3590カロリー足りないことになる。この不足分はどうしても闇市で補わなければ倒れてしまう。
 闇市で一番安いものを買いまくって補ったとしても一ヶ月654円(約17万円程度)になってしまう。政府の予定する予備費50円(現1万3千円程度)を全部つぎ込んでも603円(現16万円程度)も赤字が発生する。

 配給量を振り返っても、明らかに人一人がマトモな生活を送れる量ではない。これは日本政府があまりにも国民の生活に対して配慮がないことを示している。封鎖預金【※5】から引き出せばいい、という意見があるがほとんどの一般市民にそんな預金はなく、仮にあったとしても国民ほとんどが引き出すとまたしてもインフレーションが発生してしまう。
【※5】封鎖預金:政府が引き出しを禁じた預金。当時の劇的なインフレーションを抑えるための政府の政策。

 この生計費500円政策の末に待っているものは、飢餓と餓死しかないのではないでしょうか。

 そんな暗い未来から逃れる方法、それはない訳ではない。生産増強、そして配給だけで生活できるようにすること。更には物価を下げること。でもそれが解消されないのは政府が金持ちに擦り寄った政策ばかりするから。すべての人が働けて、働くための食事を安定させるために戦わねばならない。






 要するにこの政策は国民をあまりにもバカにしているので、変えるべきだ、という主張が混じった記録映画です。ちなみに後に朝鮮戦争が始まって米軍が物資を必要としたので日本はそれに乗じて供給速度を上げて儲けまくり高度経済成長期に差し掛かり、やがてはこの戦後のインフレが解消されていくようです。

昭和の暮らし 第4巻 [DVD]昭和の暮らし 第4巻 [DVD]
(2013/06/19)
チャイナ ビジョン

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刑事

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ニューヨーク、シナトラ、刑事物語。お洒落な組み合わせです。


『刑事』The Detective (1968年・米)
刑事
スタッフ
監督:ゴードン・ダグラス
製作:アーロン・ローゼンバーグ
原作:ロデリック・ソープ
脚本:アビー・マン
撮影:ジョセフ・バイロック
特殊効果:L・B・アボット
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
キャスト
ジョー・リーランド:フランク・シナトラ
カレン・リーランド:リー・レミック
ノーマ・マカイバー:ジャクリーン・ビセット
トム・ファレル署長:ホレース・マクマホン
デーブ・シェーンステイン刑事:ジャック・クラグマン
カラン刑事:ラルフ・ミーカー
ネスター刑事:ロバート・デュヴァル
ロビー・ラフリン刑事:アル・フリーマン・ジュニア
テディー・ライクマン:ジェームズ・インマン
コリン・マカイバー:ウィリアム・ウィンダム
フィリックス・テスラ:トニー・ムサンテ
ウェンデル・ロバーツ博士:ロイド・ボックナー


 ゴードン・ダグラス監督作品「刑事」。原題は「The Detective」。

 ゴードン・ダグラス。この人は刑事もの、アクションもの、西部劇ものなど多くの作品を手がける人でもあります。他に「電撃フリント・アタック作戦」(1967年)、「続・夜の大捜査線」(1970年)なども作った監督さんです。50年代~70年代後半まで映画を作ってました。
 元々はゴードン・ダグラスではなく、マーク・ロブソンが監督する予定だったようですがシナトラがダグラスと組んだ際に彼を気に入ったのと「脱走特急」(1965年)の撮影での衝突が原因でダグラスが置かれたようです。

 製作はもともとあの「ゴッドファーザー」(1972年)や「チャイナタウン」(1974年)の製作を務めることになるロバート・エヴァンスがする予定で契約に署名もしたんですが、パラマウントに製作部長として引き抜かれたようですね。

 主演はフランク・シナトラ。この人はあまりにも有名な歌手であり俳優でありますね。この映画はシナトラの俳優キャリアの中で後半の方の作品です。貫禄があって頑固な名刑事というのが似合ってました。ダグラス監督とは「セメントの女」(1968年)、「トニー・ローム 殺しの追跡」(1967年)、「七人の愚連隊」(1963年)でも組んでいます。

 さてシナトラはこの映画の公開の年に当時の奥さんのミア・ファローと分かれてます。ミア・ファローに家庭に入るよう強要したシナトラで、ファローに期限付きの撮影の参加を認めます。しかしその期限を破ったら離婚、と。ファローは「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)の撮影に参加しましたがスケジュールが遅れたのと前述したロバート・エヴァンスに説得されてミア・ファローは離婚を決意したようです。

 シナトラの奥さん役はリー・レミック。やはりこの女優さんといえば、「酒とバラの日々」(1962年)でジャック・レモンの奥さんになって酔っ払いになった人でしょうか。あとは「オーメン」(1976年)でグレゴリー・ペックの奥さんもやってましたね、怖い役でしたよ。この「刑事」という映画では色情狂の女性を演じてます。

 あと未亡人ノーマ・マカイバー役はジャクリーン・ビセットになりましたね。でもこの役、他にも「鳥」(1963年)で小学校教師を演じたスザンヌ・プレシェットやバーバラ・パーキンスもオーディションを受けていたようです。確かにジャクリーン・ビセットも綺麗なんですが私にはスザンヌ・プレシェットに勝ってこの役を勝ち取ったというのが少し意外でした。

 さてこの映画の原作はなんと、ダイ・ハードの“原作小説”の前作らしいんですね。そもそもダイ・ハードの映画自体原作より登場人物の設定やテロリストの設定を変えてるようでして、それでも私は驚きましたね。向こうはブルース・ウィリスがマクレーンを演じていて、若々しいのに前作に値するこの映画では初老のフランク・シナトラが演じている。この映画はアクションもそんなに無いですもの・・この映画の小説の続編がダイ・ハードなのだ、と教わっても疑ってしまうほどになにもかも違う映画でした。

 実は後の「ダイ・ハード」(1988年)でもシナトラは出演を打診されたようですが、73歳という高齢で流石に無理だったようです。ちなみにシナトラとウィリスは「第一の大罪」(1980年)で共演しています。

 一番最初に言ったとおり、この映画はニューヨークが舞台。アクションは抑え目。名音楽家のジェリー・ゴールドスミスが音楽を担当していて全体的にお洒落です。でもニューヨークの街が綺麗なのに刑事さんたちや警察署はまるでドブネズミのように汚いし、暴力だらけ。組織の腐敗が示されてますね。その中でシナトラが頑固な刑事。シナトラが醸し出すお洒落な雰囲気はミスマッチ。だからシナトラがそんな汚さと戦うのではないでしょうか。


【あらすじ】

 ニューヨーク市警の刑事ジョー・リーランドはホモが惨い死体で殺された事件を捜査する。容疑者は同居人のホモ。ジョーは頑固者の刑事で出しゃばってきた議員に喧嘩を売りつける。それが原因でこのままでは警部補への昇進が難しい。署長は二日以内に解決すれば警部補に昇進できる、というが・・・

)













【以下全文ネタバレ注意】














↓四行後にネタバレ文あり




 ニューヨーク市警の刑事ジョー・リーランド(フランク・シナトラ)は巡査のケリー(シュガー・レイ・ロビンソン)に挨拶をして現場のマンションに入る。今月3件目の殺しで被害者は実業家ライクマン家の子息テディー(ジェームズ・インマン)。

 ジョーは新入りのロビー・ラフリン刑事(アル・フリーマン・ジュニア)を紹介される。二人で被害者の部屋に入ると、全裸で胸に数箇所の刺し傷、頭に数発の殴打痕、そして指数本と男性器が切断されたテディ・ライクマンの遺体が仰向けであった。

 ジョーは部屋に入ってきたデーブ・ショーンステイン(ジャック・クラグマン)に遺体の処理を任せ自分は部屋を調べる。そしてカラン刑事(ラルフ・ミーカー)に手がかりがないことを見つからないことを聞き、ネスター刑事(ロバート・デュヴァル)とメルシデス刑事(パット・ヘンリー)にロビーのことを紹介する。

 ジョーはベッドに精液のシミを見つけ、寝室の入口に白い砂を発見し鑑識に回す。更に薬品ケースの中身、そして洋服ダンスからオイルを発見し鑑識を回す。

 その後で検視官(ジェームズ・デュカス)から被害者テディがホモセクシャルであることを聞く。死因は殴打、指と性器の切断にはナイフが使われた模様。

 検視官の報告を聞いたあと、上の階の住人で被害者テディと親しかったキャロル・リンジャック(ディキシー・マークィス)の事情聴取をする。殺されたテディとの関係は親しい友人、という関係のようだ。またキャロルによれば同居人の男がいたという。ジョーはキャロルからテディには同居人の男がいるという重要証言を聞き、その男を探させる。

 そこにお喋り好きな議員さんがやってくる。ジョーは犯罪増加率の現象を訴える議員の肩書きを盾に押し入ろうとする議員を追い払う。

 警察署に帰ったあと、トム・ファレル署長(ホレース・マクマホン)に呼び出しをくらう。トム署長は警察署の評判を落とさないために過激なことはするな、と叱りつけるがジョーは頑固な男で反省の色一つ見せない。

 その後、ジョーは妻カレン(リー・レミック)が参加しているパーティを訪れる。だがジョーはカレンに話そうとしたことを止め、そのパーティを去る。帰りの車でジョーは昔のことを思い出す。

 ジョーは大学で教員をするカレンに一目惚れした。そしてカレンも出逢いを重ねるうちに少し変だけど男らしいジョーに惚れ込み結ばれる。その後、ジョーがカレンに結婚を申し込み二人は見事に結婚する。

 ある日、ジョーはスピード違反の犯人を撃ち殺してしまった警官ジャック・ハーモン(トム・アトキンス)の聴取をする。ジャックの相棒のターナー(パトリック・マクヴィ)の証言を基に再現してみるが、どう見てもジャックの主張する拳銃の暴発とは食い違う。しかし面倒事を嫌うトム署長は不問に処してしまい、ジョーはジャックに「俺だけは貴様を許さん」と言って去っていった。

 帰宅したあと、カレンに公表するべきだ、と言われてもジョーは刑事であることに固執しそれを拒否する。父親がずっとヒラ刑事で、以前飛び降り自殺をしようとした人間を登っていって止めようとして失敗した過去をカレンに話す。そしてジョーはいつも自分から愚痴をこぼされて損な結婚をしたな、と言うがカレンはむしろ与えられる利益ばかり、と言ってジョーを励ます。

 ジョーはバーに来ていた。そこで見知った麻薬中毒者の娘シャロン(シャロン・ヘネシー)からジョーの計らいで自分の罪を今回は見逃してほしい、と頼んできてジョーはそれを承諾する。

 シャロンと入れ違いでトム署長がやって来る。ジョーはシャロンが麻薬を買うために金を稼ぐ19歳の娘だ、と皮肉交じりに紹介。そして税金がそういった貧困の人々の支援にきちんと行き届かず、自分たちのような人間の給料やお偉いさんの懐に入る現在のニューヨークの状況を嘆く。

 トムはホモのライクマンが殺された事件の進展について聞く。トムはジョーを今月の昇進試験に推しているらしく、圧力をかけて邪魔をする議員の鼻を挫くためにも、この事件を2日以内に解決すれば昇進は確実だ、と言う。慎重に捜査しようとしていたジョーだったが、やはり昇進はしたいようだった。

 翌日、記者会見に対応したジョー。記者の議員の抗議についての質問に挑発で返すのだった。

 ジョーはキャロルの証言を基に書いた似顔絵を持って警官隊を率いてゲイの溜まり場である港へ向かう。ゲイ一人一人に似顔絵の男と被害者テディーのことを聞いていくが、知っている人間はいない。ジョーはホモを差別し乱暴に聞き込みをするネスターを腹パンチしてたしなめる。

 ジョーは議員に喧嘩を売った新聞を読んだカレンから手助けできることがあったら言って、という励ましを受ける。それから部下の刑事たちに、被害者が持っていたオイルから被害者がスポーツジムに通っていたかもしれない、というルートで捜査を始めることにした。

 その捜査の甲斐あってデーブ・ショーンステイン刑事が被害者の通っていたジムを見つけた。店員に同居人の似顔絵を見せるとその同居人の身元も分かった。同じジムに通っていたフィリックス・テスラー(トニー・ムサンテ)だった。ジョーは被害者の部屋にあった白い砂から海辺のホテルを総当りする作戦に出る。

 ジョーはロビーと共に砂浜の近くのホテルを訪れる。そこでどうやらフィリックスが泊まってるようだ。ジョーはロビー係にフィリックスに電話しないよう釘を打っておく。

 階段を登ろうとしたジョーにロビーから容疑者がビーチへ逃げた、という知らせが。ロビーが容疑者のフィリックスを海岸で追いかけとっ捕まえる。

 警察署に連行されたフィリックス。カラン、ロビン、レスターらは手荒い取り調べを行うがフィリックスは黙秘。そこでジョーがみんなを追っ払い一人で吐かせようとする。

 ジョーはまずフィリックスの故郷カナダのトロントの話から始めて、被害者のテディは酷い仕打ちをする男だったんじゃないのか?という被害者の話から始める。フィリックスはポツポツと話を始め、テディの身体は女のように柔らかかった、とか性格と肉体の話から、フィリックスがテディを憎んでいたことを認めさせた。

 そこからジョーは畳み掛けるようにテディを憎んでいたから殺したのだろう、と押し付けるような質問をする。フィリックスは挙動不審な行動を取り狂ったように悶えてから、やがて自分が殺したことを認めた。

 フィリックスはテディのいわゆるホモセックスフレンドだったのだが、テディに飽きられてしまい家から出て行けと言われたという。お金のないフィリックスは職が見つかるまで同居させてほしかったのだがテディがそれを認めなかったのでフィリックスは激情のあまり殺してしまった、と泣き叫び狂ったように自白する。

 ジョーの昇進はほぼ決まったようなものだった。しかしジョーはホモセクシャルがホモセックスフレンドを痴情の縺れで殺した、というマスコミの格好の餌にされている姿に哀れんでいてあまり喜べなかった。また、フィリックスは取り調べのときに明らかに頭がおかしかったのにマトモな精神鑑定結果も出ずに検察が死刑にするだろう、ということを悔しく思っていた。

 ジョーはその夜、カレンの下に行きフィリックスが明らか精神異常者なのに死刑になるだろうことに不服なことを愚痴り彼女に愛を求める。そしてジョーはカレンと結婚してから、別居をするまでのことを思い出していた。

 ある夜、ジョーは妻カレンが学生時代の旧友マット・ヘンダーソン(リチャード・クリッシャー)と楽しくおしゃべりしている場面を見て声をかけた。そのときは本当にただの再会だと思ってた。

 しばらくして、ちょっと遠出の出張をしていたジョーが家に帰ってきた夜、カレンからマットと浮気していたことを聞かされる。ジョーはカレンを叱りつけて電話をさせてマットと別れさせる。

 別の夜、ジョーはバーからカレンが知らない男と出てくるのを目撃し引き離して家に帰宅させる。その知らない男というのはマットとは別人のようだ。カレンはどうやら結婚する前から一人の男のみと関係を持つことができない色情狂だったらしい。結婚してから治ったと思ったが最近、また再発しているという。しかしジョーへの思いは本当の愛である、と主張する。だがジョーは到底許せるはずもなく、今の別居の状態に落ち着いているのだ。

 回想が終わり、はっきりしない関係が続くことに苛立っていたカレンはジョーに別れるか関係を修復するか、を迫っていた。ジョーは関係を修復することだけはありえない、と言い残してカレンの下を去っていった。

 ジョーの昇進が決まった日、フィリックスの有罪と死刑が決まった。公開処刑に傍聴席で立ち会うジョー。フィリックスは目でジョーに何かを訴えかけ、それから電気椅子で処刑された。

 昇進して少し偉くなったジョーは事件の相談に来たノーマ・マカイバー(ジャクリーン・ビセット)の相談に乗る。ノーマは夫コリン(ウィリアム・ウィンダム)が競馬場から飛び降り自殺した、というのが信じられないらしく他殺を疑っていた。

 他にも事務所に泥棒が入ったり、検視官や雇った探偵までもが何かを恐れて執拗に自殺と決めつけたがること、遺留品の手帳が警察から戻ってきたときに数ページ破られていたことなど不審なこと続きでただの自殺ではないだろう、ということをジョーに話す。

 ジョーはその自殺の担当刑事カランに事件のことを聞く。カランはのらりくらりとジョーの尋問をとぼけて返す。しかし自殺であることに間違いはない、と何者かに命じられてるようにしつこく言う。

 しばらく外出して警察署に戻ったとき、ジョーは少女が、その少女の暮らしているアパートの使用人に誘拐・暴行されて殺された事件のことを知る。担当刑事のビリーはその使用人の容疑者を裸にひん剥いて尋問していた。ジョーはその容疑者に服を着せてやりビリーを叱責する。しかしビリーは逆上し、ジョーにホモ死刑にして昇進したくせに、と毒づく。

 トム署長とその件で話をしていたとき、スラム街の貧困層の人々のデモ隊をとっ捕まえる自分の署の警察隊を見て驚く。ジョーはそんなデモをするのは病院もマトモな住宅も立てずスラムのボロ家街に押し込める市のお偉いさんに原因がある、と主張。トムはそんなジョーを叱責し、君を次期署長に推薦したのだから揉め事を起こさないでくれ、と頼まれる。

 バーでジョーはカランと飲んでいた。カランは事件を自殺に処理することで自分に大金をくれる人間の存在を明かすが、誰とは言わなかった。

 ジョーはノーマから夫コリンの生前の写真を受け取る。その後でコリンの女性関係のことを聞いてた時、二人にカレンが話しかけてくる。たまたま同席じレストランで食事していたようだ。ジョーはカレンからの同席の誘いを断り、ノーマに別居中の妻だと話す。それからコリンの友達に精神科医のウェンデル・ロバーツ博士(ロイド・ボックナー)がいることを明かす。そしてレストランを離れる。

 ロバーツ博士の家を訪れたジョー。そこにはロバーツ博士のほかにノーマもいた。ノーマはよく隣家同士ということで遊びに来ているらしい。ロバーツと一対一で話そうとするジョーを察しノーマは砂浜に出かけた。ジョーはロバーツ博士が何かを隠していることを確信する。

 ジョーはノーマから知らされた事務所の他に書類を置いていた家の物置部屋に入る。そこには帳簿があった。そしてそのいくつかの帳簿には“RAINBOW”の名前が何度か登場し気になる。

 ジョーは部下のデーブの家に行き、回収した帳簿の帳尻が合わないが合わないことに気付く。また、その帳簿にズラッと並ぶ名前は街の有力者たち。デーブに調査を頼み、ジョーはデーブの妻レイチェル(レネー・テイラー)の作った食事も食べずに帰る。

 駐車場に車を止めたジョーは暗殺者二人の襲撃を受ける。ジョーはその二人をなんとか返り討ちに遭わせた。

 署に来たジョーはカランを呼び出し外で殴ってカランに金を与える人物のことと破りとったページのことを聞くがカランは言えば自分が殺される、として拒否した。

 家に帰宅するとカレンが待ち構えていた。カレンは妬きながらノーマは危険な女だと評する。そして自分の性衝動を抑えたくても抑えられない、という自己嫌悪の話をする。ジョーはそれらを抑えるためには抑えようとする努力、勇気が必要だと答える。

 電話でデーブに呼び出されたジョー。デーブは“RAINBOW”がニューヨーク都市開発計画委員会と絡んでいることを突き止めた。その委員会は市にどの土地を買えば市立病院やら市営住宅やらを建てたりスラム街の再築をするのに適するか提案するために設立された。だが裏を返すと、委員会のメンバーと繋がりある企業たちが既にその土地を安く買い上げ、市に高く売りつける、という不正売買をする組織なのだ。

 ジョーはデーブに家を出ないように言い、デーブの妻レイチェルも実家に一時、帰した方がいいと言う。それからノーマに電話でロバーツ博士の事務所に忍び込むのでロバーツ博士を呼び出して引き止めておいてほしいと頼み込む。

 事務所に潜入したジョー。しばらく漁るが電話がかかってくる。ノーマからでコリンが書類を忘れて事務所に取りに戻るという。ジョーは電話を切ってからしばらく漁りコリンの名前が書かれた封筒を発見。中にはテープが入っていた。

 そこにロバーツ博士が戻ってきた。ジョーは拳銃を向けてロバーツ博士にテープを再生するよう言う。ロバーツ博士は何度か聞いても誰も幸せにならない、として忠告したが折れてテープを再生する。

 それはコリンの告白だった。コリンは陸軍時代などにホモセックスをしたことがある。最近、それらとは完全に断ち切れたと思ったのに同性愛に目覚めつつあったのだ。コリンはゲイの溜まり場であるバーに入り、そこで同じホモセクシャルのテディ・ライクマンと出会う。

 テディの家に連れ込まれたコリンは未だに苦悩していた。しかしテディはコリンを挑発するようにホモだと一目で分かった、と言う。憤慨したコリンは掴みかかってしまいテディは警察を通報しようとする。

 コリンは頭がいっぱいになってしまいなんとか止めようとしてテディと揉め合いになりついには殺害してしまった。このことは黙っておくつもりだったが、自分の代わりにフィリックス・テスラーが逮捕され死刑にされ、良心の呵責に耐え切れずロバーツ博士に告白したのだ。

 フィリックスは精神異常者でおそらく自分が殺した、と思い込んでいたのかもしれない。冤罪を作ったことをしったジョーは悩む。しかしこのテープの中身を公表し都市開発計画委員会を訴えることにする。

 都市開発計画委員会を訴えたジョー。そして仲間に迷惑はかけない、とトム署長に辞表を提出する。なぜこんなことをするのか聞くと自分の性分だから仕方ない、と答えた。

 ジョーはノーマにも真実を伝えた。ノーマは刑事を辞めてこれからどうするのか聞く。ジョーは自分の人生はこれまで警察に捧げてきた。また人生を一からやり直しだ、と話しお休みの挨拶を交わして去っていった。

 車でどこかへと向かうジョー。その車に警察無線が流れるがジョーはそれを切ってしまう。








 この映画にはセックス中毒、麻薬中毒、そして中毒症状とはちょっと違うけど同性愛を断ち切れずにいる人が出てきますね。シナトラは言いました。自分の断ち切りたいことを断ち切るには勇気がいる、と。シナトラも悪を葬るために自ら勇気を出しまして、そして断ち切りました。なにを?自分が刑事でいることに対する固執をです。自らの正義を全うし貫き通すために。

刑事(デカ) [DVD]刑事(デカ) [DVD]
(2006/10/13)
フランク・シナトラ、リー・レミック 他

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Category: 洋画タ行
五十音順。シリーズ物ならば五十音順よりも優先。

実写映画
007 ドクター・ノオ(1962年・英)
007 ロシアより愛をこめて(1963年・英)
哀愁(1940年・米)
アダムス・ファミリー(1991年・米)
雨に唄えば(1952年・米)
アラバマ物語(1962年・米)
ある犯罪の物語(1901年・仏)
アルファベット(1968年・米)
意志の勝利(1935年・独)
E.T.(1982年・米)
犬の生活(1918年・米)※短編映画
ヴェニスの子供自動車競走(1914年・米)※短編映画
動く歩道からの風景/動く歩道の風景(1990年・米)※短編映画
英国王のスピーチ(2010年・英)
エクソシスト(1973年・米)
エデンの東(1955年・米)
大いなる幻影(1937年・仏)
おしゃれ泥棒(1966年・米)
オズの魔法使い(1910年・英)※短編映画
襲われた幌馬車(1956年・米)
お化けホテルのジョルジュおじさん(1900年・米)※短編映画
汚名(1946年・米)
貝殻と僧侶(1928年・仏)
(1951年・米仏印合作)
間諜(1937年・英)
キートンのスケアクロウ(1920年・米)※短編映画
キートンのセブン・チャンス(1925年・米)
キートンのハイ・サイン(1921年・米)※短編映画
キートンの文化生活一週間(1920年・米)※短編映画
機械的舞踏(1924年・仏)
寄宿学校の少女たち(1897年・米)
キッド(1921年・米)※短編映画
吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年・独)
給料日(1922年・米)※短編映画
禁じられた遊び(1952年・仏)
グランド・ホテル(1932年・米)
荒野のガンマン(1961年・米)
荒野の用心棒(1964年・伊)
午前一時(1916年・米)※短編映画
ゴッドファーザー(1972年・米)
こねこ(1996年・露)
サンセット大通り(1950年・米)
サンドウ(1894年・米)※短編映画
史上最大の作戦(1962年・米)
七年目の浮気(1955年・米)
十戒(1956年・米)
自転車泥棒(1948年・伊)
市民ケーン(1941年・米)
白い少女(1958年・仏)※短編映画
シャイニング(1980年・米)
ジャックと豆の木(1902年・米)※短編映画
ジョーズ(1975年・米)
スタンフォード大学(1897年・米)※短編映画
戦艦バウンティ号の叛乱(1935年・米)
戦場にかける橋(1957年・英米合作)
戦争のはらわた(1977年・西独、英合作)
捜索者(1956年・米)
底抜けシンデレラ野郎(1960年・米)
ソリのある風景(1898年・米)※短編映画
ダイ・ハード ラスト・デイ(2013年・米)
大列車強盗(1903年・米)※短編映画
断崖(1941年・米)
チャイルド・プレイ(1988年・米)
チップス先生さようなら(1969年・米)
チャップリンの霊泉(1917年・米)※短編映画
罪と罰(1935年・米)
デイ・アフター・トゥモロー(2004年・米)
ティファニーで朝食を(1961年・米)
刑事(1968年・米)
天文学者の夢(1898年・仏)
トップ・ガン(1986年・米)
トップ・シークレット(1984年・米)
何が床屋を混乱させたか(1898年・米)※短編映画
ナバロンの要塞(1961年・米)
肉片の恋(1989年・捷)※短編映画
ネブラスカ魂(1948年・米)
のらくら(1921年・米)※短編映画
八十日間世界一周(1956年・米)
バルカン超特急(1938年・英)
パン屋の楽しみ(1902年・米)※短編映画
ひとで(1928年・仏)
一人の釣り人(1896年・米)※短編映画
フリークス(1932年・米)
プリティ・ウーマン(1990年・米)
ブルー・マックス(1966年・米)
フレンチ・コネクション(1971年・米)
ペイ・フォワード(2000年・米)
部屋(1968年・捷)※短編映画
ホーム・アローン(1990年・米)
望郷(1937年・仏)
北北西に進路を取れ(1959年・米)
慕情(1955年・米)
魔法のお絵かき(1900年・米)※短編映画
見知らぬ乗客(1951年・米)
三つ数えろ(1946年・米)
民衆の敵(1931年・米)
メアリー王女の処刑(1895年・米)※短編映画
メトロポリス(1927年・独)
モロッコ(1930年・米)
めまい(1958年・米)
許されざる者(1992年・米)
汚れた顔の天使(1938年・米)
ラ・マンチャの男(1972年・伊)
ロイドの要心無用(1923年・米)
老人と海(1958年・米)
ロープ(1948年・米)
ローマの休日(1953年・米)
ロシア革命(1906年・露)※短編映画
ロミオとジュリエット(1968年・英伊合作)
ロリータ(1962年・英)
チャップリン映画
ヴェニスの子供自動車競走(1914年・米)※短編映画
午前一時(1916年・米)※短編映画
チャップリンの霊泉(1917年・米)※短編映画
犬の生活(1918年・米)※短編映画
キッド(1921年・米)※短編映画
のらくら(1921年・米)※短編映画
給料日(1922年・米)※短編映画
キートン映画
キートンのスケアクロウ(1920年・米)※短編映画
キートンの文化生活一週間(1920年・米)※短編映画
キートンのハイ・サイン(1921年・米)※短編映画
キートンのセブン・チャンス(1925年・米)

アニメーション映画
ギャロッピン・ガウチョ(1928年・米)※短編映画
くまのプーさん(2011年・米)
総統の顔(1943年・米)※短編映画
ファンタジア(1940年・米)
プレーン・クレイジー(1928年・米)※短編映画
ミッキーの自動車修理(1935年・米)※短編映画
ミッキーの大演奏会(1935年・米)※短編映画

映画以外
トワイライト・ゾーン「奇妙なカメラ」(1960年・米)
※TVドラマ
五十音順。シリーズものの場合、五十音よりも優先されます。

実写映画
生きる(1952年)
稲妻(1952年)
男はつらいよ(1969年)
続・男はつらいよ(1969年)
隠し砦の三悪人(1958年)
家計の数学 生計費500円(1946年)※短編映画
キッズ・リターン(1996年)
黒の奔流(1972年)
g@me.(2003年)
ゴーゴー仮面ライダー(1971年)
血煙高田馬場(1928年)
殺人狂時代(1967年)
幸福の黄色いハンカチ(1977年)
死に花(2004年)
女優と詩人(1935年)
世界大戦争(1961年)
大学は出たけれど(1929年)※短編映画
第五福竜丸(1959年)
大病人(1993年)
大誘拐 〜Rainbow kids〜(1991年)
太平洋の鷲(1953年)
太陽を盗んだ男(1979年)
探偵物語(1983年)
椿三十郎(1962年)
てぃだかんかん(2010年)
東京物語(1953年)
ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ(2007年)
二十四の瞳(1954年)
張込み(1958年)
ブルークリスマス(1978年)
北辰斜にさすところ(2007年)
また遭う日まで(1950年)
またたく魔(2008年)※短編映画
醉いどれ天使(1948年)
夜ごとの夢(1933年)
臨場 劇場版(2012年)
悪い奴ほどよく眠る(1960年)

アニメーション映画
クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険(1996年)
クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲(2001年)
サマーウォーズ(2009年)
ストライクウィッチーズ 劇場版(2012年)
涼宮ハルヒの消失(2010年)
そらのおとしもの 時計じかけの哀女神(2011年)
超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか(1984年)
となりのトトロ(1988年)
Fate/stay night Unlimited Blade Works(2010年)
ポケットモンスター ミュウツーの逆襲(1998年)
耳をすませば(1995年)
名探偵コナン 時計じかけの摩天楼(1997年)
名探偵コナン 14番目の標的(1998年)
名探偵コナン 世紀の魔術師(1999年)
名探偵コナン 瞳の中の暗殺者(2000年)
名探偵コナン 天国へのカウントダウン(2001年)
名探偵コナン ベイカー街の亡霊(2002年)
名探偵コナン 迷宮の十字路(2003年)
名探偵コナン 銀翼の魔術師(2004年)

その他
その花びらにくちづけを あなたと恋人つなぎ(2010年)
※OVA作品。18歳未満閲覧禁止
金田一少年の事件簿 死神病院殺人事件(1997年)
※TVアニメスペシャル
クロスロード(2014年)
※CM
だれかのまなざし(2013年)
※CM
八つ墓村(2004年)
※TVスペシャル
ディズニーアニメの最高傑作と名高い映画作品です。


『ファンタジア』 Fantasia (1940年・米)
ファンタジア
スタッフ
監督:ベン・シャープスティーン
動画監督:ウォード・キンボール
製作:ウォルト・ディズニー
脚本:ジョー・グラント、ディック・ヒューマー
音楽監督:エドワード・H・プラム
音楽:レオポルド・ストコフスキー指揮、フィラデルフィア交響楽団
製作会社:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
キャスト
ナレーター:ディームズ・テーラー
指揮者:レオポルド・ストコフスキー
ミッキー:ウォルト・ディズニー


 ベン・シャープスティーン監督「ファンタジア」。原題は「Fantasia

 原題のファンタジアを直訳すると「幻想曲」というタイトルですね。この映画には曲が絶対に欠かせません。また、この映画の曲にはこの映像が欠かせません。互いに互いを必要とした結果、素晴らしい調和が生まれました。その奇跡の調和によって作られたのがこの映画です。

 ベン・シャープスティーン。この人はディズニーアニメーションの名監督です。「ミッキーの自動車修理」(1935年)の監督さんでもあります。ディズニー初期~中期作品において欠かせない人だったのでしょう。

 なんと音楽はフィラデルフィア管弦楽団で指揮はレオポルド・ストコフスキー。レオポルドはフィラデルフィア管弦楽団の地位を上げたことで有名ですね。この映画には美しく荘厳な音楽が欠かせません。映像と音楽が互いを頼りにしています。その音楽が権威あるフィラデルフィア楽団が担当しました。音楽に関して文句なしです。

 そして製作にはディズニーのお父ちゃんのウォルト・ディズニー。この映画は今まで見てきたディズニー映画のなかで一番、幻想的な気がしますね。こういう映画を作れるディズニー社っていうのは本当にすごいと思いますよ。

 ちょっとソフトのお話しますね。今までのDVDでは休憩中にミッキーとストコフスキーが握手するシーンと「サウンドトラックくん」の紹介シーンが削除されていたんです(パブリックドメインDVDにはあったようですが)。ところが私、TSUTAYAで借りたとき、偶然DVDがなくてBDで借りて観たんですね。ブルーレイにはちゃんとそれらのシーンも入ってました。知らなかったのですがブルーレイを偶然借りれてよかったです。




【あらすじ】

 フィラデルフィア楽団の演奏のもと、6つのアニメーションが音楽と調和して流れる。













※申し訳ありませんが、音楽動画を貼るのは控えさせていただきます。ご自分でご覧になった時にお楽しみください。
【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 ストーリーテラー(ディームズ・テーラー)はこの映画が、多数の音楽家をはじめとする指揮者(レオポルド・ストコフスキー)と、多数のアニメーターをはじめとするウォルト・ディズニーの手によってこの映画が作られたことを紹介する。

 この映画はまず音楽をアニメーターが聴きそれを、デザイン・絵などを頭の中に思い浮かべてアニメーション化したものである。つまり音楽評論家などによる解釈ではなくアニメーターたちによる奔放で柔軟な思想のもと解釈されたものがアニメとなっているのだ。

 ファンタジアには三つの音楽が登場する。
●物語性のある音楽
●特定の物語はないが、情景をイメージさせる音楽
●音の構成によってのみ作られた音楽

 さて最初に奏でられるのはヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲の「トッカータとフーガニ短調」。これは三つ目の音楽でしかない音楽である。

 冒頭はオーケストラの指揮者やら演奏者やらの映像が。しかし人々はやがて様々な自然のイメージを膨らませるようになる。そのイメージを映像化したものがファンタジアである。

~トッカータとフーガニ短調♪

 その音楽に合わせた色彩とアニメーションの映像が見られる。


 作曲家は時に、自分の曲の評価を間違えてしまう。チャイコフスキーですら自分の作曲した組曲「くるみ割り人形」をとても嫌っていた。ある劇場のバレエ音楽として捧げるために作られたこの組曲。当時のバレエ公演こそ失敗したものの、きっとあなたが聞き覚えのあるくらいは有名になっただろう。

~組曲 くるみ割り人形♪

夜の野原に青、黄、紫の色とりどりの光を輝かせた妖精たちが舞っている。妖精たちは植物や蜘蛛の巣に光の粉を撒いていく。光の粉を振りかけられた大小のマッシュルームたちが踊りだす。一番小さなホップ・ロウも遅れずについていこうとする。

 水辺にこぼれ落ちていく花たちはやがて踊り子のようにクルクルと水面を回りだす。それは春の快活さのようだ。

 水の中ではセクシーな金魚たちがカメラが近づいてくるのを気にして逃げる。金魚たちはやがて誘惑的な舞を披露していく。

 アザミの少年とランの少女たちは元気よく踊りだし美しい花となった。アザミは夏の元気一杯さを、ランは秋の訪れを表している。

 秋の妖精たちが目覚め、植物を秋の色に色づけていく。紅葉たちが秋の訪れと共に秋風に吹かれながら音楽に合わせて舞い始める。トウワタの踊り子たちも空をクルクルと回りながら舞い、地面に落ちていく。

 次に目覚めたのは冬の妖精たち。植物に霜を降りかけ、川の水面をスケートのように滑りながら凍らせていく。美しい雪の結晶を身にまとった妖精たちが次々と地面に降りていき、曲が締められる。


 さて次は明確な物語のある音楽。ゲーテの詩を基にして音楽がつけられた交響詩で、ゲーテの詩というのは2000年前の「魔法使いの弟子」【※1】という魔法使いとその弟子が登場する物語。
 魔法使いの弟子がせっかちなために、お師匠さんの魔法を見様見真似で真似したものの解き方が分からないもんだから大慌て。という珍騒動のおはなし(ドラえもん「ロボッターの反乱」と似ている)。
※1】そのゲーテの詩も、ルキアノスの詩「嘘を好む人たち」を基にしている

~魔法使いの弟子♪

 ミッキー(ウォルト・ディズニー)は魔法使いマーリンの弟子で見習いとしてまずは水汲みをやらされている。ミッキーは水汲みとしてあくせく働きながらマーリンが魔法を使う場面を見ていた。

 マーリンが魔法の帽子を置いて眠りについたあと、ミッキーはマーリンの魔法の帽子をかぶって早速ホウキに魔法をかけてみる。するとホウキがひとりでに動き出した。

 ミッキーはこのホウキくんを自分の代わりに水汲みをやらせようとする。ホウキくんはきちんと水汲みをやってくれている。ミッキーはその隙にマーリンのイスに座って夢を見る。

 夢ではミッキーが夜空に光る星星を操って自在に流れさせたり動かしているのだ。ミッキーが操るのはなにも星だけでなく、波打つ海、雲、雷すらも操る大魔術師、そんな夢だった。

 滑稽な夢から目覚めたミッキーは部屋が洪水になってるのを見てビックリした。ホウキくんがまだせっせと水汲みをしていてもう水溜から溢れる始末。

 ミッキーは急いでホウキくんを止めようとするがホウキくんは無視して水汲みを続ける。さあミッキーはホウキくんを止める呪文が分からない。

 ミッキーは斧を取り出しホウキくんを破壊した。やれ一安心。と思いきやホウキくんの分裂した破片一つずつが一つのホウキに蘇る。

 ホウキの大群はバケツと共に行進。水汲みを全うしに向かう。止めようとするミッキー。止まらないホウキの大群。ホウキくんたちの頑張りで部屋はもう大洪水状態。

 やっと起きたマーリンはすぐに魔法で事態を収拾。ミッキーから帽子とホウキを取り上げ、さっさとバケツで水汲みに向かわせたのだった。

 演奏の終わったあとミッキーは指揮者のストコフスキーと“対面”し握手を交わす。


 イーゴリ・ストラヴィンスキーは原始人の生活を表す「春の祭典」を作曲。ディズニーたちはその意図を汲み取りつつも、本来が原始人の部族の踊りを表現しているのに対し、改変してこの曲を生物の創造と進化の過程をこの曲に合わせることにした。つまりこれは単なる想像だけでなく科学者が唱える地球誕生から数十億年後までの生物の進化を描いた再現科学の作品でもある。

 地球に登場した最初の生命体は単細胞の有機体生命。微生物が海中に存在するだけだったが、やがて海の中で生物の種類が増えていき、10億年を経て陸への生活移住を求む海中生物が両生類へと進化。そしてそれらがギリシア語でいうところの“怖いトカゲ”を意味するダイナソーこと恐竜へと変わる。

 恐竜には様々な種類がありニワトリみたいな小さな魔物から数百トンのどでかい恐竜まで。ただし知能はハト並みで種類によって生息する場所は水陸空と異なる。多くは草食の穏やかな恐竜だったが、史上最強の殺し屋ティラノサウルを代表するような獰猛な肉食恐竜もいた。

 2億年も恐竜が地球を支配する時代があって、その後何らかの地球の大きな変化が訪れる。それには大規模な地震・干魃が発生し地球全体が塵に覆われたのだ、と唱える学者さんもいた。

 さてこの物語は地球にはなにも生息していなかった時代から始まり恐竜の絶滅という時代の一区切りによって終わる。

~春の祭典♪

 全くの暗闇の宇宙に一つの銀河があり、その銀河の中の一つの星・地球。地球は目立たない星で、荒野があり、山があり、噴火口があり、といった大したことのない星だった。

 その星で突如として一斉に大噴火が起こる。流れ出るマグマに対し、地球の荒れた気候は大津波で対抗。津波はなにもかも飲み込み海の支配する星となった。

 海の中では大量の微生物が出現。それらの形がどんどん大きくなっていく(クラゲみたいな生物がウヨウヨしているイメージ)。動物は他の動物を食べ、増殖を繰り返す。

 やがて脊椎動物が現れ始める。それらの脊椎動物のうち、陸に近づいた生物たちの一部が陸への上陸を果たすようになり両生類が誕生していく。亀や首長竜、巨大なトカゲなど。近い時期にプテラノドンなどの空を飛ぶ生物まで誕生していた。勝てば餌が与えられ、負ければ餌になるという弱肉強食の時代は既に始まっている。

 恐竜の時代も進化していき草食恐竜は仲間や家族と寄り添いあって集団で生活している。それを乱すのはティラノサウルス。逃げ惑う草食恐竜たち。

 ティラノサウルスはそのうちのステゴサウルスの尻尾に噛み付く。ステゴサウルスもタダで食われるわけにはいかない。ステゴザウルスとティラノサウルスの一騎打ちがはじまるが、ティラノサウルスがクビに噛み付き、ステゴサウルスは負けてティラノの肉と化す。

 更に時代は進み、植物と水のほとんどが枯れ、恐竜たちは植物と水のあるところへ、ひたすら大群で歩いていく。だが恐竜たちは一体また一体と次々と息絶えていく。

 更に時代が進むと恐竜の骨しか残らなくなった。それから地球で大規模な地震が発生。地下の水が一斉に地表に流れ出て何もかもを飲み込んだ。地球はほとんどが海に飲み込まれ太陽がそれを見守るばかりとなった。


 ここで15分間の休憩が挟まれる。

 15分間の休憩が終わったのち、サウンドトラックくんの紹介が挟まれる。内気なサウンドトラックくんはディームズ・テーラーによって楽器ごとの振幅を見せる。


 ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。ベートーヴェンは自然を愛し故郷の田園の一日の情景を描く曲を作った。さてウォルトはそれを広く解釈し神話の舞台を与える。舞台は神々の山オリンポスの山。

 現れるのはユニコーン、ファウヌス、天馬ペガサスの親子、半人半馬のケンタウルスと恋人たちのケンタウレット、酒の神バッカスが登場し宴会を催す。だが嵐が起こりウルカヌスが作る稲妻の矢をゼウスが下界に放っている。嵐が過ぎ去ってから虹の女神イリス、太陽の馬車で空を駆けるアポロ、夢の神モルペウスが夜のマントで世界を覆い、最後に月の女神ディアナが新月の矢を放って星を散りばめる。

~田園交響曲♪

 オリンポスの山の上で、こどものユニコーンが元気よく駆けていた。ファウヌスが笛を笛を吹きながら元気よく踊っているのに混じったユニコーンたち。

 空には黒いこどもペガサスがお父さんペガサスについて飛んでいた。生まれたばかりのペガサスもお兄ちゃんたちが飛んでいるのを見て自分も飛ぼうとするが未熟なのでまだ飛べません!ぶどうの海に紛れてお母さんペガサスに助けてもらいました。そしてお母さんペガサスの手助けでなんとか飛べるようになる。

 家族みんなで水辺にやってきたペガサスたち。水辺で飛び込みをして遊ぶこどもペガサスたち。

 水辺の川を辿り下流まで行くとケンタウレットたちが川で行水をしている。ケンタウレットたちはキューピーに手伝ってもらって美を磨くのに勤しんでいる。ケンタウレットたちは果敢なケンタウルスの集団と出会いキューピッドの手助けを借りながら二人一組でイチャつき始める。

 やがてケンタウルス、ケンタウレットたちがぶどうを一つの樽に集め、その樽でファウヌスがぶどうを踏み潰しながら果汁100パーセントのぶどうジュースを作り出している。

 やがて酒の神バッカスがジャッカス【※2】に乗ってご入場。バッカスを中心に楽しい酒宴が開かれる。
※2】ジャッカス:オスのロバ

 楽しい一時に嵐が近づいてくる。ゼウスと稲妻の矢を作るウルカヌスだ。ゼウスはウルカヌスの作った矢を無作為に下界に投げ込む。大荒れの下界。

 ゼウスが下界嵐に飽きて去ったあと、また楽しい時がやって来る。やがて虹の女神イリスが虹を空にかけてペガサスがキューピッドたちと虹で遊ぶ。

 日も落ちかけて太陽の神アポロが馬車に乗って駆けていき下界にさよならと手を振る。太陽が落ちて夢の神モルペウスが夜のマントで世界を覆い夜にする。眠りにつく住人たち。月の女神ディアナが矢を放つと夜の空にお星様が散りばめられていった。


 次はアミルカレ・ポンキエッリの有名な歌劇「ラ・ジョコンダ」より「時の踊り」。登場するダンサーのうち最初のダンサーは夜明けの薄い光の色の衣装をまとい、次は昼をイメージする鮮やかな光の色、次は黄昏を思わせる出で立ちのダンサーたち、最後は夜をイメージさせる黒装束。フィナーレは突然のまばゆい光が暗闇を圧倒する。舞台はヴェネツィアのアルヴィーゼ公爵のお屋敷。

~ラ・ジョコンダより 時の踊り♪

 薄明るい朝の空をバックにダチョウのミリ・ウパノヴァたちが軽やかで気品のあるバレエのダンスを踊る。ダンスの途中でぶどうをめぐって取り合いになってるうちにぶどうが泉に入ってしまい慌てて逃げ出すダンサーのミリ・ウパノヴァたち。

 昼が訪れヒヤシンス・ヒッポが泉から現れぶどうをほうばる。そして仲間のカバたちが一緒に出てきてヒヤシンス・ヒッポたちのちょっと重いけれども華麗なダンスが見れる。

 やがて夕方が訪れカバたちは引っ込んでヒヤシンス・ヒッポは眠りに落ちる。そこでやってきたのはエレファンシーネらゾウのダンサー。長い鼻をいかし、時にはシャボン玉も鼻から作り出してそれを巧みに使い綺麗なダンスを踊る。

 やがて強風が吹き込み、シャボン玉とゾウたちが吹き飛ばされていく。黒装束をまとって颯爽と現れたのはワニのダンサーたち。時には勇ましく、時には怪しく踊るダンサーたち。リーダーのベン・アリ・ゲータはヒヤシンス・ヒッポを気に入ってしまう。

 ヒヤシンス・ヒッポとベン・アリ・ゲータの二人によるダンスが披露される。そして二人の追いかけっこも始まる。カバの軍団が、ゾウの軍団が、ダチョウの軍団がワニの軍団によって運ばれていく。そしてオールスターでのダンスが繰り広げられ閉幕する。


 さてファンタジアの最後を飾るのは構成も曲調も全く異なる二つの曲を組み合わせたもの。最初はモデスト・ムソルグスキー「禿山の一夜」でその次にフランツ・シューベルトの「アヴェ・マリア(エレンの歌第3番)」。清と邪の戦いがこの二つの曲のぶつかりにより繰り広げられようとしている。

 舞台はサタンとそのしもべたちが集まる禿山。その山でヴァルプルギスの夜祭が開かれ魔物たちが悪とサタンを讃えて踊り狂う。夜明けを知らせる町の鐘の音と共に悪霊たちは元の場所へ去っていき、聴こえてくるのは「アヴェ・マリア」。この歌が知らせるのは希望と生命が絶望と死に打ち勝ったこと。

~禿山の一夜♪

 禿山のてっぺんで死神チェルノボグが目覚める。チェルノボグは町を闇に墜とし、サタンやら亡霊やらとその下僕らを呼び起こし禿山に集める。そして禿山のてっぺんで噴火を起こし周囲を火に包む。サタンたちは踊り狂ったりチェルノボグによってまるで生贄のようにいとも簡単に火口に放り込まれたり、炎に包まれたりする。

 チェルノボグは自分を悪の炎で包み込み、そこにあるのは恐怖と絶望。サタンや幽霊は大喜びで踊りまくる。チェルノボグはそれらを全て炎で包んで火口に放り込み、勝利のポーズを取る。

 絶望のまま終わってしまうのか・・・その時、一瞬の光と鐘の音が鳴る。その組み合わせが二度、三度と続く。チェルノボグはその光を浴びて鐘の音を聞かされるたびに動揺する。サタンも幽霊もそれと共にその音と光に怯える。

~アヴェ・マリア(エレンの歌第3番)♪

 サタンは元の世界に戻り、亡霊たちは墓場に戻っていく。悪の宴が終わるときがきた。チェルノボグもまた、その活動を終える。

 そして聖なる力を信じる巡礼者たちは松明を持って暁の森の中を行進する。そしてアヴェ・マリアの美しい歌と共に日が昇った・・・





 私はこれほどまでに自然を描いたアニメーションに美しく荘厳な音楽を調和させた映画を見たことがないです。今は作画が綺麗、という言葉が多用されますが、この映画は作画が美しいと言えるでしょう。「」もすごく美しい実写映画でしたが、こちらはすごく美しいアニメ映画といえますね。

 アニメーションの部分に人間世界を匂わせるシーンがほとんどありません。これは俗世間を忘れ美しい絵と美しい音楽で夢の世界に浸るべし、ということですね。絵という芸術と音楽という芸術がミックスし二つの芸術の限界を超越した芸術です。これ一つの映画で美術の教科書、美術館ができるでしょう。

 前述した通り、人間世界を匂わせるシーンがほとんど無いというのに関連して。この映画はとにかく自然と生命を尊重しながら描いています。
人間が誕生する前の世界。
人間の干渉されない神話の世界。
人間が踊らず動物がダンサーの世界、ここは朝から始まり夜に終わりますね。
春夏秋冬の情景を描いた世界。
魔法の世界(マーリンは魔法使いということで人間とは別物扱いとします)。
音とそれに合わさった振幅などの映像だけの世界。
 しかし音を奏でる奏者は人間です。これはアニメーションを自然、音楽を人間に持ってくることで人間と自然との関わり合い、調和。そういったものを示してるのではないでしょうか。

 そういえばお遊びで指揮者のストコフスキーとミッキーが“共演”を果たしましたがこのシーンってウォルト・ディズニーがアニメーションの世界はここまで広がったんだぞ!という自慢みたいな意味があったのだと思います・・

 各所でディズニーアニメ最高傑作と呼ばれてます。私もその意見には頷けますね。ただ私はディズニーアニメの美術的な面で最高傑作、に留めておきます。きっとディズニーアニメ映画に刺激とか早い展開のみを求める人には同じ評価は出せないと思ったからです。

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(2011/04/20)
ディズニー

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『金田一少年の事件簿 死神病院殺人事件』(1997年・日)
スタッフ
原作:金成陽三郎
原案:天樹征丸
脚本:遠藤明憲
編集:後藤正浩
音楽:和田薫
キャスト
金田一一:松野太紀
七瀬美雪:中川亜紀子
明智健悟:森川智之
剣持勇:小杉十郎太
聖正映子:玉川砂記子
聖正秋人:池田秀一
雪室憂一:池田秀一
木根淳也:二又一成
高沢和子:五十嵐麗
水島タキ:上村典子
聖正貴美子:皆口裕子
聖正景太郎:大塚周夫
 若いころ:二又一成
聖正智明:中村秀利


 「金田一少年の事件簿 死神病院殺人事件」。1997年10月13日に日本テレビ系列で放映された1時間スペシャルのようです。

 金田一、というとじっちゃんこと金田一耕助といい、この金田一一といい、奇妙な事件にばっかり遭遇しています。金田一という苗字にはどうも奇妙な雰囲気があるようです。

 脚本の遠藤明憲は銀河英雄伝説OVAやミスター味っ子などの脚本作家さんでもあります。アニメの脚本作家さんとしては一流の人のようですね。

 実はこの作品、確かに原作は金田一少年の事件簿のCDブック「死神病院殺人事件」なのですが、+して明智さんの活躍が描かれていますね。これは前述の死神病院殺人事件のCDブックのオマケとして入っている「明智警視の華麗なる休日」が原作ですね。この二つを混ぜ合わせたスペシャルアニメです。


【あらすじ】

 金田一一は運ばれた病院で事件と遭遇する。その病院は死神病院という恐ろしいあだ名が付けられており、金田一が入院中にも殺人事件が発生する。どうやら3年前の病院院長の長男坊が死んだ事件が関わっているようで・・・













【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




 警視庁刑事部捜査一家の剣持勇(小杉十郎太)警部は聖正総合病院外科部長の扇谷三郎が殺された事件を追っていた。扇谷は殺されたあと、遺体にブロンズ像を乗っけられていた。そして扇谷の遺体は赤いリボン付きの鈴を握っていた。

 腹痛で聖正総合病院に運ばれてきたのは金田一一(松野太紀)、そして付き添いで一緒に来た七瀬美雪(中川亜紀子)。聖正総合病院医局長の聖正智明(中村秀利)は看護士の聖正映子(玉川砂記子)の諌めも聞こうとせず追い返そうとしていた。そこへ事件の調査をしていた剣持が運ばれてきた金田一を発見する。

 パリの出張の帰りに豪華客船クイーンアンジェリカ号で休暇を楽しんでいた明智健悟(森川智之)は日本人と話すのが久しぶりだ、と寂しがっていたパリの美術展覧会の帰りだという女性美術雑誌記者の醍醐真紀(百々麻子)と出会う。明智は今までスケッチしていた絵を醍醐に興味を持たれたが見せずに秘密にし、乾杯する。

 剣持は金田一が餃子の大食いに失敗して食い過ぎで腹痛を起こし搬送されたと知り愉快に笑っていた。結局、剣持の取り計らいで追い返されずに個室に入れた金田一であった。剣持はその代わりに金田一を病院で起きた扇谷の殺人事件の調査に無理やり協力させる。

 最初に会ったのは院長の聖正景太郎(大塚周夫)。しかし彼は酒に溺れており映子の忠告も聞かずにさっさと去っていった。

 一通り、事情聴取をした剣持たちはまだ事情聴取が残っている、景太郎、智明、映子、婦長の高沢和子(五十嵐麗)の事情聴取をまとめてする。

 扇谷の遺体を最初に発見したのは婦長の高沢。昨夜殺されたため、物音はしなかったか、と聞くが深夜勤の映子も気付かなかったという。深夜は正面玄関の鍵は閉めるものの急患の可能性を考え、他の入口は開けているという。被害者の扇谷に思いつくトラブルや人間関係のこじれもないという。

 そこへ智明の妻で景太郎の娘・聖正貴美子(皆口裕子)が車椅子でやって来る。体調が悪く先週から入院しているそうだ。更にいつの間にか部屋に居た外科医医師の雪室憂一(池田秀一)の存在に剣持は気付く。雪室は景太郎の次女である映子のフィアンセだそうな。

 剣持は遺留品に心当たりある者はいないか、と聞いて鈴を見せる。するとその場に居た一、美雪、剣持以外の全員が動揺する。

 クイーン・アンジェリカ号の船長ダグラス・ハワード(真夏竜)は明智健悟に名の知れた怪盗・怪盗紳士からの予告状を見せる。そこには「明日、この船に飾られている名画『クイーン・アンジェリカ』を頂戴する」と書かれていた。

 盗んでも隠し場所なんてどこにもない、だからイタズラだろうというハワードに対し明智は怪盗紳士に十分に警戒する。

 聖正病院の医局室では和子と智明が口論をしていた。二人で何かプランを進めているようだが、和子は怖気づいて降りようとする。しかし智明が「私が扇谷を殺したとしても降りるかね?」と威圧する。どうやら二人の話では扇谷もそのプランに加わっていたようだ。

 金田一と美雪は殺害現場を見ていた。そこへ入院患者の木根淳也(二又一成)が声をかけてくる。彼によるとこの病院は“死神病院”という物騒なあだ名が付けられているらしい。それだけ言って彼は去っていった。

 呆然とする一。そこに鈴の音が聞こえてきた。一は階段を降りて音のする方へ歩いていく。そして廊下で、鈴の音がこちらへ近づいて来るのが分かった。

 その音の正体は水島タキ(上村典子)という婆さんがついている杖だった。タキはここは死神の棲む病院だ、入れば生きては帰れない、という恐ろしいことを言い出す。その発言は狂気じみていた。映子がやってきてタキを追い返す。

 木根は一と美雪に婆さんの鈴が昔死んだ若い医師の形見だということを話す。

 昔、タキは息子の一夫(千葉進歩)をこの病院で亡くしていた。しかし亡くなる直前、長男の聖正秋人(池田秀一)は懸命に処置をし、回診の度にその音を聞くと快復した気になる、と言っていた鈴の音をチリンと鳴らして一夫を励ましていた。だが一夫は死んでしまったのだが。

 その後、一夫の死は医療ミスであることが判明。開発中の新薬を実験として一夫に与えてしまい、その副作用で死んでしまったのだ。

 秋人がその新薬を与えたのかは不明だが、後に秋人は責任を感じて自殺した、という。崖から飛び降り、その右手に鈴が握られていたという。一は病院の医師看護士の面々が鈴を見て動揺していた様子を思い出した。

 明智健悟は醍醐真紀のことを剣持に調べさせた。そしてその結果を聞き、明智は何らかを狙って醍醐真紀と朝食を共にする。

 一はベッドに寝ながら聖正秋人の3年前の自殺の資料を眺めていた。秋人が飛び降りたあと、崖の一部が崩落し秋人の遺体の顔を潰して誰の顔だか判別できないほどにしてしまったそうだ。

 夜、景太郎は秋人の写真を見て涙しながら酒を飲んでいた。そこへ貴美子がやって来てそんな父を咎める。秋人はこの病院に泥を塗った男だ、と写真を取り上げる貴美子に景太郎は写真を取り返し、秋人のことを思い出して涙する。

 憂一は秋人の影を追っていつまでも忘れないでいる映子を咎めていた。

 夜中、一は美雪のトイレに付き合わされていた。廊下に差し掛かったとき、廊下の奥から鈴の音が聞こえる。奥までいくとそこにはマントをし、右手に鈴の音を持ったガイコツマスクの人間がいた。ガイコツマスクの人間は裏庭に行き、姿をくらませてしまった。

 そこへ映子が駆けつける。映子もどうやら怪しい人物を見かけたようだ。

 その時、3階の部屋の窓が開き、高沢和子の遺体が中庭に投げ落とされる。その部屋を見上げると屋根に木根が飼っている猫が乗っているのと、何者かが部屋から逃げようとしている姿が見えた。

 すぐに駆けつけた一は逃げようとしていた智明と遭遇。智明は動揺しており、自分じゃないと否定しながらも一に体当たりを食らわし逃げていった。まだ全回復していない一には起き上がることは出来なかった。

 クイーン・アンジェリカ号では怪盗紳士の予告の時間が来た。その時、外で花火の音が聞こえ不審に思って見張りをしていたハワード船長と明智健悟も外へ駆けつける。明智はすぐにこれが罠だったと気付き、慌てて戻るがそこには絵は頂戴した、という内容の怪盗紳士の貼り紙が貼ってあった。

 その直後、ランチ【※1】に誰かが乗り込み、逃げるように船から離れていくという知らせが。明智健悟はそれを眺めてすぐにあることに気付き、絵の飾られていた部屋へ戻る。
【※1】ランチ:接岸していない船舶と陸上の連絡用などに使われる小型船。

 部屋へ戻った明智は絵の方に拳銃を向け「そこまでですよ」と言う。すると壁がポスターのようにめくれて飾られたままの絵と醍醐真紀がいた。

 どうやら絵はまだ持ち出されたわけではなくそのままで、花火で明智たちがいなくなった段階で、絵がなくなっているような風景の布を絵画の飾られた壁の隠れ身に使って明智たちを騙そうとしたようだ。そして全員がランチに気を取られている隙に本当に絵を持ち出そうとしたのだ。

 追い詰められた怪盗紳士と思いきや、明智はハワード船長に背後から拳銃を突きつけられる。どうやら今まで明智と一緒に話していたハワード船長は偽物で、本物は眠らされているようだ。

 明智はこの船に乗っている醍醐真紀はずっと偽物だったのか?と聞く。醍醐真紀のニセモノこと怪盗紳士は半分は偽物で半分は本物、と答え明智の書いたスケッチブックももらっていく、と言って煙幕を使って消息を経つ。

 明智がデッキに来ると突如、浮かび上がった潜水艦に怪盗紳士は乗ってしまい水中へと潜られてしまった。絵は結局、持ち出されずに済んだものの、まんまとスケッチを持って逃げられてしまった。

 一は智明のいた部屋の上の屋根裏部屋に入る。そこには景太郎と秋人やナース制服の映子が映った肖像写真などがあった。

 一は窓に歩み寄り窓の肘掛に釘の痕を見つける。また部屋の窓を開けると木根の猫が部屋に入ってきた。部屋を出ようとしたとき、何か違和感を感じるがそのまま下の部屋に降りていく。

 智明が人殺しをした、と信じない貴美子。下の部屋で集められていた一同。最後に映子が入ってくる。智明の部屋からは一や美雪が目撃した死神みたいな不審者が着ていたマントまでもが見つかった。

 智明は真犯人が自分に罪を擦り付けようとしているんだ、とビクビクしている。どうやら高沢から貰った手紙で呼び出されて、窓を開けるように指示されたらしい。

 しかしそこへ木根がやってきて、製薬会社の新薬の開発担当者と智明が何度か会っていた、ということと高沢婦長と頻繁に会い口論している、という事実を暴露する。そして院長の景太郎がその製薬会社の前会長・石田勘次郎はかつて戦友だったそうだ。

 この病院の関係者は全員が怪しい。しかしその情報を暴露した木根という男も得体が知れない。

 映子は立て続けの死で精神的にてんてこ舞いだった。憂一は自分を頼って相談して欲しい、というが映子は何でもかんでも自分で背負い込むタイプの女性のようだ。憂一は映子が外見が似ている秋人の姿を自分に写していることが我慢ならなかった。自分を自分として見てほしい、という秋人に映子ははぐらかしながら去っていった。

 結局、怯えていた智明は自分の犯罪を暴露した。智明は扇谷、高沢と共に製薬会社との取引を一手に引き受けていた。だが実際の担当である秋人はそのことを知っておらず、気付いたときに三人に自殺に見せかけて殺された。智明は警察に自分の保護を頼もうとしていた。

 剣持は智明の保護の依頼が、ただ単に身の危険を感じての事なのかあるいは本当は智明が殺人犯で自分が狙われている人間を装うことで警察の目を向けないようにした演技なのか、ということを考えていた。

 明智健悟は剣持の電話に電話をかけたが、出たのは金田一一だった。明智は伝言を一に伝え、一に「あるべき物が無い時にはそれなりの理由があるのです」と怪盗紳士の事件の感想を伝え電話を切る。その後、本物の醍醐真紀に声をかけられ一緒にコーヒーを飲むことにする。一はその言葉を聞いて、全てが繋がり謎が解けたのだった。

 景太郎は戦時中のことを思い出していた。石田と共に軍の機密情報を持って敵から逃げているのだ。

 その後、景太郎の智明のもとへやって来る。景太郎は木根を入院させるのを許可していたのはどこか他人頼りにして真実を明らかにしてほしくて、自分ではその真実から逃れようとしていたのかもしれない、と智明に言う。

 自分は病院・家族を失うわけにはいかなかった。だから不祥事に目をつむっていた。それは息子・秋人を失ってからも変わらなかった。だが今決心した。自分自身のやり方で問題に決着をつける、と。そして景太郎は拳銃を智明に向け、智明を殺して自分も死のうとする。

 だがその部屋に電気がつけられた。一の要求で剣持たちが張り込んでいたのだ。景太郎はそれでも拳銃を向けるが、剣持の説得で拳銃を落とす。

 金田一は関係者全員を裏庭に集める。そして今回の事件のトリックを説明する。

 まず高沢和子の事件。あれは真犯人が智明の犯行に見せるためのトリックだったのだ。まず美雪が智明のいた部屋に居て、金田一の指示で窓を開ける。すると突然、遺体を再現した体育マットを縛って人型に似せたものが落ちる。

 金田一はその上の階の屋根裏部屋の窓の肘掛にあった釘、そして縄の痕があったことから解いたのだ。三階の智明がいた部屋の窓と、その上の屋根裏部屋の窓とをワイヤーで繋ぎ屋根にワイヤーで和子の遺体が引っ掛けられていた。

 そして智明が手紙の指示通りに窓を開けると、さも智明が落としたように見られるのだ。犯人はその後でワイヤーや釘など証拠となるものを回収し証拠隠滅を図った。そのトリックに気付いたのは木根の猫のおかげだった。

 猫が事件のとき、どのようにして屋根の上に乗っていたのか一は気になっていた。例の屋根裏部屋以外の屋根裏部屋には使われた痕跡はない。つまり例の屋根裏部屋で犯人が窓を開けてトリックの仕込みをしている時に、猫は屋根に乗ったのだ。

 ここまで面倒くさい仕掛けをするのはなにも智明に罪を着せるだけのためではない。高沢和子は転落して死んだように見せ秋人の転落死を、扇谷は死後、遺体にでかいブロンズ像を乗っけられている。これは秋人の遺体に崖の一部が崩落して潰されたことを示している。

 そうして智明にこの事件が秋人の死に関わっている、と刺激させ秋人の死の真実を話させようとしていたのだ。あの死神のような人間の正体は、ただの殺人鬼ではなく秋人の死と病院の不正を許さない凶暴な殺人者だったのだ。そしてその殺人犯は最後に智明を殺そうとしたのだ。

 和子の転落トリックにはもう一つ理由があった。それはアリバイ作りだった。死神に扮して金田一と深雪を裏庭に誘き出し、そして二人に深沢和子の死体が落ちる場面を目撃させさも智明が落としたように見せかける。それが出来たのは裏庭で金田一、美雪と合流した聖正映子しかいなかった。

 金田一は屋根裏部屋に入ったとき、違和感を感じていた。その正体は屋根裏部屋に飾られていた聖正家の肖像写真を見た時だった。そこに映っていたナース姿の映子。それは写真ではなく鏡だった。一が入ってきたとき、映子はワイヤーと釘の回収の直後で咄嗟に部屋に隠れて鏡に写っていたのだ。

 映子は、ポツポツと自供を始める。尊敬していた秋人を自殺に見せかけて殺した高沢、扇谷、智明を許さず復讐で殺そうとしたのだ。

 智明は大声で言い訳をわめきたてる。公表すると言う秋人を放っておけば病院もなにもかもオシマイになってしまう、と。映子は智明たちが3年経ってまたしても同じことをしようとしていた密談を聞いてしまい、誠実に医療に命を捧げた秋人を殺した悪人どもを許せなかったのだ。

 そこへ水島タキが自動車事故で急患として運ばれてきた。手術室で、看護士として手助けしていた映子はハサミを智明の方へ向けていた。映子は智明を刺そうとしたが、水島一夫に懸命に付き添った兄・秋人の姿を思い出し、ハサミを智明に手渡す。

 映子は嗚咽をもらす。智明は秋人を殺したこと、医者としての不正などで逮捕される。景太郎は心配する美雪にタキの手術の成功を医者として伝える。

 連行される映子に憂一は兄の持っていた鈴を渡す。そして自分は映子の中の秋人の亡霊を乗り越えて、必ずこの病院で待っている、と伝える。

 そして、木根という謎の男はジャーナリストだったのだ。水島タキの息子・一夫の友人でこの事件をジャーナリストとして暴きたかったようだ。


 金田一はまたしてもラーメン屋で餃子100人前を食べるのに挑戦。ついに達成したが、その直後に救急車で運ばれていった・・・





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(2012/07/14)
東映アニメーション、 他

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※原作
金田一少年の事件簿2 死神病院殺人事件[CD]金田一少年の事件簿2 死神病院殺人事件[CD]
(1997/04)
金成陽三郎

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稲垣吾郎による金田一耕助シリーズですね。


『八つ墓村』(2004年・日)
スタッフ
監督:星護
脚本:佐藤嗣麻子
プロデューサー:稲田秀樹
音楽:佐橋俊彦
キャスト
金田一耕助:稲垣吾郎
横溝正史:小日向文世
井川辰弥:藤原竜也
田治見久弥:吹越満
田治見春代:りょう
井川鶴子:中山忍
井川丑松:守田比呂也
梅幸尼:島かおり
里村慎太郎:永澤俊矢
諏訪弁護士:笹野高史
橘署長:塩見三省
久野恒実:浅野和之
濃茶の尼:絵沢萠子
田治見要蔵:吹越満
田治見小竹:泉晶子
田治見小梅:江波杏子


 星護監督作品「八つ墓村」

 これまでに幾度も映像化されている横溝正史による「八つ墓村」。奇妙で不気味な田舎のお話です。こういう田舎は祟りとか土地古来の伝説が信じられ崇められているとかそういうイメージはありますよね。実際に今でもそういう不気味なお話が語り継がれる田舎もあるのではないでしょうか。横溝さんは「津山33人殺し」という実際の事件をモデルとし、こういう田舎の不気味なお話と絡めてこの作品をひっそりと不気味なものに仕上げましたね。

 スタッフ陣は稲垣さんの金田一耕助シリーズでは共通です。フジテレビで金田一耕助作品を数年間、いくつか映像化していたものののうちの一つです。星護さんはテレビドラマディレクターでもあり映画監督でもあります。TVシリーズ「世にも奇妙な物語」を監督したほどですから不気味な演出にはもってこいの人でしょうね。映画では「笑の大学」も監督しました。



【あらすじ】

 金田一耕助は諏訪弁護士の依頼により、井川丑松の謎の死を追って八つ墓村にたどり着く。八つ墓村では井川辰弥が名家・田治見家を受け継ぐことになるが、村人たちは辰弥の父・要蔵がかつて村で33人殺しを行った男で、辰弥が来ると血が流れる、と恐れる。その予感は的中し次々とこの村で血が流れていく・・・













【以下全文ネタバレ注意】














↓四行後にネタバレ文あり




ある雨の日。横溝正史(小日向文世)の家に金田一耕助(稲垣吾郎)がやって来る。金田一は自分の体験した話をし始める。

 とあるラジオ局で井川辰弥(藤原竜也)を探している、もし居るなら諏訪法律事務所に来てほしい、というラジオ放送が流れる。辰弥は7歳の時に母・鶴子(中山忍)が亡くなり身寄りなしのまま孤児として育ったのだ。

 諏訪法律事務所に来た辰弥は諏訪弁護士(笹野高史)に鶴子の母、つまり辰弥の母方の祖父・井川丑松(守田比呂也)を紹介される。どうやら辰弥の父方の親戚が辰弥を引き取って育てようとしていたのだ。その親戚は金持ちで、辰弥は本来、父方の姓で田治見辰弥であるのだ。

 田治見の家は長女も長男も病気がちで跡取りが望めない状況で、このままでは田治見家の血筋が断絶してしまう、と危惧している。そこで、田治見家は身をくらました妾・鶴子の子供の辰弥に家を継がせようと考えたのだ。

 辰弥は亡き母・鶴子が遺した謎の地図を祖父・丑松に見せる。丑松はその地図を見て驚いた瞬間、苦しみもがき倒れる。辰弥はすぐに近くにあった水を丑松に渡すが丑松がそれを飲んだ瞬間に血を吐いて死んでしまう。丑松は元々、喘息の発作があり、彼が飲んでいた薬に毒が含まれていたようだ。

 辰弥は警察の取り調べを終えて、帰宅してみるとちゃぶ台の上に宛名不明の手紙が置いてあった。それを見ると「八つ墓村に帰ってはならぬ、帰れば二十四年前の大惨事が再び起こり血がたくさん流れる」という呪いの文が書かれていた。

 横溝先生は村の名前を聞き、田治見要蔵(吹越満)という男の名を思い出す。横溝はすぐに資料を取り出し金田一に見せる。それは田治見家の田治見要蔵という男が八つ墓村の村人32人を殺したという惨殺事件の新聞記事だった。

 田治見辰弥は田治見要蔵の息子。この事件は更に落ち武者の呪いではないか、という都市伝説もある。

 戦国時代、月山冨田城の城主・尼子義久が毛利元就に城を明け渡した際、この投降に反対した若武者が七人の家臣と黄金三千両を持って落ち延びた。川を越えて彼らがたどり着いたのが後に八つ墓村と呼ばれた村だったのだ。

 落ち武者は村人に歓迎されたものの、村人たちは武者の持つ三千両に目がくらみ村の有力者・田治見家庄左衛門(吹越満)の決定により、唯一反対した亀井家の農民(井田國彦)以外が落ち武者を裏切り、金を奪おうとする。

 落ち武者たちは村人を信頼していたために不意打ちに動転し全員が殺される。若武者は村人を末代まで祟る、と呪いの言葉を吐き、田治見家の当主に首をはねられた。

 だが村人たちは黄金三千両を発見できないどころか、捜索の段階で謎の事故で村人が3人も死んだ。最後に田治見庄左衛門が村人を4人殺し、自分で自分の首をはねたのだった。

 死んだ落ち武者、死んだ村人がそれぞれ8人。村人は落ち武者の呪いを恐れ、遺体を埋葬し八つの墓を作って明神として崇める。これが八つ墓村の由来となったのだった。

 辰弥は八つ墓村へ行くことを決意。諏訪弁護士は辰弥の身を案じるが、森美弥子(若村麻由美)が迎えに来る。美弥子は辰弥の父方の親戚の女性だった。

 横溝と金田一の話に戻る。二十四年前、田治見要蔵は妻子が居ながら牛飼いの娘・井川鶴子に欲情し彼女を離れに監禁。日夜入り浸り、鶴子を性欲のはけ口にする。

 そして鶴子は辰弥を産むが、要蔵は鶴子への歪んだ愛を強める。鶴子は小さい辰弥を連れて八つ墓村を逃げ出したのだった。

 要蔵は自分勝手に鶴子を待ち続け、その間に聞いた村人の鶴子に他の男がいた、という噂を聞き狂う。そして八月八日、鶴子は正妻を殺害し頭にタオルを巻いて懐中電灯を鬼のツノのように引っ掛け、左手に日本刀、右手にライフル銃を持って家を飛び出し村に出て行く。

 老人も若者も男女も関係なく無差別に殺害し三十二人を死なせた要蔵は山へ逃げ込んだきり行方知れずとなった。この事件は八人の武者を殺した田治見家の子孫が引き起こしたこと、8月8日だったこと、殺された32人が8の倍数でかけた4というのも、田治見庄左衛門が殺した人数と共通している、とあったことから、戦国時代の落ち武者の呪いである、という都市伝説が広まったのだ。

 辰弥は父の殺戮と八つ墓村の歴史を美弥子によって聞かされる。金田一も横溝から聞かされた話で、八つ墓村入りする決意を固め、急いで向かう。

 八つ墓村の田治見家に入った辰弥は大伯母の小梅(泉晶子)と小竹(江波杏子)の双子、そして要蔵の長男・久弥(吹越満)、長女・春代(りょう)、親戚の一人で村で若い医者の荒井修平(入江雅人)が台頭したことで落ちぶれた医者の久野恒実(浅野和之)、辰弥のいとこの戦争中は中佐だったが戦後に貧乏人に落ちぶれた里村慎太郎(永澤俊矢)が迎えた。美弥子は久野恒実の亡き弟の未亡人という位置にあるらしい。

 久弥の病気の悪化は深刻化しており、咳き込みながらも辰弥に久野と里村に財産を奪われないよう注意しろ、と忠告する。あまりにも久弥の苦しんでいるのに誰も手助けしない姿を見かねた辰弥は水を渡す。薬が欲しい、という願いを聞き小梅と小竹が薬を渡す。その薬を水と飲んでから久弥は更に苦しみ出し、やがて血を吐いて死んでしまった。

 その時、八つ墓村の八つの墓のうちの一つに雷が落ちる。狂人の濃茶の尼(絵沢萠子)は八つ墓明神の祟りじゃ!と大騒ぎする。

 久弥の葬儀の日、金田一耕助も八つ墓村に入った。濃茶の尼を始めとする農民たちは辰弥が八つ墓村の田治見家に禍をもたらした、として辰弥を八つ墓明神に近づけないように妨害する。

 濃茶の尼は八つ墓明神が求めた生贄として一人目が井川丑松、二人目が田治見久弥だ、と叫びそれからどんどん惨劇は続いていくと言う。梅幸尼(島かおり)が動揺する村人や騒ぎ立てる濃茶の尼を静める。

 その一部始終を見ていた金田一に森美弥子が話しかけてくる。森は金田一に丑松の事件の解決を依頼した諏訪弁護士から世話を頼まれたのだという。

 梅幸尼から要蔵のことで重要なことを知っているので後で一人で寺に来て欲しい、と伝えられた辰弥は田治見家女中・お島(東佳代子)を通じて春代に呼び出される。

 精進落としの席に料理を運ぶのを手伝って欲しい、と頼まれた辰弥は二つのお膳のうちの一つを持ってお坊さんにお届けする。その精進落としに森美弥子によって金田一耕助も招かれた。

 美弥子から久弥が田治見家とは別の宗派だったため、田治見の宗派の僧と久弥の宗派の僧の二人の坊主がいることを聞き、田治見家の面々を紹介される。美弥子によればいっつも小竹と小梅をどっちがどっちか間違えてしまうらしい。

 その時、突如辰弥が運んだお膳を食べていた坊主が苦しみ出し、やがて血を吐いて死んでしまった。

 事件の捜査をするために橘署長(塩見三省)がやってくる。事件現場で勝手に捜査している男を追い出そうとしたが、その男が金田一だと知り再会の挨拶を交わす。どうやら過去に橘は事件の捜査などで金田一耕助に世話になったことがあるようだ。

 橘署長は金田一と一緒に辰弥の取り調べをする。橘署長は丑松の前でも、坊主の前でも死の場面に直面しているから辰弥が犯人だと疑っている。金田一は橘に坊主を殺した膳を辰弥が選んだのは偶然で、本当はどちらの坊主が死んでもよかったのだ、という可能性と久弥の死も怪しいので掘り返して解剖するべき、ということを提案する。

 辰弥の精神はボロボロだった。辰弥は春代に泣き言を言い励ましてもらう。金田一は美弥子から虫の好かない里村慎太郎に遺産を渡したくないがために辰弥が小梅と小竹に利用されていることを聞かされる。

 美弥子は夫が慎太郎とよく関わり合っていたことを話す。戦時中はキチッとした美男子で夫亡き後も彼は美弥子をよくいたわってくれたが敗戦後、落ちぶれてしまい今では落ち武者の黄金探しに励んでいるという。

 その後で辰弥は小梅の淹れたお茶を貰うことになる。辰弥は不安を感じるがグッと一杯、飲む。

 辰弥は母・鶴子が遺した地図らしき物と、母と一緒に歌った歌を思い出す。
♪猿の腰掛、木霊の辻、鬼火の淵、狐の穴、そして宝は龍の顎(あぎと)
 母はこの地図が辰弥を幸せにする、誰にもこの地図のことを言うな、そして地図のことを忘れるな、と辰弥に遺し地図を入れた巾着袋を辰弥の首にかけたのだった。その時、またしても息子がいながら要蔵が鶴子を抱きに来た。

 夢から目覚めた辰弥は小梅と小竹が提灯を持って自分の寝室に来るのに気付き寝たフリをする。辰弥が寝ているのを確認した小梅と小竹はどこかへお参りしに行く、ということを呟いた。小梅と小竹が去ったあと、寝室に飾られている般若のお面の目が光っている。

 辰弥はその目から隣室を覗いてみる。すると小梅と小竹が宝箱を模した地下室への入口から地下へ入っていく。

 翌朝、梅幸尼の館に行こうとした辰弥は村を歩いていると進路を濃茶の尼に妨害される。手を出しそうになった辰弥を美弥子が止める。殴りそうになった辰弥を殺そうとした農民たちも美弥子に言われ仕事に戻っていく。

 辰弥は美弥子から暴力を使おうとしたことを咎められる。辰弥は先ほどの自分はまるで父・要蔵のようだったかもしれない、とショックを受ける。そんな気持ちを引きずりながら梅幸尼の館にたどり着く。美弥子は辰弥を外で待っている、と言い辰弥が館に入ると梅幸尼が毒を盛られて死んでいたのだ。

 橘署長に呼び出され駆けつけた金田一。道中、濃茶の尼とぶつかり彼女の巨大な風呂敷の中身がばらまかれてしまう。やっと到着した金田一は近くにあったくじを見せられて驚く。そのくじの結果で犯人は人殺しをしている、ということなのだ。例えば尼から濃茶の尼と梅幸尼のどちらを殺すか、くじで決めて結果決まったのだ梅幸尼ということなのだ。梅幸尼の名前が書いてあるところに棒線で打ち消されている。

 更に金田一は埃まみれの藁草履の靴痕を発見する。村人の証言でそれが濃茶の尼の靴痕で濃茶の尼は窃盗グセがある女なのだという。しかし先ほど辰弥が濃茶の尼に絡まれたときは風呂敷など無かったのに、金田一が館に向かう道中にぶつかった濃茶の尼は巨大な風呂敷を持っていた。

 そこへ久野医師がやって来る。久野は事件絡みのことなら診断を断りたい、と言う。金田一は帰ろうとする久野に例のくじを見せる。それを見た瞬間、久野は驚愕するが誰の筆跡かは分からない、とシラを切って怯えるように去っていった。その後にやってきた村人たちが辰弥に恨みを込めて小石を投げてきた。

 夜、小梅と小竹が昨夜入っていった地下室に入る辰弥。地下は暗い鍾乳洞だった。辰弥は鍾乳洞を進んでいく。進んだ先にあったのは鎧武者が石座に座っている姿。辰弥は声をかけるが、それに応じたのは意外にも別のところから来た金田一耕助だった。

 金田一は濃茶の尼を探しに出たが、不在だったのでぶらぶら探していたら洞窟を見つけ入ったそうな。金田一は鎧武者を人形だと思い、近づいてみるとその人形の腰掛けとなっている石座に「猿の腰掛」と掘られていた。

 その石座に腰掛けている武者の顔は久弥にそっくりだった。これは人形ではなく死蝋化【※1】した人間の遺体だった。
【※1】死蝋化:死体の脂肪が分解したとき、脂肪酸が生じるのだが、水分の多い場所(この場合は鍾乳洞)に葬られたときはその脂肪酸は水中のカルシウムやマグネシウムと結合し石鹸状になる。全身の死蝋化には一年の放置を要する(金田一談)。

 そこへ今度は春代がやって来る。春代は辰弥を探してここまで来たようだ。春代は武者の顔を見て驚愕。それは32人を殺し行方不明となった田治見要蔵の遺体だったのだ。

 要蔵の遺体を見てから春代が尋常でない取り乱しを見せる。春代は小竹と小梅が洞窟に要蔵を閉じ込め毒を盛って殺したのだ、といい私を八つ墓村から助けてくれ、と訴える。金田一は般若の面の目の部分が隣室を覗く穴であることに気付く。

 金田一は春代の取り乱し様を見てすぐに久野医師の診療所を訪ねるが久野は私は潔白である、という手紙を置いて姿をくらました。すぐに美弥子に警察と荒井医師を呼ぶように言う。

 そして金田一は久野の診療室で多くの推理小説を発見する。そして久野の残した手紙が梅幸尼の館に残されたくじと筆跡が同じように見える。

 翌朝、濃茶の尼の崖から転落した死体が発見される。橘署長はくじ殺人の通りならば梅幸尼を殺したのだからもう尼は殺す必要がないため矛盾が生じる、と不思議がる。

 橘署長は濃茶の尼の死はくじ殺人とは無関係の事故だと判断しくじ殺人の犯人を久野として捜査するようにする。金田一は久野を探すために鍾乳洞も探して欲しい、という。

 金田一は辰弥の寝室で発見した屏風の中に母が書いた手紙が入っているのを辰弥に教える。その手紙は龍の顎で思いを交わせた本当に愛する想い人・亀井陽一宛の恋文だった。しかしその恋文は要蔵に監禁されたこの部屋では相手に届くことはない。それでも思いを書きたかったのだ。

 金田一は屏風を解体して中にある黒いものを取り出したいという。辰弥はそれに応じるのだった。

 小竹と小梅は要蔵の死蝋化した遺体を見て「こんなに可愛い子をこんな風にしてごめんなあ。でも要蔵の血は絶やさないようにするけ」と謝っていた。その時、要蔵の遺体が動き出し、小竹と小梅は悲鳴を上げる。

 小竹は辰弥を起こし取り乱している。小竹は要蔵が動き出して小梅を連れ去ってしまった、と話す。

 辰弥が鍾乳洞の中に入ると要蔵の遺体が倒れていて、小竹がいない。辰弥は要蔵が腰掛けていた石座を動かしてみると、ライフル銃、懐中電灯、日本刀など要蔵が32人殺しに使用したものが隠されていた。そして、一緒に黄金も隠されていた。

 そこへ駆けてくる足音が。それは金田一と橘署長だった。辰弥はふたりと合流し居なくなった小梅を共に探す。くじ殺人事件で狙われているのだ。しかしどこをどう行けばいいのか全く分からない。

 その時、こだまが聞こえる。辰弥は橘署長と金田一に母の形見である地図を見せる。これは鍾乳洞の地図だったのだ。三人は急いで何かあったと思われる木霊の辻へ向かう。更に木霊の辻から鬼火の淵へ向かう三人。そして鬼火の淵に浮かんでいたのは小梅の死体だった。

 鍾乳洞の捜索で久野の帽子が発見された。そしてその帽子にくじが挟まれていたが、そのくじというのは小竹が棒線で消されているのだ。それなのに淵に浮かんでいた死体は小梅。間違い殺人だろうか?

 刑事が駆け込んできて知らせたのは久野の鍾乳洞内での発見。しかし久野はすでに毒死しており、久野の胸に置いてあったたばこケースにくじが挟まっていた。それは荒井修平ではなく久野を棒線で消したものだった。橘署長までもが、容疑者が消えてしまったことで祟りなのではないか、と自信を喪失する。

 あの32人殺しの大惨劇があった8月8日。今年は小梅の葬儀が行われるが、みなが祟りを恐れ体面どころでなく、参加した人は春代、小竹、辰弥、金田一以外誰もいなかった。

 金田一はこの事件はくじによる無差別に見立ててカモフラージュで実は、久野、小竹、久弥の三人を殺すのが目的だったのでは、と言う。そしてその殺人が財産を巡ってのものならば、残る財産相続権のある春代、辰弥、慎太郎の誰かが犯人では、と橘署長は言う。金田一は犯人はまだ分からない、と言いながら新見市に送ってほしいと頼み込む。

 森美弥子は久野の死で田治見家に関わるのがうんざりしているようで、これ以上関わると祟られるわ!と村人に言う。村人は祟りを恐れ災いの元であろう辰弥の命を狙う。

 新見に来た金田一は屏風職人に屏風の解体と中にあった黒い何かを取り出してもらうよう頼んでいた。そして取り出されたものは写真で辰弥そっくりの謎の男の写真が写っている。

 職人の話によれば小学校教師で地質学者でもあり八つ墓村の鍾乳洞を調べに来た亀井陽一(藤原竜也)という。

 急いで八つ墓村に戻ろうとしたとき、橘署長から村中に辰弥を八つ墓の明神の生贄にしなければ村に更なる血が流れる、という呪いの貼り紙があちこちに貼ってあって村人が暴徒化したことを聞かされる。

 村人たちは八つ墓明神の祟りを恐れ、貼り紙の内容を信じ暴徒化し武器を持って田治見家に討ち入りを仕掛ける。

 春代は辰弥に「私だけは最後まであなたの味方」と言って、鍾乳洞から辰弥を逃がそうとする。辰弥が逃げたあと、女中のお島から村人が二手に分かれてもう一手は鍾乳洞に入ったと聞き春代も辰弥の後を追う。

 逃げ惑う辰弥は木霊の辻で姉・春代の悲鳴を聞く。すぐに木霊の辻に来た辰弥は胸に狂気を突き刺された春代の姿を見つける。

 瀕死の春代は辰弥に田治見の呪われた血とは違うものを感じ、異性として好きだったことを打ち明ける。そして犯人の小指に何かしたことを伝え、息絶えた。

 金田一が田治見邸にたどり着くと田治見の家は暴徒がつけた火で燃え盛っていた。金田一は木霊の辻で春代の遺体を見つけそのそばにクジを見つける。そこには“未亡人”という項目で田治見春代が棒線で打ち消されていた。

 追い詰められた辰弥は鬼火の淵を渡って逃げる。村民たちは鬼火の淵を越えると祟りが起こる、と信じていたので躊躇していたが、祟りの根源の辰弥を殺せば祟りはなくなると自分たちで言い聞かせ鬼火の淵を渡ろうとする。

 辰弥がたどり着いたのは狐の穴。それから逃れ逃れ、村人たちは追いに追ってついに行き止まりに辰弥は追い詰められてしまった。いざ村人たちが殺そうとしたそのとき、村人たちが見たのは八つの墓に眠る落ち武者がこちらを睨む姿だった。

 落ち武者の幽霊の呪いの言葉が吐かれた瞬間、鍾乳洞内で天井崩落が発生。村人たち、辰弥は崩落に巻き込まれる。


 金田一は美弥子の元を訪れる。そこには荒井医師がおり、ケガから重病を発し面会謝絶なのだという。しかし美弥子は荒井を下がらせ金田一の訪問に応じる。

 金田一は美弥子に一連の丑松からはじまり、久弥、坊主、梅幸尼、濃茶の尼、久野、小梅、春代を殺した殺人事件の犯人はあなただ、と主張する。

 美弥子は久野が推理小説好きで八つ墓明神の祟り伝説を利用して荒井医師の殺人を企画して夢物語として日記に記していたことを知っていた。

 美弥子は八つ墓村に伝わる祟りを利用し真の動機をカモフラージュするために丑松と久弥は自分が久野の家に住んでいることを利用し久野から貰っていた薬を毒とすりかえた。梅幸尼と坊主の料理にも毒を仕込んだ。

 梅幸尼の料理は田治見の人間が料理を運んだが、その料理に毒を仕込んでいた。だからわざわざ梅幸尼の館に殺しに行ったわけでもない。梅幸尼の死でそろそろくじ殺人による無差別殺人だ、という動機にミスリードするためにくじを梅幸尼の死体のそばに置こうとした。

 まず梅幸尼の下へ行こうとした辰弥と合流。そして辰弥と一緒に館に行き、家の前で待っている、と言って外で待っていた。そして辰弥から梅幸尼の死を聞かされ、館に入っていき梅幸尼の死体のそばにくじを置いた。

 だがそのくじを置く場面を濃茶の尼に目撃されてしまったので彼女を崖から突き落とした。しかしその結果、くじ殺人に矛盾が生じてしまった。尼の項目で濃茶の尼か梅幸尼のどちらかだけを殺さなくてはいけないのに、両方殺してしまった。

 金田一はそれにより本当にくじ殺人の通りに行われているのだろうか、と疑いを持つようになった。

 そして更に自分の夢物語でしかなかった殺人計画が勝手に進行していて久野は自分が疑われることを恐れ逃げ出そうとする。それを美弥子が騙し鍾乳洞に隠れさせて彼に毒薬を盛り死なせた。

 更に鍾乳洞で要蔵の遺体の後ろに隠れ、要蔵の遺体を動かすことで驚いた小竹と小梅。一目散に逃げる小竹と小梅のうち本当は小竹を捕まえて殺そうとしたが美弥子はいつも小竹小梅の見分けがつかないので誤って小梅を木霊の辻で絞め殺し鬼火の淵に浮かばせてしまったのだ。

 最後に木霊の辻で春代を殺害した。しかし美弥子は八つ墓の祟りとして8人を殺そうとしたがこの事件で死んだ8人は美弥子の殺した8人ではなかった。

 誤算にも濃茶の尼を殺してしまったことで一人ズレてしまったのだ。そこで村人に呪いの貼り紙で暴動を煽り辰弥を殺させようとした。

 美弥子は金田一の推理を聞き嘲笑する。
─ 動機はなに?私には財産の相続権なんてないのよ?
 金田一は田治見家の財産がねらいだと話す。しかし財産を受け継ぐのは美弥子ではなく里村慎太郎のために。

 美弥子は夫亡き後、慎太郎と深く愛しあったが敗戦による墜落で金も失い、結婚を申し込んでくれることはなかった。傷ついた美弥子だったが慎太郎が金さえ手に入れれば昔の自身に溢れた慎太郎に戻り、自分を愛し結婚を申し込んでくれるだろう、と考えたのだ。

 しかし計画はほとんどが無駄だった。金田一は亀井陽一の写真を見せる。亀井陽一は要蔵の妾・鶴子が本当に愛し鍾乳洞の龍の顎で結ばれた男だったのだ。

 龍の顎で目を覚ました辰弥は母の手紙を見つける。それは愛する人・亀井陽一に対する手紙であなたの子を授かった、という知らせだった。

 辰弥の本当の父親は田治見要蔵ではなく、亀井陽一だったのだ。

 つまり、この事が早く知られていれば財産は病弱な久弥・春代の相続は不可能。辰弥は要蔵の子供ではない。自然と里村慎太郎に相続されることになるのだ。

 動揺する美弥子。金田一は美弥子に春代の傍に落ちていたものを見せる。小指だった。犯人の、森美弥子の。

 金田一は美弥子に警察は必ず慎太郎を捕まえるだろう、と脅しをかける。そして慎太郎が美弥子に結婚を申し込むために落ち武者の財宝を探していたことを伝える。ここに慎太郎を呼ぼうとした金田一を美弥子は必死に止める。その顔の右半分以外は首を含めて全てアザになっていて金田一は驚く。

 美弥子は主人の亡くなった時に自分に綺麗だ、と言ってくれた慎太郎に今の醜い姿を見せたくないから呼ばないでほしいと必死に懇願する。

 その後、八つ墓村では鍾乳洞の天井落盤により79人の農民の暴徒が生き埋めとなった。その新聞を見ていた横溝に金田一から手紙が届く。

 手紙によると美弥子は春代に噛み切られた指から入り込んだ菌が原因で重傷を負い、一週間ものたうち回った挙句に病死した。辰弥は母の遺した地図を頼りに自力で鍾乳洞を脱出したようだ。

 辰弥は田治見の財産を慎太郎に譲り八つ墓村を去った。落盤と共に見つかった武者の隠した黄金三千両と共に。

 この事件で亡くなった人間は生き埋めになった村人、そして美弥子を含めると88人に及ぶ。。横溝の脳裏には八つ墓村の由来となった8人の武者が殺された事件が思い浮かんだ・・・






 私は一度、渥美清による金田一耕助の「八つ墓村」(1977年)も観たのですが、こっちの稲垣金田一版は渥美金田一版に比べて原作にかなり沿っているらしいですね。どっちが良いどっちが悪いの比較は不毛だと思っているので比較はしませんが、このドラマスペシャルは渥美金田一版の作品を包み込むオカルトチックなところも、意識されている気がします。

 ただ残念なのはSEとBGMが使い回しが多かったり、別にここはいらないだろう・・と思うところもBGMが入っているところでしょうか。こういう不気味な作品には不気味な音楽を入れるより静かな方がかえって不気味を演出できるシーンも多々あるのですから。

 あと、金田一と美弥子の推理対決で金田一の「美弥子さん、あなたですね」のセリフのところで強調を狙ってカメラをズームさせたところは私個人としては、良くなかったと思います。

 そして一番良くなかったのは尺を稼ぐためかは分かりませんが、狐の穴から鍾乳洞内で辰弥が農民に追い回されるシーンです。藤原竜也が焦っているのを表現するために曲がり角がある道などでいちいち向こうの方向を向いたりしてくれているのですが、一向に曲がりません。ずっとまっすぐ走ってました。鍾乳洞は迷路なのにですよ?全然曲がらないのです。ずーっとカメラが後ろに下がり、藤原竜也がそれを追いかけるようにまっすぐしか行かないのです。これには少し失望してしまいました。せっかく藤原竜也が焦っているのだから、曲がるシーンくらい作ってくれてもよかったのでは、と残念に思いました。


※2014年3月8日現在DVD化はされていません。

原作小説
八つ墓村 (講談社漫画文庫)八つ墓村 (講談社漫画文庫)
(1996/09)
横溝 正史、影丸 穣也 他

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アラン・ラッドの哀愁西部劇です。


『ネブラスカ魂』 Whispering Smith (1948年・米)
ネブラスカ魂
スタッフ
監督:レスリー・フェントン
製作:メル・エプステイン
原作:フランク・H・スペアマン「囁きのスミス」
脚本:フランク・バトラー、カール・カム
撮影:レイ・レナハン
特殊効果:ゴードン・ジェニングス
音楽:アドルフ・ドイチュ
キャスト
ルーク・スミス:アラン・ラッド
マーレイ・シンクレア:ロバート・プレストン
マリアン・シンクレア:ブレンダ・マーシャル
ビル・ダンシング:ウィリアム・デマレスト
エミー・ダンシング:フェイ・ホールデン
ジョージ・マクロウド:ジョン・エルドレッジ
マクスウィギン保安官:ウィル・ライト
ビル・バッグス:J・ファーレル・マクドナルド
リーロイ・バートン:ワード・ウッド
ギャビー・バートン:ボブ・コートマン
ソウバック医師:ドン・バークレー
ブレイク・バートン:マーヴィン・ヴァイ
ホワイティ・デュ・サング:フランク・フェイレン
バーニー・レブストック:ドナルド・クリスプ


 レスリー・フェントン監督作品「ネブラスカ魂」。原題は「Whispering Smith

 原題を訳すと「囁きのスミス」。これと同じ原作を扱ったTVドラマに「スミスという男」という西部劇ドラマもありました。この原題は主人公の俗称ですね。退治の対象となる悪人が背後に囁き声が聞こえたときは、囁きのスミスがいて、悪人の命は終わっているだろう、ってことです。つまりこの映画のタイトルはスミスさんを指しており、スミスさんのストーリーを中心に描かれるってことですね。

 アラン・ラッドといえば、「シェーン」(1953年)でお馴染みですね。私もこの人は西部劇の俳優さんというイメージが強いです。で、アラン・ラッドはこの映画で本格的に西部劇主演を飾ったようです。この人は拳銃を出すのが早いですねえ。そして二挺拳銃。スラっとした細身に格好がつきます。

 レスリー・フェントン監督。元は俳優さんですね。「民衆の敵」(1931年)、「少年の町」(1938年)などに出演してました。30年代後半のころから、映画製作の方にも関わっていきました。アラン・ラッドとは「サイゴン密輸空路」(1947年)でも組んでました。他に彼の作った作品に「テキサス決死隊」(1949年)もあります。

 原作はフランク・H・スペアマンの小説「囁きのスミス」。フィクションの西部劇や、ノンフィクションの鉄道物のお話を書く人です。この囁きのスミスを題材にした映画は何度も映画化されていて、この人の一番の有名な作品だと思われます。他に映画化された作品には「熱車輪」(1928年)や「鉄道王の娘」を映画化して「愛の列車」(1921年)といった作品もあります。

 音楽はアドルフ・ドイチュ。「マルタの鷹」(1941年)、「お熱いのがお好き」(1959年)や「アパートの鍵貸します」(1960年)といった作品の映画音楽の人でもあります。



【あらすじ】

 1890年ネブラスカ州のとある町。脱走した鉄道強盗のバートン兄弟を追ってスミスが鉄道に乗り込む。その鉄道で親友のマレイと再会。だがその鉄道は偶然にもバートン兄弟の襲撃に遭う。一人にがして二人を殺したもののスミスは負傷をしてマレイの家に運ばれる。そこにはかつての想い人マリアンがマレイの妻として看病してくれて・・・













【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




1890年アメリカ・ネブラスカ州

 鉄道会社の専属ガンマンであるルーク・スミス(アラン・ラッド)は脱走した鉄道強盗バートン三兄弟のリーロイ(ワード・ウッド)、ギャビー(ボブ・コートマン)、ブレイク(マーヴィン・ヴァイ)を追ってやって来たが馬に乗っているところを遠くから狙撃される。なんとか追い払ったものの馬は負傷しており血の痕を追われてはいけないので、スミスは仕方なく馬を処分する。

 とある鉄道では鉄道会社ロッキー支部の事故処理官マーレイ・シンクレア(ロバート・プレストン)がひと仕事を終え、ソウバック医師(ドン・バークレー)、ビル・バッグス(J・ファーレル・マクドナルド)、鉄道護衛官(ポール・E・バーンズ)と話し合っていた。

 そこへ本社から手紙が届き、バートン三兄弟が逃亡を図ったことを知る。また応援として派遣されるのがルーク・スミスだと知り、驚く。スミスはマーレイと旧友だったのだ。

 スミスの噂をしていた時、ちょうどスミスが鉄道に乗り込んできた。マーレイはかつての友スミスとの再会を喜んだ。マーレイは自分の経営する牧場の家に招待する。マーレイの妻はマリアン(ブレンダ・マーシャル)。マリアンもスミスの知り合いのようだ。

 スミスは保安官に電報を打つためにコヨーテクリーク駅で鉄道を臨時停車させる。そのコヨーテクリーク駅では電信技手がバートン三兄弟の襲撃を受け殺される。バートン三兄弟は鉄道を止めて列車強盗を図ろうとした。

 さて列車が止まり、バートン三兄弟は列車を強奪しようとする。しかしそれをスミスが未然に察知し、二人を射殺。ブレイクを逃してしまいスミスも胸を撃たれて倒れてしまう。胸ポケットに入れていたハーモニカによって助けられた。

 スミスはマーレイの家に運ばれた。目が覚めるとマーレイの妻マリアンがいた。スミスはマリアンに君から貰ったハーモニカに助けられたのだ、ということを話す。マリアンは献身的にスミスを看護してくれたようだ。

 朝、マーレイはスミスに強盗退治をやめて一緒に牧場経営をしないか、と誘う。スミスは今の仕事が合っている、と話して断る。マリアンも積極的に誘いたがらない。どうやら二人には何かあるようだ。

 また、マーレイは普段は気さくだが牧場経営の話になるとどうも厳しい男のようで、口出しをしてきたマリアンを叱りつけ、自分の主張を頑として曲げない頑固な一面があるようだ。

 町に出たマーレイだったが支部に顔出ししたとき、支部長のジョージ・マクロウド(ジョン・エルドレッジ)に報告書の提出が遅い、とお叱りを受ける。このマクロウドというのも規律・規則をとにかく重視する頑固な男のようだ。マクロウドとマーレイの折り合いは悪い。

 報告書を提出しお叱りを受けてからマーレイは事故調査官で、かつてマーレイとスミスが下宿していたビル・ダンシング(ウィリアム・デマレスト)と共に家に帰り、ビルにスミスを会わせようとする。

 道中で二人は牧場の経営者のバーニー・レブストック(ドナルド・クリスプ)とその用心棒のホワイティ・デュ・サング(フランク・フェイレン)と出会う。レブストックはスミスが軽傷しか負っていないことを知り動揺していた。二人とマーレイは仲が良いようだがビル曰く二人には良い評判が無いという。

 スミスとマリアンは過去の思い出を話し合っていた。スミスの過去の思い人はマリアンであったこと、そしてスミスはマリアンに告白できなかったこと。マリアンは告白の言葉が欲しかった、とスミスを責めつつも月日の流れに勝てなかった自分を許して欲しい、とスミスに許しを請う。

 そこへマーレイとビルが帰ってくる。マーレイとスミスにとって恩師ともいえるビルの誘いでマーレイのハーモニカによってオールド・ラング・ザイン(日本では蛍の光)が演奏され、ビルとマーレイが歌う。

 歌が終わってから、話題はレブストックのことになる。スミスが軽傷しかしていないことを聞き動揺したことを話すと、スミスはレブストックが逃げたブレイク・バートンをかくまっているのでは、と怪しみ町へ会いにいく。マーレイは揉め事は起こしたくない、と反対していた。

 町に出たスミスは早速、レブストックとホワイティと出会い、じっくり話がしたいと酒場で話し合う約束を取り付ける。それから支部長のマクロウドと挨拶を交わし、ビルの妻で下宿先の女房エミー(フェイ・ホールデン)と再会する。

 夜、町にブレイク・バートンを捕まえにスミスが出たことを聞かされたマリアンはスミスがまだ片腕が使えない状態にも関わらず危険な状態にあることを心配し、マーレイと共に町へ出る。

 酒場ではレブストックが町からの逃亡を図ろうとしていたブレイク・バートンに兄弟の仇討ちをスミスに対して果たすようにけしかけていた。ブレイクは酒場の外に出て、復讐の準備をする。やがてスミスが酒場に入って、レブストックに2日以内にブレイク・バートンの身柄を引き渡すように要求。しかしレブストックはシラを切るばかりだった。

 酒場を出たところで自分を狙うブレイク・バートンに気付くスミス。ブレイクはスミスを撃つが弾は外れる。すぐにスミスは車庫に逃げるブレイクを追いかける。銃撃戦を展開するなか、ブレイクを射殺することに成功するが、自分の帽子を背後から何者かに撃ち抜かれたようだ。

 すぐにその犯人がレブストックの用心棒ホワイティだと気付くが、証拠もなかったので「腕が落ちたな」と皮肉るだけで終わった。そして町にマリアンとマーレイが到着。マリアンはスミスが無傷であったことを心底喜ぶが、その姿がマーレイを嫉妬に駆らせる。

 翌朝、ダンシング家に泊まったスミスは親友マーレイのことを聞く。どうやらマーレイは職務における問題行動が多いことで有名らしい。スミスはマーレイのそういった行動を黙認しているビルにマーレイの問題行動を改めさせるよう言う。

 その直後に鉄道の事故が発生した。現場に駆けつけるスミスと支部長マクロウドが見たのは、事故処理に当たっているマーレイが作業員たちに事故の起きた貨物鉄道が運んでいた酒や葉巻を振る舞って、積み荷を横領しいつも世話になっているレブストックの下に横領品を譲り渡しているのだ。

 マクロウドは酒樽の酒を勝手に提供するマーレイを罵り、すぐにレブストックのもとへ持っていこうとした荷物を降ろすよう命じる。反発するマーレイとマクロウドの間に仲裁に入ったスミスだがどちらかというと立場上、マクロウド寄りのスミス。癇癪を起こしたマーレイにマクロウドはクビを言い渡す。マーレイは自暴自棄になり積んだ荷物を捨てて去っていった。

 スミスが町を経つ日。マリアン、マーレイがクビの件でスミスの下を訪ねてきた。スミスは本社の社長にマーレイのクビを撤回してもらうよう懇願した手紙を送っていたのだ。

 しかし社長から送られてきた電報は予定通りマーレイをクビにする、というものだった。マーレイは腹立ち、スミスが懇願で手を抜いたんじゃないか、と当たってから去っていく。スミスはマリアン、エミー、ビルらと別れの挨拶をして町を経つ列車に乗り込んだ。

 やけくそになったマーレイは酒場に入る。するとレブストックに相席するよう誘われた。レブストックはマーレイに一緒に組んで列車強盗をしないかと持ちかける。マーレイはその誘いに乗ってしまうのだった。

それから列車事故が連続して発生する。一件目はウィスコンシン州クローリング・ストーン湖付近。二件目はワイオミング・ララミーからカリフォルニア・ベンダー行きの列車が。三件目も発生した。

 ビルは三件目の事故の処理を終え家に帰宅した。彼は間違いなくこれら3件がすべて人為的に引き起こされた事故であると確信していた。

 町に出てきたマーレイとマリアン。マーレイが変わってからマリアンもひたすら謝る女性になってしまい、マーレイは苛立っていた。マリアンが本音をぶつけ、悪いのはあなたとツルんでいる仲間よ!と言うとお前には関係ない!と叱りつける。よもやマーレイは人間が変わってしまった。

 マリアンがビルの家に入ろうとすると、扉の前でスミスと再会する。スミスは連続鉄道事故の調査にやって来たのだ。マリアンは人が変わってしまったマーレイの説得をしてほしいと頼む。スミスはマクスウィギン保安官(ウィル・ライト)からマーレイが酒場にいることを聞き出し、酒場に入る。

 酒場ではマーレイが女をはべらせてレブストックらと一緒にいた。スミスはマーレイと席を共にする。スミスはマーレイを鉄道事故の件で疑っていることを遠回しに伝え、今レブストックと手を引けば見逃す、と忠告する。しかしマーレイはマリアンを奪おうとしてるのだろう、と支離滅裂なことを言ってスミスを殴る。

 スミスは仕返しこそしなかったものの茶化してきたホワイティを殴りつけて酒場を去っていった。

 スミスはマリアンに会いに行った。マリアンに説得をできなかったことを謝罪。マリアンは家を出る、と言うがスミスはそれを止める。マリアンがいなくなるとマーレイの心の支えが無くなってしまう、と。スミスはマーレイの説得をもう一度してほしい、と頼むのだった。

 夜、マリアンはマーレイに家を出ることを伝える。マーレイは止めもせず、レブストック達と共にどこかへと出かけてしまった。

 マーレイはレブストック達と共にいつも通り列車を襲撃する。その襲撃でホワイティが容赦なく鉄道職員を殺害したのを見て、マーレイは困惑する。

 再び鉄道事故が発生したと知ったスミスはビル、マクスウィギン保安官、ソウバック医師、マクロウドらを連れて現場へと急行する。そこで車掌(レスター・ドール)からホワイティの目撃情報を聞き、レブストックらの逃げたと思われる方向へ進む。

 スミスはすぐにマーレイの牧場の家にやって来る。そこでマリアンから夜レブストックらと出かけたきり帰ってきてない、ということを聞きマーレイが列車強盗に加担したと確信する。

 スミスはすぐさまマクスウィギンらと合流しレブストック一味が隠れている山小屋へ向かう。山小屋で保安官たちの接近に気づいたレブストックら。レブストックは後処理はするから、マーレイ達に先に逃げるよう言う。

 しかし山小屋に一人、ホワイティが残っていた。ホワイティはレブストックが裏切ってマーレイや自分たちの身柄を引き渡そうとしているのだ、と気付いていた。レブストックはホワイティを殺そうとするが、ホワイティに返り討ちにあう。

 スミスらは逃げるマーレイらを追撃。マーレイはスミスらの目をかいくぐって、追撃隊の後方を取って後ろ側に撤退。それを見つけたマクロウドを射殺した。スミスはライフル銃でマーレイと一緒に逃げたシーグルー(レイ・ティール)とホワイティを遠くから狙撃し射殺するが、マーレイを撃つことが出来なかった。

 負傷し流血しながら帰宅したマーレイはスミスなんかに渡さん、と言ってマリアンに逃げる準備をさせる。そこへスミスとビルがやって来る。応対したマリアンはマーレイを庇い、家に帰ってきてないと答えるがスミスは家の中まで続く血の痕を見て家の中にいることを確信。自首を促し一旦、去っていく。

 マリアンはマーレイに自首してほしい、と懇願するがマーレイは取り合わなかった。マリアンは逃亡用の馬車を準備しに行くと、小屋にスミスとビルが居た。マリアンは家の中に入らないでほしい、と泣いて頼むがスミスはビルにマリアンを連れて行くよう伝える。

 マーレイは小屋からスミスを撃ってくるがスミスはマーレイを撃ち返し、マーレイは致命的な傷を負う。それからタンスから拳銃を取り出し懐に隠す。

 スミスは家の中に入る。マーレイはイスに座って降参している様子を見せて「お前にはいつも負けていたが、マリアンだけは渡さない」と伝える。それからブランデーを入れてほしい、とスミスに頼む。

 ブランデーを注ぐスミスを呼びつけるとマーレイは懐に隠していた拳銃を向けていた。間一髪だったが、マーレイは撃つ力も無くなり床に倒れ込む。スミスは「お前だけは撃ちたくなかった。それだけは分かってほしい」と言いマーレイはその言葉を聞き息絶えた。スミスは馬に乗り込み、牧場を去っていく。








 正直ストーリーにもう一つひねりが欲しかったところです。いわゆる哀愁西部劇だと思われるので、哀愁的な面を強くするために例えば、マーレイが正義や道徳・友情や妻への愛と金や悪友の間で板挟みにあい葛藤するはっきりとした描写を増やすだとか、奥さんがかつてスミスを愛していた描写をもっと増やすだとか、何より西部劇として敵がアッサリやられてしまうところが、物足りない気がしました。ホワイティというすごく怖そうな悪役がいるのだから、そのホワイティと激戦をくり広げるシーンも作ってもいいと思います。勿体無いですね。

 アラン・ラッドのクールなキャラクターは良かったですね。あまり感情的になって、大声を張り上げたりせず、沈着冷静なままのキャラクターでいるところは西部劇の主人公として格好良さを引き出してます。前述した通り、どこかスミス以外のキャラクターが物足りないなあ、と感じましたがスミスというキャラクターを際立たせる為に、それ以外のキャラクターの描写をそこまで作らなかったのかもしれませんね。

ネブラスカ魂ネブラスカ魂
(2007/08)
不明

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原作小説(訳した小説は見つからず)
Whispering SmithWhispering Smith
(2010/07/06)
Frank H. (Frank Hamilton) Spearman

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Category: 洋画ナ行

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美術的な映画ですねえ。なだらかで美しい映画です。


『河』 The River (1951年・米仏印合作)
河
スタッフ
監督:ジャン・ルノワール
製作:ケネス・マッケルダウニー
原作:ルーマー・ゴッデン「河」
脚本:ルーマー・ゴッデン、ジャン・ルノワール
撮影:クロード・ルノワール
音楽:M・A・パーサ・サラティ
助監督:サタジット・レイ
キャスト
ハリエット:パトリシア・ウォルターズ
 回想ナレーション:ジューン・ヒルマン
バレリー:エイドリアン・コリ
メラニー:ラーダ
カヌー:ニマイ・バリク
ボギー:リチャード・R・フォスター
ヴィクトリア:セシリア・ウッド
エリザベス:ペネロープ・ウィルキンソン
マフィー:ジェーン・ハリス
マウス:ジェニファー・ハリス
アニル:トゥリラック・ジェットリー
門番サジャン・シン:ラム・シン
ジョン大尉:トーマス・E・ブリーン
ジョン叔父さん:アーサー・シールズ
乳母ナン:スプロヴァ・ムケルジー
ハリエットの母:ノラ・スウィンバーン
ハリエットの父:エスモンド・ナイト


 ジャン・ルノワール監督作品「河」。原題は「The River」。

 原作はルーマー・ゴッデンの同名小説。ルーマーという女性は「黒水仙」なども書いてますね。大人向けの恋の物語ばかりと思えば、児童に向けた本も書いている人です。

 ジャン・ルノワール。お父さんのオーギュストはあまりにも有名な印象派の画家ですね。動かない絵に関してはお父さんのオーギュストがあまりにも有名ですが、ジャンは動く絵、つまり映画で父と勝負すればお父さんの才能に負けていませんね。「大いなる幻影」や「フレンチ・カンカン」(1954年)などの監督さんでもあります。でもこの人は映画の作り手であり父とは違う芸術家であっても、その作品には父の影響を色濃く受けている気がしますね。この映画は経過がとってもゆったり流れているんですが、そのゆったりさがインドの風景とマッチして絵のようです。絵のような映画ですよ。

 この作品なんかはお父さんの「ラ・グルヌイエールにて」に似てますね。お父さんも「女性大浴女図」など水と登場人物を調和させた絵画作品がいくつかあるので、この映画の製作の源流にはお父さんの作品があったのかもしれません。ちなみに撮影のクロード・ルノワールはオーギュストの三男。ジャンは次男です。長男は俳優ですね。この映画には出てませんが。

 助監督のサタジット・レイ。この人はインドの映画人で後に「大地のうた」「大河のうた」「大樹のうた」の三部作を作ることになる人です。この映画はサタジット・レイの映画人としてのキャリアの始まりとなる映画でもあります。この三部作も観てみたいですねえ。



【あらすじ】

 ガンジス沿岸のとある村にイギリス人の家族が暮らしていた。ある日、近所のお家に戦争から帰還し片足を失ってしまったアメリカ人の若者がやって来る。イギリスの長女はその若者に恋をする。

予告編














【以下全文ネタバレ注意】













↓四行後にネタバレ文あり




― この物語はインドに住むイギリス人家族の長女ハリエット(パトリシア・ウォルターズ)の初恋の物語である、と彼女自身の回想(ジューン・ヒルマン)によって語られる。
 広い河辺、そこに住む人々は地面に砂絵を書いている、そんな日々のおはなし。そして、ハリエットの初恋。初恋というのはありふれたものだが、土地が違ってれば初恋の色も異なることもあるかもしれない。

 ガンジス河のほとりのとある村。ガンジス河はヒマラヤ山脈に積もった雪が溶け、ベンガル湾へと流れていく河なのだ。河には多様な生命があり、魚、カワイルカ、亀、鳥、そして川に生まれ死んでいく人々【※1】。川は泥んこと砂の間を通って水田やジュート畑【※2】も巡る。あらゆる形のジュートが舟によって工場まで運ばれる。舟が岸につくと、労働者たちが荷物を担ぎ、荷物を数えるカウント用の貝殻を港湾労働者に渡し、工場へと運んでいく。その工場の管理人がハリエットの父(エスモンド・ナイト)だ。村の人々はハリエットの父を慕い、村で数千年変わらぬ伝統と共に暮らしてきた。
※1】ガンジスでは火葬してから、遺骨を水葬する。ヒンドゥー教徒はガンジスを“聖なる川”と崇め、それに骨を流されることによって罪を清められ、苦しい輪廻なしに悟りを開けると信じられている。
※2】ジュート:別名コウマ。熱帯や湿地帯でよく育つ麻。導火線、カーペット、麻袋などに使用されることが多い。

 さてこのハリエットの笑い声で溢れ時がそっと過ぎていく家の家族構成を紹介しよう。好奇心旺盛なこの家唯一の男の子でハリエットにとって弟のボギー(リチャード・R・フォスター)は地元の子供のカヌー(ニマイ・バリク)と遊ぶのが好き。そして動かないおもちゃより動きをしてくれる生き物の方が好きだった。ペットのウサギのホピティが大好きな妹ヴィクトリア(セシリア・ウッド)。双子の姉妹のマフィー(ジェーン・ハリス)とマウス(ジェニファー・ハリス)。そして妹エリザベス(ペネロープ・ウィルキンソン)。そして父とまた新しい家族を身籠っている母(ノラ・スウィンバーン)がいた。
 他にも乳母のナン(スプロヴァー・ムケルジー)、毎日遊びに来るジュート工場の所有者の娘バレリー(エイドリアン・コリ)、数人の使用人、かつてはヒンドゥー教徒で兵士であった門番のサジャン・シン(ラム・シン)がいた。

 ある日、アメリカ人のジョン(アーサー・シールズ)の下にいとこのジョン大尉(トーマス・E・ブリーン)がやって来る。ハリエットの家の人たちは彼に興味を示しハリエットもそのジョン大尉を美しい人だ、と惚れる。

 ジョン大尉は戦争で負傷してしまい、片足が義足なのだという。戦争による負傷は英雄扱いされ恩給も増すという。思春期を迎えつつあるハリエットとバレリーは彼にゾッコン。乳母のナンは二人に対し、ジョン大尉をディーワーリー【※3】の日に家のパーティに招待するよう提案する。
※3】ディーワーリー:別名、光の祭り。10月または11月の新月の日に開かれ、期間中は街中でロウソクや照明を灯したり花火をしたりする。

ハリエットは招待の手紙を持って、ジョンの家を訪れる。ジョンの家ではヴィーナ【※4】の音が聞こえており、丁度ジョンの一人娘メラニー(ラーダ)が学校を卒業し帰ってきたのだ。ジョン叔父さんがハリエットとメラニーを家に迎え入れ、家に入るとメラニーの幼馴染で彼女と結婚したがっている地元のお金持ちのお坊ちゃんアニル(トゥリラック・ジェットリー)とジョン大尉がいた。アニルはメラニーを散歩に誘う。ハリエットはジョン大尉に手紙を渡すという目的を果たす。
※4】ヴィーナ:インドの弦楽器。

 ディーワーリーの日。ジョン一家はハリエットらの家を訪れる。ハリエットら女子たちは庭で光る噴出花火に心躍らされていた。バレリーとハリエットはジョン大尉の目を意識していた。

 その日は村中で破壊と創造の女神カーリー・マーが祟られていた。カーリーに捧げ物をしてご機嫌をとり、踊りをして無病息災をお祈りするのだ。

 ハリエットの家ではダンスパーティーが開かれ、家族はダンスに興じる。ジョン大尉の話し相手を頼まれたメラニーだったが、ジョン大尉との会話が盛り上がらない。積極的なバレリーはジョン大尉をダンスに誘い、バルコニーで会話を楽しむ。その姿をハリエットはナンと一緒に茶化しながら見ていて、メラニーは静かに見つめていた。

 翌朝、河の土で作られ塗られたカーリーの偶像はガンジスに流されその役目を終える。川岸でそれを貧富老若男女関係なく村中の人が見守る。

 メラニーは母の形見の民族衣装サリーを着て父を驚かせる。ジョン叔父さんは驚くが、どうもメラニーはジョン大尉に対し不機嫌な様子。

 その後でメラニーはハリエットと愛について語る。クレオパトラのように多くのものから派手に愛されたい、というハリエットに対しメラニーは一人から一途に愛されればそれでいい、という結論だった。メラニーの父のジョン叔父が間に入ってきて将来、アニルと結婚すれば富が手に入る、と説き会いに来たアニルに会え、というがメラニーはどうやらアニルに今は会いたくないようだ。

愛することを無性に気になり始めたハリエットは母に対し、自分が容姿に自身が持てないことを話す。母はこの世に醜い人はおらず、どんな人でも美しいのです、という答えを返す。しかしハリエットは自分はもっと美しくあってジョン大尉に振り向いてほしい、と思うのだった。

 しかしそのジョン大尉はどうやら戦争に駆り出されてから苦悩し自分を見失ってていて小娘の恋心にかまけている余裕はないようだ。ジョン大尉は戦争で片足を失い、英雄扱いされて国に戻ってきた。英雄となったジョン大尉をパレード、星条旗、女たちが迎えたが戦争が終われば彼はただの片足を失った男。彼はそんな哀れな境遇とギャップの違いに耐え切れずインドへやってきたのだ。

 ジョン大尉はジョン叔父さんと哲学的な話をする。ジョン叔父さんは大尉に宿題を出した。
「金門橋に二人の男がいる。ひとりは橋で死んだ。もう一人は水に飛び込み、時間をかけて泳いで渡ったが陸にたどり着いた」
 ジョン大尉も水に飛び込むべきかそうでないか、は自分で答えを出せ、と叔父さんは言うのだった。

 市場ではボギーが蛇使いが笛で操るコブラに興味を示していた。また、ハリエットはジョン大尉が市場をぶらぶらと歩いていくのを追いかける。ハリエットはジョン大尉に自分の存在を印象づけたかった。ハリエットは自分の家に誘い、自作の詩が書かれたノートを読ませる。ジョン大尉の評価は良かったもののそこに現れたバレリーの下へとジョン大尉はさっさと行ってしまい、ハリエットはバレリーに嫉妬する。だが後にハリエットが屋上で凧揚げをしているとジョン大尉が手伝ってくれたので、ハリエットは嬉しい気分になる。

 ボギーはカヌーと一緒に庭の神聖な菩提樹を探索していた。すると彼が欲していた野生のコブラを見つける。どうやらこの菩提樹にコブラがいるようだ。

 ハリエットは河が大好きだった。だからいつも河に関する詩ばかりを書いていた。ここの人々はみな河に肉体的にも精神的にも頼っている。町から河へと続く階段。その階段だけでも多様にあり、人々は町の喧騒を離れ階段で河へと降りていく。ハリエットはその河の詩がジョン大尉を魅了すれば、と願った。シェヘラザードが王様に語った千夜一夜物語のように。

 ハリエットはバレリーと会話を楽しむジョン大尉にクリシュナ賛歌【※5】を書くという。
【※5】クリシュナ賛歌:インド神話の英雄クリシュナへの賛歌を中心に置いて描かれる抒情詩。バル・チャンディーダースによって作られる。

 昔々、小さな村。若妻が母と共に河へ行き、子供を授かるためのお祈りをする。そして生まれたのは女の子。女の子は結婚に持参金がいる。家族は持参金を稼ぐためにあくせく働いた。女の子は家族の仕事を手伝い河の流れのようにすくすく成長する。

 その女の子はメラニーがモデル。女の子はある日、美しい若者に恋するが、しきたりにより父が決めた相手と結婚しなければならない。父に逆らえない女の子。女の子は結婚式を美しくしようと米粉で中庭に絵を書く。

 さて結婚式。女の子は初めて花婿と会う。その花婿は偶然にも女の子が恋した若者だった。女の子は若者との結婚を喜ぶ愛の踊りを踊る。男の子には美しい男の神クリシュナが、女の子にはクリシュナが恋した娘ラーダが宿る。ラーダはクリシュナからの愛の力を受け神となった女性だ。



 その後、女の子は若者の子を授かるように、と河へ母と共に祈りに行く。

 そんな詩を書いたハリエットだが、バレリーはクリシュナ賛歌でも何でもない、と文句を言い、ハリエットの詩が書かれたノートを取り上げてそれを読み上げてからかう。そこにはジョン大尉に対する恋慕ともとれる詩が書いてあったのだ。ハリエットはバレリーからノートを取り返そうとして、ノートでバレリーを叩いたりして喧嘩になる。

 ジョン大尉が仲裁しハリエットは去っていく。バレリーは、らしくないとジョン大尉から責められるが、気にもせずジョン大尉と輪投げで楽しむ。だがその輪投げで遠くに投げた輪を取ろうとしてジョン大尉の義足が外れてしまう。ジョン大尉は恨みをバレリーに吐いて、サジャン・シンに肩を貸してもらって連れられていく。

 どうやらジョン大尉はよそへ去るらしい。落ち込むバレリーとハリエット。ジョン大尉に恋しているからだ、とハリエットの母は言い父は馬鹿げてる、と娘たちの心情を理解していない様子。ナンは好きな人が病気なら、花を持っていくと助言しバレリーとハリエットはジョン大尉に花を持っていこうとする。

 ハリエットがジョンの家に向かう途中、菩提樹でコブラを笛でおびき寄せようとしていたボギーとカヌー。ハリエットは急いでいたので忠告するだけしてジョンの家へ向かった。しかしボギーはその忠告を無視し菩提樹のところで笛を吹いてコブラをおびき寄せる。

 ジョンの家ではジョン大尉がメラニーに自分はなにもかもぶち壊す、と愚痴を話していた。彼は混乱しており両足がある人間の国ではあなたはまともではない、と言うメラニーに掴みかかる。すぐに謝罪したジョン大尉。どうやらメラニーはジョン大尉のことを好きで力になりたいようだ。ジョン大尉もメラニーのことを愛しかけていたが、メラニーは愛の重さを知っており、ジョン大尉が追いかけてくるのを拒絶し逃げるように森の中に入っていく。そんなジョン大尉をハリエット、バレリーも追いかける。

 結局、ジョン大尉はメラニーに追いつけなかった。沈んでいたところに、バレリーがやってくる。ジョン大尉は一度は恨み言を吐いたのに自分を追いかけてきてくれたバレリーとキスをする。それを遠くからメラニーとハリエットが見ており、二人は傷心して帰っていった。そしてバレリーは泣き出す。その涙はジョン大尉との別れではなく、友達がいて、憧れの人が近くにいて、の幸せが終わってしまうことに泣いていたのだ。

 帰ってきたハリエットを母が慰める。ハリエットはこれから、心も体も子供を産むことができる大人の女に変わっていくのだ、子供を産むことは辛いが幸福なことであり愛と似ていると説く。ハリエットはそんなの嫌だ、と大人の女になることを拒絶する。

 しばらく昼寝したハリエット。起きてからボギーがどこにも居ないことに気付く。また、カヌーを見つけるが何故か逃げていってしまった。不安になったハリエットはボギーを探し笛を見つける。森の奥に入ると、コブラに噛まれて死んだボギーを見つけたのだった。

 ボギーの遺体は棺桶に入れられて運ばれていく。悲しそうに見つめるハリエットの家の女子たち。その後、ジョン叔父さんはジョン大尉相手にボギーは幸せだ、と話す。ボギーは子供のまま人生を終え人生の辛苦から逃れることができたのだ、と。大人が子供を学校に押し込め無理矢理に戒律を叩き込ませる。そして大人が戦争に駆り立ててテキの殺戮を強要する。子供は自由に生きる動物らしい生き方をしていて、大人などいなければいい世界になるのだ、と。

 ハリエットはボギーがコブラをおびき寄せようとしていたことを知っていたのに、父に報告しなかった、と自分を責めていた。そして夜遅くに一人で外に出て舟を使って河に出る。ボギーの遺体に会いに行こうとしたのだ。

 ジョン大尉はボギーの死に感慨にふけっていた。メラニーはそんなボギーにアドバイスをする。片足だけの自分が嫌でもそれを認めなければ何にもならない、と。そして人間はいつも不平を訴える生物なのだ、とも。そこへハリエットが居なくなったという知らせが入り、ジョン大尉は急いでハリエットを探しに行く。

 結局、ハリエットは河を彷徨い、漁師の舟に助けられた。ジョン大尉がその舟にやってきてハリエットの話を聞く。死んでしまいたい、と嘆くハリエットにジョン大尉は
「もう一度生きるんだ。色んな出会いと出来事によって人の心は生死を繰り返すんだよ」
 と説く。その言葉に励まされたハリエット。ハリエットはジョン大尉に告白をして、バレリーとおあいこの立場に立ったことを嬉しがる。

時は過ぎて、春。

 村ではヒンドゥーの祭・ホーリー祭が開かれていた。春の訪れを祝い人が人に色粉をかけあうお祭りだ。

 ハリエット、メラニー、バレリーの三人に手紙が届く。アメリカのジョン大尉からで、ジョン大尉が結婚した、という知らせだった。その時ちょうどハリエットの母が子供を出産した。女の子だった。

 今日は赤ちゃんが産まれた。河は流れ地球は回る。朝・昼・夕・夜と巡り一日が終わってまた新たな一日が始まる。







 ジョン大尉の言った生死を繰り返す、それは破壊と創造の神カーリーによる破壊と創造の言い換えともとれますね。破壊が死、創造が生。破壊なくして創造はありえない。破壊創造を繰り返し世界は形成される。肉体というよりは心が死ぬ、変わることで新たな感情が生まれ人間は成長していく。人間も世界も流転を繰り返してるんですよー、っていう考えがこの映画には表れてますね。

 さあこの映画のタイトルは「河」。この映画の河というのはダバダバダバー!!と洪水の時のようにメチャクチャ速い河ではないですね。ゆったりしてます。やっぱりお父さんの描く川みたいに、動いているんだけど、止まっているように見える、そんなゆっくりとした川ですね。この映画は展開も登場人物の活動も基本はゆったりとしています。それはこの村の人々がみな川に依存していることの象徴でもありますね。この作品はインドのある村の人々の生活を描いているようで、その実ガンジスの河を描いているのではないでしょうか。

 三人娘と河の関わりについて。三人娘は、小娘、未熟な人間として描かれています。バレリーは勢いに任せるだけの小娘、ハリエットはかまって欲しい小娘、メラニーはなにもかも知っているように装いながらも、それを理由に前に進むことを恐れる小娘。この娘たちは終盤までは河ではありません。時々立ち止まって、後ろを振り返る。しかし春を迎え成長することで彼女たちは後ろを振り返ることをせず前へひたすら流れていく河となりました。それがこの映画でいう大人への成長という事ではないでしょうか。

 でもこの映画はその成長、河になることを完全に肯定している、とは言えませんね。大人に教わり、子供が大人になるのが人間の本来の持ち合わせるべき動物性から遠ざかることだ、とジョン叔父さんも言ってました。だからこの映画はガンジスの河を描くのが一つ、もう一つは子供から大人になること、つまりは大人(私は大人を河とも言いました)になることについて考えてください、という問題提起的な面もある映画なのではないでしょうか。

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